第24話 君がいなくても過ぎる日々 そのニ

 地域交流会の翌日の日曜日、朝から晴れ渡る青空。

 私の気分にお構いなしに、陽の光が重いまぶたをこじ開ける。

 この一月、泣かなかった日数を数えた方が早いぐらいには、泣いて過ごした。夜中に、タオルで巻いた保冷剤を目蓋に当てるのが日課になった。

 今日は、朝から寧子と出掛ける約束だった。

 ミー君と、同じ様にピアスを着けることにした。

 昨日、ミー君と電話で話したことで決心がついた。ミー君を待ち続ける事の証しに、ミー君が消えた私の右側の耳に、ピアスを着けることにした。

 朝9時半のバスに乗り、この辺りで1番大きな街、ミー君達の通学駅のある街を目指す。

 ピアスも、あの街の駅ビルで買った。あのお店に、聞いてみよう何処でピアスを着けてもらえるのか?

「ガッコ、マー君とはどうなっているの?」

「誰にも、言わないでくれる?」

「分かってる、誰にも言わない」

「マー君には、振られた」

「何で、あんなに尽くしたのに」

「覚悟、決めたんだって目的のためには不必要なモノは捨て去るんだって」

「何それ、ガッコも不必要なの?」

「ミー君とセットで、捨てられちゃった」

「あんた!平気なの?」

「平気じゃ無いけど、思ったより大丈夫みたい」

「ミー君とセットって、ミー君とも微妙だよね」

「ミー君は、マー君との事で傷つけちゃったから」

「もう、会えないかな.....今は、でもね私、判ったのミー君が王子様だって」

「お、王子様ナノ?......ナノカ?」

「あ、勿論、私にとっての、私だけの王子様!チンチクリンで!たよんなくて!生意気で!少しだけ可愛くて!馬鹿ほど優しいの」

「もう、会えないんでしょ?」

「今は、今は会えない.....今だけだよキット」

 目的の駅前に、バスは到着した。

 あの、ピアスをミー君と一緒に買ったジェリーショップを訪れた。

 あの時、対応してくれた店員さんは直ぐに見つかった。事情を話すと、私とミー君のことを、覚えていてくれた。

「ピアスの穴開けは、医療行為になりますので、宜しければ、ウチと提携しているクリニックを紹介いたしますが?そこであれば、本日も営業していますので、直ぐ着けることが出来ますよ。失礼ですが、彼氏君じゃ、無いのかな?あの男の子にも、そのクリニックを紹介いたしました」

 「ええ、彼は友人です。私にも、そのクリニックを紹介して下さい!お願いします」

 私達は、お店を出て紹介された駅ビル内にある、皮膚科のクリニックを訪れた。

 待合室で、寧子と話していると直ぐに私の名前が呼ばれた。

 診察室兼施術室、と言った趣の小部屋に通され、施術用のリクライニングチェアに座らされた。担当の若い看護師さんが、訊いてきた。

「片耳だけに、このピアスを着ける!でいいの?」

「はい、右側の耳に、お願いします」

「余計なこと、聞くけど良いかな?」

「かまいません」

「貴女、今日は、お友達と来たみたいだけど、もう片方は彼氏が持っているの?」

「彼氏じゃぁ、無いです、友達です」

「ふーん、じゃあ余計ついでに教えてあげる。女の子が右耳だけにピアスを着けると、より女らしく!男の子が左耳だけに着けると、より男らしく!二人で片方づつ着けると、二人は強く結ばれる。と言う意味があるそうよ」

 「ふぇっ、そ、そう、なんですか?なんか、恥ずかしい....デス」

 施術は、思ったより簡単に済んだ、痛みもさほどでは無かった。

 看護師さんの話を聞いて、偶然にした二人それぞれの決意表明に!

 ピアスを着けることに!

 あんな別の意味があっただなんて!

 運命じゃん!

 私は、何週間ぶりに心が浮き立って、堪えられない気持になった。



 週末明けの月曜日、昼休みに俺達はいつもの工業高校軽音部室にたむろっていた。

「あの子、俺のピアスの意味、解ってくれてた。ありがとうね!世話になった」

「良いぜ!俺達もデビュー戦飾れたし!」

「そだね、太鼓いると違うねー」

「カノミー、こええけど可愛いぃし!」

「太鼓、上手いよねリズム感良い!」

「脚!長いし細いし色白いし」

「色々、教えてくれるし耳も良いよね!」

「おっぱい小さいけど、お尻大きし」

「ノゾキヤロー!おめーはそればっかか?」

「まぁ、菓心さんの妹とは、思えないねー」

「「「それな、それ、その通り!」」」



 ジュエリー店員と看護師の会話。

「今日来た、女の子、覚えてる?」

「片耳ピアスの子ね!」

「あの子、なんでしょ前に言ってた可愛いカップルって」

「高校生くらいで、一組のピアスをペンダントトップにしてネックレスを贈りあったの!」

「その後、男の子だけで来てピアスにしたいって、なんか痛々しい感じで言うから。あぁ、別れちゃったんだって!」

「左耳の片耳ピアスとか、男らしく強くなるんだって!振られちゃったんだって!そう、思ったの」

「店に来た時の初々しい、胸キュンの二人が、悲しいことに、なっちゃったんだって」

「そう、思っちゃうよね、可哀そうって」

「気になってたから、こんな短い間に何度も会うなんて、常連さんでも無いのに」

「それが、今日になって、あの子が来たのよ!」

「可愛い女の子ね、細くて、小さくて」

「やっぱり、思い詰めた感じで、痛々しい感じなのに、目の光だけが強いの。どうしたのかな?あの子を振ったんじゃ無いの?」

「そう思うよね、男の子の後だもの」

「それで、男の子と同じこと言うから、ちょっと、ときめいちゃった」

「うん、あんまり、思い詰めた感じだから、余計な事とは思ったんだけど。片耳ピアスの話したの、あの男が左耳、女が右耳、二人が片耳づゝするとって話!そしたら、あの娘急に明るい目になったの、はにかんで微笑んで可愛いの」

「きっと、あの男の子と自分の事をその話に重ねたのね」

「若いって、良いね、胸がチクチクしない?」

「する、する、あの子達、上手くいくと良いね!」 

「そうね、きっと、幸せになれるよ!」


 

 俺達は、バンドデビューの打ち上げをするため、チャリンコ三台連ねて学校終わりにカノミーの家を訪ねた。

「よっ、久しぶり!」

 菓心さんが出てきた。菓心さんの家は、お店からちょっと離れていた。

「大学、まだ始まらないんですか?」

「あーっ、10月位まで、夏休み」

「ホントすか?俺も、大学いこーかな?」

「工業系は、短いぞ!」

「んじゃ、俺、文学部?」

「工業高校から行かねーだろ、普通」

「馬鹿はほっといて、カノミー居ます?」

「なんだ、俺の妹に粉かける気か?」

「そんなんじゃ、無いですよ」

「この間の、バンドデビューの打ち上げをしようかと思って」

「おう、ちょっと呼んでっくらあー」

「おーい、菓美、三馬鹿来てんぞ!」

「カノミー、飯喰いに行こーぜ!」

「カノミー、打ち上げ、やろーぜ!」

「カノミー、けつ!でかいぜー」

「だ、誰が、胸ペタケツでか女よ!」

「そこまで、言ってねーぞ!」


 

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