第10話 性格悪いのも尊い
東都は薬局で色々と買って来てくれたみたい。その中に体温計もあったので熱を計る。
ピピピと体温計が熱を計り終えた合図がしたため、数値を確認。
「38度か」
「高いね」
「いや、今の東都の方が熱が高そうだぞ」
先程の墓穴を掘ったのがまだ尾を引いているのか、顔が真っ赤だ。
つうか、俺の熱もその墓穴のせいの可能性もあるぞ。
「か、勘違いしないでよね。熱い視線って言うのは特別な視線なんだから!」
「ツンデレ下手かっ。そっちのが色々恥ずかしいだろ」
「や、やや、ちがくて……その……」
目をキョロキョロとさせて、あわあわとしている。
「あれだよ。同級生なのに先輩だし、先生だから……」
「特殊な感じ?」
「そう! それそれ! 千田くんを特殊な目で見ているのです」
俺の言葉に助けられたみたい。ホッとため息を吐いていた。
「朝はなにか食べた?」
東都は切り替えるように優しい声色で質問してきてくれる。
「いや、食欲はないから食べてない」
「ちょっとでも食べられない? お薬飲まないと」
「もしかして、作ってくれるのか?」
「もちろん」
こんなかわいい子の料理、食欲がなくても食べないわけにはいかないだろう。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「うん♪ おかゆとおうどん、どっちが良い?」
「おかゆで」
「はーい」
東都は薬局で買ったのか、ビニール袋の中からクマさんのエプロンを取り出した。
なるほど。作る気は満々だったと。
ワンルームの部屋だから布団に寝転がりながら、東都が料理をしている姿が目に入る。
ポニーテールにしてエプロンをしている後ろ姿は、なんだか恋人が看病してくれているみたいで嬉し恥ずかしいって感じ。
「はい、できましたよぉ」
東都がサクッと作ってくれたおかゆをこちらに持って来てくれる。
「うおー。うまそう」
おかゆを美味しそうと感じるのは初めてだ。
こりゃあれだ。美少女補正が入っている。
正直、美少女が作ったもんならなんでも美味しいからな。間違いない。ソースは俺。
「いただきます」
おかゆを口に頬張る。
「ぶっふ!!」
全部出した。
「千田くん!?」
え、いや、待って。
なにこれ!? からっ!? にがっ!? すっぱ!? いや、えぐみが強い!?
この味を表現するならば、病人にトドメをさす味。
なんでこの殺人料理からめちゃくちゃ良い匂いしてたんだよ。あれか? 綺麗な薔薇には棘があるてきな? やかましっ!
「ごほっ! ごほっ!」
「だ、だだ、大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
「えっと、おいしくなかった、かな……」
「うっ……」
学校を抜け出して、色々と買って来てくれて、料理も作ってくれたのに、まずいとか言えない。でも、うまい言い訳が思いつかない。
すると唐突に東都がおかゆを食べてみせる。
「まっず!」
ストレートに言い放った。
「うそでしょ……私、これを千田くんに食べてもらおうと思ったの? 見た目だけじゃん。見た目だけ良くて中身カスじゃん。まるで私みたいじゃん」
「容姿には自信があるんだね、きみ」
「ご、ごめんね千田くん。すぐに作り直すから」
泣きそうな顔をしながらそんなことを言ってくるので、俺はもう一度おかゆを食べる。
「だ、だめだよ! こんなの食べたら千田くんが死んじゃう!」
「と、東都は見た目だけじゃないから」
「え?」
「こうやって、看病してくれる人が見た目だけなわけがないだろ。見た目も中身も、その……綺麗、だから……」
「千田くん……」
「だから、あれだって。その、この料理もカスなんてことは決してないから」
そう言って気合いで食べた。
うん。なんか、東都の料理って考えて食べると案外いけるな。やっぱ美少女は最高のスパイスってか。
「……だ、大丈夫?」
「なんだったら美味しかったまであるね」
そう言ってやると、東都は柔らかく目を細めた。
「千田くんって性格良いよね」
「東都のが性格良いだろ」
「ううん。そんなことないよ。他の人が風邪引いちゃったってどうでも良いけど、千田くんだから看病に来たんだから」
さっきからなんなのこの子。俺の熱を上げに来てんじゃん。こんなんドキドキするだろうが。
「どう? 性格悪いでしょ」
ある意味、病人の熱を上げに来てるから性格悪いかもな。
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