9月26日

@hawk_ichiro

9月26日


誕生日の価値というものは、二十歳を境に、それまでと一転して著しく下降の一途を辿るばかりだ。これは大人が経験する、ある程度の普遍性を備えた真理のうちで、最もちっぽけなものである。実際今日という日は、遠くの方にその姿を捉えたかと思えば、次にふと気付いたときにはすでに私の隣に立っていて、あんまり澄ました顔でいるから、「よお、一年ぶりだな」という挨拶すらも憚られる程だった。ああ、一年前とは違って何だか空虚な誕生日だな、という気付きすらも、ずっと前から知っていたことのように思えてしまったのだ。


そよ風が胸をすり抜けていくような、少し肌寒い虚しさ。


だがどうやら、これこそが私の求める精神状態なのかもしれない。

ただ否応も無く向こうの方から近づいて来て、足音も無く通り過ぎていくだけの、何の価値も無い記念日。私の想像の中で無限の可能性の海に揺蕩っていた私のこれまでと、これからの人生が、生まれた瞬間と死ぬ瞬間とを一本に繋ぐ無機質な直線の上へと座礁してしまう、忌むべき日。そんな日にあって、私の心は高揚していた。


「今こそ、書かねば」



私は経験を求めているのではない。

私は気付きを求めているのではない。


私は「きっかけ」を求めている。


このどうしようもなく平凡で、道端に転がる石ころの如くありふれた私という人間が、それでも思わず筆を取りたくなってしまうような、そんな「きっかけ」を。

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