第3話 舌ぺろはあざと尊い
高校二年になり二ヶ月。
いつまでも名前順の席だったため、本日は朝一で席替えを行うことになった。
ここで千田陽の神引き発動。
窓際の一番後ろの席を確保。
いや、これ、絶対俺ってば神に愛されてるやん。
もう席替えとかしなくていいわー。
「あ、千田くんだ」
聞き覚えのある女の子の声に反応すると、亜麻色の長い髪を耳にかけながら隣の席に座る東都詩音。
バイト禁止の高校でバイトをしていることがバレてしまった相手。
だけど、俺のバイト先でバイトを始めた相手。
ふたりで秘密を共有している相手。
え、まって、なにこの関係性。尊いくない?
「なんか最近、東都とはなにかと縁があんな」
「えへへ。そうだねぇ」
可愛いらしく微笑む彼女の笑顔はどこか小動物っぽかった。
「あ、そうだ」
東都は思い付いたような声を出しながら、スカートのポケットからスマホを取り出した。
「千田くん、連絡先教えてよ」
唐突に言われた言葉の意味を理解すると、嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。
「色々と必要かな、って」
彼女の意味深な言葉の意味を汲み取ることに成功する。
つまり、バイトのことを聞きたいってことだろう。
バイト禁止の学校じゃ声を出してその話題を出すこともできないもんな。
「おっけー」
素直にスマホを取り出し、東都と連絡先の交換をする。
クラスメイト達の何人かがこちらに視線を送ってくるのがわかり、「あのふたりって仲良かったっけ」なんて声がチラホラと聞こえてくる。
ちょっぴり恥ずかしい空気の中、連絡先の交換が終わると、早速と返事が来る。
『バイトのこととか、これで相談させてください』
そんなメッセージと共に可愛らしいハムスターのスタンプが送られる。
やっぱりただ単にそれだけだよな。
ちょっぴり落胆な思いと共に返信しておく。
『ご主人様にお任せあれ』
ちょっとふざけてみると、東都はぷくっと頬を膨らませて怒っていた。
『そんなイジワルする先輩にはバイト以外のことも聞いちゃっうからね』
『バイト以外のことって?』
『それは、まぁ、色々?』
『色々ですか』
『色々なのですよ』
すぐ隣の席だから話せば良いのだろうけど、こうやってすぐ隣でメッセージのやり取りをするの、尊いな。
「こーら」
いきなり女性の声が頭上から聞こえてくる。
ふたりして見上げると、そこには担任の国語教師である
「ふたりとも。とっくに授業は始まってますよ。スマホは没収です」
校則に則り、俺と東都のスマホが没収されてしまい、互いに顔を見合わせた。
「怒られちゃったね」
なにも気にしてなさそうな顔で、軽く舌を出す東都はあざと尊かった。
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