第5話 ネコミミメイドが尊い
放課後は東都と一緒にカフェ・プレシャスでバイトだ。
今日も今日とて客入りはあまり良くない。
「陽。最近のウチの売上はよろしくない」
店長の南健太郎さんが、深刻な顔をしてこちらに話かけてくる。
「そうですね。デリバリーも始めたけど、指で数える程しか注文もありませんもんね」
「そこで考えたんだが……」
真面目な顔をして店長は、手に持っていたネコミミを東都に付けてみる。
「みゃ!?」
いきなりネコミミを付けられた東都は、無意識にネコみたいな鳴き声で驚いていた。
「東都さんに、ネコミミメイドになってもらうというのはどうだろうか」
「どうしてまたネコミミメイドなんですか?」
「東都さんの初出勤の時、なんか知らんがお客さんをご主人様と言ったろ」
「言っていましたね」
「無意識にご主人様と言う辺りに彼女のメイドとしての素質を感じてね。ネコミミメイドで客をもぎ取る作戦だ」
「なるほど」
控えめに言って最高な作戦だな。
「ちょ、ちょっと待ってください」
ネコミミをいじりながら、東都が恥ずかしそうに言ってのける。
「て、店長……本当にこれでお仕事をするんですか?」
「もちろん、東都さんが嫌なら無理強いはしない。だが、店としては客を集めるために色々と試行錯誤したいのだが……」
「お店のため……」
東都が上目遣いでこちらを見てくる。
「千田くんは、どう思う?」
「控えめに言って最高」
あ、やばっ。声に出して言っちゃった。
だって、ネコミミ+上目遣いは俺に効く。尊いが過ぎるんよ。
「せ、千田くんがそう言うなら……」
東都はネコミミメイドになる決心を果たしてくれた。
「よし。だったら接客用語も東都さん専用に変えよう」
「私専用ですか?」
「ああ。語尾に『にゃん』を付けるだけの簡単なお仕事だ」
「にゃん!?」
あー、店長が暴走しだしたな。
あまりにも東都のネコミミが似合うから要求がエスカレートしている。
「よし、東都さん。陽に接客してみてくれ」
「は、はい」
東都は俺をチラチラと恥ずかしそうに見ながら意を決して接客してくれる。
「おかえりなさいませ、ご主人様、にゃん」
ネコさんの手を作っておかえりをしてくれるネコミミメイドには尊さしか感じなかった。
「完璧だ。ここに最高のメイドが完成した」
「完璧でしたか?」
「ああ。免許皆伝だ。きみはもう一人前のネコミミメイドだ」
「ありがとうございます」
確かに完璧なネコミミメイドだと思う。
外見の異常なまでの高さに加え、恥じらいを纏い、ご主人様を出迎え、最後はあざとさで落とす。
夢見る男子特化のネコミミメイドは、さぞこの店の看板娘になることだろう。
だがしかし、俺の中で独占欲が働いてしまった。
「でも店長。そもそもお客様が来ないと効果がないのでは?」
「なっ……たし、かに……」
膝から崩れ落ちる店長を横目に東都のネコミミを回収してやる。
「ネコミミメイドは禁止な」
素直に他の人に見られたくないって言えないお年頃。
「もしかして、今の私を他の人には見られたくない、とか?」
うっ、バレてる。
「ここはメイドカフェじゃないからメイドがいたらおかしいだろ」
「ふぅん」
「とにかく禁止だから。ほ、ほら、俺ってば極悪人だろ。これは脅迫だ。そう、脅迫」
「そっか。脅迫か」
「そうそう」
「そうだね。千田くんは極悪人だから脅迫されちゃしかたない。ネコミミは禁止にする」
そう言いながら、ボソッと声を零す。
「私も千田くん以外に見せたくないもん」
「へ……」
カランカランと店のドアが開く音がした。
「あ、お客さんだ」
いらっしゃいませと東都が逃げるようにお客様の接客に向かった。
「ボソッとそんなこと言われるの尊過ぎるだろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます