第9話 勝手に墓穴を掘るの尊い

「はっくしゅん!!」


 ボロアパート。ワンルームの部屋に響き渡る俺のくしゃみ。


 はい、ね。風邪を引いたのは東都じゃなくて俺でした。


「風邪なんて久しぶりに引いたな。すずーっ」


 鼻をすすりながら、久方ぶりの関節痛と身体のだるさを感じる。


 一人暮らしになってから、体調にはとにかく気を付けていたんだがな。


 ま、こればっかりは仕方ない。


 東都は大丈夫だろうか。


 なんて彼女を心配しているところで、俺のスマホが震える。


 東都からメッセージが飛んで来た。


『風邪、大丈夫?』


 時刻は朝のホームルームを終えた時間。


 担任の犬川先生には報告してあるため、朝の出欠を取る時にでも俺が風邪だと報告してくれたのだろう。


『久しぶりの関節痛はやばいな』


『関節痛はマジのやつだね。熱は高いの?』


 体温計なんてものはウチにないため、手で自分の額を触ってみる。


 うむ。ぜんっぜんわからん。


 だが、 心配させないために、ここでおふぞけ一つ。


『体温計がないからわからないな。多分、東都が俺を見る時くらいの熱量だと思う』


 だったら平熱じゃーん(笑)


 なんて返ってくるとか思ったけど、彼女からの返信はなかった。


 怒ったのかな、なんて思ったが、普通に一時間目が始まる時間だったわ。


 ここでのスルーはかなりすべった感があるが、仕方ない。


 とりあえず寝るとしよう。



 寝ようとしても身体のだるさと熱さで中々寝付けないでいると、スマホが震え出す。


 東都から返信が来たのかと思ったが、予想外の返信であった。


「電話?」


 まさかの電話。


「もしもし?」


『千田くんの部屋ってどこ!?』


「へ?」


『表札がないからどこに住んでるのかわかんないよ。部屋の番号教えて!』


 全然意味がわからないが、彼女の要望通りに答える。


「205」


『205……あった。ここだね』


 彼女のスマホ越しの声と共に、コンコンコンとノックの音が聞こえてくる。


「へ?」


 間抜けな声を出しながら玄関を開ける。


「東都……?」


 玄関を開けた先には、手にビニール袋を持った東都が立っていた。


「え? あれ? 学校は?」


「そんなの抜け出した来たよ」


「おいおい。ヤンキーかよ」


「だって、めちゃくちゃ熱あるんでしょ? 私のせいで高熱出してるのに、私だけ普通に学校になんていられないよ」


「俺、高熱なんて言ったっけ?」


「言ったよ。ほら」


 そう言いながらスマホを取り出し、俺とのやり取りを見せてくる。


『体温計がないからわからないな。東都が俺を見る時くらいの熱量だと思う』


「これってめちゃくちゃ熱が高いってことだよね? 顔も真っ赤だし、学校抜け出して来て正解だったね」


「あの、東都さんやい」


「なに? 千田くん」


「それってさ、つまり、東都が俺を見る目が相当熱いって意味になるんだが……」


 そう言ってやると、数秒固まったあとに、ボンっと瞬間沸騰した。


「あ、いや、ええっと……」


「俺より熱が上がったっぽいんだが。看病してあげようか?」


「うるさいよ! 私が千田くんを看病するからさっさと布団に入って!!」


 そう言いながら東都が俺の部屋に入った。

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