第6話 運動神経抜群なの尊い

「次の体育は隣のクラスとバスケの試合だね」


 隣の席の東都が立ち上がりながら話しかけてくれた。


「極悪人の千田くんを監視しなくちゃいけないからね。ついでに試合も見てあげるよ」


「その設定気に入ってんの?」


「えへへ。割と気に入ってる」


「気に入ってるならしゃーない。監視されてんなら、ださいところは見せないようにしないと」


「千田くんって運動神経どうなの?」


「並じゃないかな」


「ふぅん。そんなことを言って実は運動音痴な千田くんなのでした」


「勝手なナレーションすんな」


 あははと笑い合う。


「そういう東都は運動神経どうなんだ?」


「私? 私も並くらいじゃないかな」


「俺も極悪人の東都を監視しなくちゃならんからな。試合、見させてもらうぞ」


「あはは。ださいところだけは見られないようにしないと」



 本日の体育は男女共に体育館にて、隣のクラスとのバスケの試合だ。


 体育先に女子からのスタートとなり、男子は端っこで見守ることになった、んだけど──。


「詩音!」


「おっけ!!」


 東都にボールが集まり、華麗なレイアップシュートを決めていた。


「詩音!」


「まかせて!!」


 かと思ったら、スリーポイントシュートも見事に決めやがった。


 カッコ良すぎて尊いわ。


「東都さん。運動神経抜群だね」


 隣で一緒に見ていた大きな筋肉質の体に、爽やかアイドル系の顔をしたアンバランスボディな友人、風見晴人かざみはるとが東都のパフォーマンスを見て呟いた。


「あんなに運動神経良いのに運動部じゃないなんて勿体ないよ。陽から言ってあげなって」


「なんで俺?」


「きみ、最近東都さんと仲良いじゃないか」


「隣の席だからな。よく喋るよ」


「隣の席だからって仲良くなるわけじゃないだろ」


「それは言えてるな」


「もしかして、東都さんに惚れちゃってたり?」


「そう見えるか?」


「陽ってわかりにくいからなぁ」


 俺ってわかりにくいんだ……。


「東都さんはめちゃくちゃモテる。そりゃものすごくモテる」


「へぇ。そうだったんだ。そんな話を聞いたのは初めてだ」


「表向きは西府さいふさんがNo.1にモテるんだろうけど、実際は東都さんの方がモテているんじゃないかな」


「あの見た目でモテないってのがおかしい話か」


「うかうかしてると他の人に取られちゃうよ?」


 晴人の言葉に少し考えてみる。


 彼氏持ちの東都と一緒に秘密の共有。


「それは嫌だな」


「あれ? 陽、まさか本気で──?」


「千田くん」


 いつの間にか女子の試合は終わっていたようで、爽やかな汗を流している東都が俺の前に立っていた。


「監視してた?」


「ああ、してたぞ。つうか、なにが運動神経並だ。上級者レベルじゃねぇかよ」


「私、奥ゆかしい大和撫子だからね。謙虚なんですよ」


「大和撫子はひとりでバスケ無双しねぇよ」


 そう言ってやると、Vっとピースしてきやがる。


「次は私が監視する番だね」


「東都のプレー見せられた後とか絶対に無理だわ。監視はなしということで」


「だめでーす」


「だめかー」


「じっくり監視しまーす」


「ミスしても笑うなよ」


「先に笑っておくね。あははー」


「くそ。笑ったことを後悔させてやらー」


「頑張ってね、千田くん」


「おう」


「なにこのイチャイチャカップルの尊い会話。僕は何を見せられているんだ?」


 その後、東都に遅れを取るわけにはいかず、俺はバスケの試合を無双してやった。


「なんだ、ただの運動神経が良いカップルか」


「晴人。なにか言ったか?」


「んにゃ、なにも。末永く爆発して欲しいだけ」


 物騒な奴だな、おい。

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