第34話君がいなくても過ぎる日々その十二

 年が明けて、俺達はライブハウスデビューの準備を始めた。

 2月に丁度良い企画があるから、出演てみたら?と、楽器屋さんからオススメされた。その企画が“バレンタインデー!女の子優先バンドday”と言う企画で、女の子が所属するバンドだけを集めた企画だった。

 女の子と言っても、プロ志向の強い人達で、ウチのカノミー同様に侮れる人たちでは無いと思う。

 技術的にも、メンタル的にも、恐らく戦闘能力も我々を凌駕しているに違い無い!

 恐ぇ〜っ!

 出演バンドは5つ、1バンド当たりのチケットノルマは20枚と言うことだった。

 チケット代は、1枚 ¥1,500観客はプラス、ドリンクチャージ ¥500と言うことらしい。

 カノミーキックのお陰で、ウチの高校の色ボケ狼共は楽勝で釣れるかと、思ったが!

 全くの、ボウズ、1匹も釣れやしね〜!b

 “バレンタインデー!女の子優先バンドday”と言う事を強調して、他所のバンドのビジュアルクイーン頼みの勧誘で何とか15枚を売り切った。

 カノミーは、独自の組織力で簡単にノルマを達成したらしい。

 悔し過ぎるだろ〜!

 バレンタインディという事で、チョコのプレゼントをカノミーに提案したのだが!

「ウチ、和菓子屋だから〜」

 と、躱されてしまった。

 チョコ饅頭とか有るじゃね〜か?

 嘘つきカノミーめ!

 俺達がデビューする、ライブハウスはカノミーの地元、北上町商店街の端っこにあった。バレンタインディの翌日の土曜日に、俺達の出演る“バレンタインデー!女の子優先バンドday”が開催された。

 スターティング・アクトは、俺達だ。

 軽くノリの良い“Ride on ”から始まり、締めのバラッド“二人が始める物語”まで。

 オリジナル5曲を、途中にノゾキヤローの辿々しいMCを挟んで、持ち時間にちょっと余裕を残して終了した。

 デビューとしては、上出来だ!

 カノミーもニッコリしている!

 バックヤードに下がった俺達の所に、“我等の天使様”エミちゃんが来てくれた! 

「カノミー!皆んなも、とってもクールだったよ!ご苦労様、ハイッ!プレゼント!」

 メンバー全員に、エミちゃん特製のチョコレートが配られた。義理チョコでも、俺、史上最高のプレゼントだ!

 もう、嬉しさしか無い!

 後続バンドの演奏もさすがのものはあったが、俺達も負けちゃいない!

 筈?自信になった。

 高揚感溢れる中、イベントはけて俺達はカノミーの家族から労われ。

 晩御飯をご馳走になって、カノミーの親父さんに俺達の地元まで車で送ってもらった。

 カノミーの親父さんは、菓心さんそっくりの、真四角角だった。 

「甘やかして、育てちゃったから、我儘一杯で迷惑かけるけど、宜しく頼みます」

 と言われて。

「「「いえいえ、こちらこそ、お世話になりっぱなしで、今後とも、宜しくお願いします!」」」

 と返すのが、精一杯だった。




 あの、8月の最終日からもう半年が過ぎようとしている。

 俺は、未だに拓磨とガッコの口づけの場面が忘れられない。

 そして、その時告げられたガッコが拓磨の手によって女にされたと言う事実。あまつさえ、その儀式が俺とガッコがデートした翌日に行われた事!

 ガッコは、次の日に特別の男に身体を開く約束をしながら、前日に俺と出掛けたんだ。

 取るに足らない、哀れな一寸法師と。

 どれ程に、手を伸ばしても届く事のないその右手を繋ぎあって。

 思えば、愚かな事にあの時は未だ引き寄せることができると信じていたんだ。

 その、右手を捕まえられると。

 ガッコと拓磨の間では、覆しようのない決断がなされていたのに。

 そんな事も、知らないまま。

 今更なことを、どれだけ考えたところで何かが変わる訳でもない。そんな事は分かっていての、堂々巡りだ。

 あの二人は、俺にとってどういった存在なのか?

 ガッコは、どうしても忘れる事のできない存在、異性として初めて俺が認め求めた女の子。

 綿菓子みたいに、曖昧で懐かしい暖かくただただ甘く。

 口にして仕舞えば、あっという間に消えてしまう。

 お祭りとかの、特別の日に見かけて今じゃ、手に取る事すら恥ずかしいモノ、いや、手にしたいとも思えないモノ。

 ただ、懐かしい特別な友だち。

 拓磨は?ガッコと切り離せない存在。

 あぁ、分かった。

 拓磨は、割り箸だ。

 綿菓子に刺さった、綿菓子を持っためだけに要るもの。溶ける様に消えてしまう、甘い嬉しさの果てに残った邪魔物。

 だから、どうなんだろう!

 俺は、二度と味わえない甘味を懐かしがり。手に残った、邪魔な物の捨て場所を探している子供なのか?

 ガッコとの3ヶ月は!

 あの、切なく、嬉しかった日々は!

 只、甘いだけの思い出に変わる物なのか?

 そうじゃ無いから苦しい!

 どうすれば、此処から抜け出せるのか?堂々巡りの回廊、壁に囲まれ壁傳に歩き続ける。その先には、薄ぼんやり光る綿菓子みたいな君がいる。

 俺は、如何しても忘れられないみたいだ!

 君も、君に刺さった割り箸の事も!



 3月に入った。

 色々とあった高校の第一学年も、もう直ぐ終わる。

 これから先、振り返った思い出の景色は変わるのだろうか?

 今は、寂しい色だ。

 そんな日々の中で、思わぬ人から声をかけられた。

 真沼凛子まぬまりんこ、所謂トッポイ人達のリーダーだ。

 この人にはヤンキー風のクラスメートに絡まれた時、助けてもらった事がある。

住家すみえちょっと、良い?」 

「えっ、うん、大丈夫だよ」 

「此処じゃ、ちょっと、だから、悪い!顔貸して」

 そう言うと、真沼さんは先に立って歩き出した。屋上まで連れてこられて、私、何かしたのかな?と、不安になっていると。 

「アタシ、学校、止めるんだ」 

「どうして、やめちゃうの?」 

「うん、とね!正確には、転校かなぁ」

「あのね、柄でも無いんだけど、アタシ付き合ってる男がさ、28のおじんで、クソ真面目な人でね。その人が、九州の何処だかに4月から転勤になるって!離れたく無いから、一緒に着いて来てくれって。付き合って、未だ半年もないのに」 

「そんなに、惚れられちゃうなんて、羨ましいな!」  

「まぁ、そ、そんで、アイツがさ、アタシの親にさ。手ぇついて言うわけよ、娘さんを僕にください!間違いなく、幸せにしますって」「親も、アタシがこんなだから。直ぐには、良い返事くれなかったけど。アイツ何度でもうちに来てくれて、仕舞いには泣き出すし親も、そこまで言ってくれるならって」 

「良かったね」 

「うん、でも高校だけは、出してあげてって、言われて。アイツ、忙しい癖にインターネットで調べて、アタシに聞いてくれて!電話してくれて!仕舞いには現地行って書類持って帰ってきて」 

「そうなんだ、頑張り屋さんだね」 

「はぁ〜、ははっ、友達に褒められたって、アイツに言っとくよ!四月には、アイツの名字で、転校生!だから、今月一杯で此処とは、さいなら〜ってね!」

「なんか、あんたには言っておきたくて」「あんた、意外に面白いし、片想いの彼と上手くいく様に、軽く祈っとくよ!じゃあ、ね!」  

「うん!ありがとう、じゃあ、ね!」 

 真沼凛子とは、その後会う事もなかったけど、幸せでいて欲しい。




 お世話になってます、閑古路倫です。最新ランクが来ました。1111位(週間)でした。

 皆さんの、ご協力のもとでの結果、実力を自覚して、ラストまで頑張ります。

 ってことで、「上がるしかねえ」もりこさん!宣伝しましたよ。1111位じゃあ、宣伝にもならんか!一のゾロ目、縁起がいいのか?悪いのか?面白いのだけは確かですね!

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