第2話 ご主人様って言われるの尊い

 早速、東都に仕事を教えていく。


「まずは補充だな。ま、俺のやつを見ててくれ」


 口で教えるより、実際に動いて教えた方がわかりやすいだろう。


「はい」


 東都は歯切り良く返事をすると、メモを取り出した。


「キッチンにスプーンとフォーク入れがあるから、セットで何個か用意しておく」


「はい」


「それが終わったら、カウンターやテーブル席にあるペーパーナプキンの補充。ついでに席を拭いたりして掃除」


「はい」


「あとは──」


 教えていると、カランカランと店のドアが開く音がした。


「いらっしゃいませ」


 反射的に声が出して東堂へ言ってやる。


「ちょうど良い。接客も見ててくれ」


「はい」


 お客様のところへ出向く。どうやらひとりでのご来店らしい。


「いらっしゃいませ。おひとり様でしょうか?」


「あとで1人来ます」


「かしこまりました。テーブル席にご案内いたします」


 できる限り丁寧に言ってのけて、お客様をテーブル席に案内する。


 お客様はアイスコーヒーをご所望だったみたいなので、注文を取るとカウンターの奥にいる店長へ注文を渡す。


「アイスコーヒーひとつです」


「おっけー」


 店長がアイスコーヒーを素早く作ってくれると、それをお客様へご提供。


「──とまぁ、これがメインの仕事かな」


「わ、わかりました」


 東都がメモを取っていると、カランカランと続け様にお客様が来店なされた。


「やってみようか」


「は、はい」


 少し不安気な様子だが、大丈夫だろうか。


「え、えとえと……」


 ちょっと焦っている東都。


 しかし、エンジェルスマイルでお客様を出迎えた。


「おかえりなさいませ、ご主人様」


「えへ?」


 いきなりご主人様認定されたお客様が困惑の声を出す。


「東都。ここはメイドカフェじゃなくて普通のカフェだぞ」


「あわっ!」


 ボソリと耳打ちしてやると、あわあわと顔を真っ赤にする。


「も、もも、申し訳、ござ、ござえ、もん、ございません。えと、ええと……」


 焦り過ぎて呂律が回らなくなっている。


「お客様。おひとり様でしょうか?」


「あ、はい」


「カウンター席でもよろしいでしょうか?」


「はい。大丈夫です」


「ご案内致しますね」


 なんとかフォローしてあげたが、先程のが相当恥ずかしかったのだろう。


 東都は顔を真っ赤にしていた。



「おつかれ、東都」


 今日の勤務が終わった。


「お疲れ様です……」


 初出勤で疲れた東都は疲労困憊って感じだ。


 そりゃ、いきなり働くことになったのだから疲れるわな。


「うう……働くって大変なんだね……」


 今日一日を振り返っての言葉なのだろう。


 カップを割ってしまって、それを素手で触り怪我をしそうになっていたりと、色々あったが……。


「最初にしては凄いできてたと思うけどな」


「ほんと?」


「ほんとほんと」


 そう言ってやるとちょっと元気が出たみたい。


「次も頑張ります」


「次もよろしくな」


「はい。よろしくお願いします。ご主人様」


「俺のメイドになりたいの?」


 そう言ったあとに、東都は顔を真っ赤にした。


「や、今のはちがっ」


「同級生なのに後輩でメイドか」


 それはそれで尊いな。


「も、もう。イジワル言わないでよ先輩」


 そうやってむくれる東都も尊いな。

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