偽理兄弟のかくしごと
@raito378
第1話 プロローグ
隠し事は、なんでしょうか。
みんな、隠し事はしているものでしょう。本当は嫌いだけど、建前で好きってことにしてる。逆も然り。本当はそんなことあまり知らないけど、話を合わせるために相槌を打つ。逆も然り。
決して気がついて欲しくなくて、きっちりと錠のかけられた、禁断の領域。本人しか立ち入れない、不可侵領域。人は、誰だってそういうものがあるのです。ある程度互いのことを知り合っている仲だと思っていた兄にだって。
海洋研究家の父の研究のために建てられた別荘。海が見える、観光地として有名な駅から徒歩八分。上り坂を昇ったところに、それはありました。
「開いた」
がちゃんっと、決して小気味いいとは言えない音を立てて時代錯誤を感じさせる錠前は外れました。この古びたまるで日記帳に着いているような鍵は、二十歳になった日の朝にポストに入っていました。封筒の中に、ここの地図と一緒に。行くべきかどうか、少し考えましたが、やはり人間、好奇心には抗えぬものです。
私は立て付けの悪いドアを開け、中に入ります。埃とカビの臭いに蒸せつつ、「何年掃除してないんだろう」とボヤきました。どうやら数年単位でここには誰も来ていないようです。そばにあったクロックスにもびっちりと埃が付着しています。
不意に、海風が坂を駆け上り、家に吹き込んできました。積んであった紐で縛ってもいない新聞紙や埃が宙を舞い、私は顔を顰めます。まだ突風が止まないので、立て付けの悪いドアを閉めました。その横に、『開けたら閉めること!』という文字が書かれた紙が貼ってありました。この文字、見覚えがあります。私の兄の文字でした。兄は、一体何を隠していたんだろうか。私はそれが気になって仕方がありませんでした。
「ついにバレちゃったね」
「別にいいんじゃない?隠し事は多すぎると体に悪い」
潮風を浴びながら、坂の上の家を見上げる。ぶわりと、新聞紙が風にまい、バラバラと散らばるのが見える。ふうっと、ブラックコーヒーを飲み込んで息を吐いた。
「それもそれだね。ところであれ渡したの?」
「ちがう。私は先生が戻ってくるまで、決してあそこには入らないし、誰も入らせたくない」
「現に今そこに入られてるんですが」
茶化すように、お姉ちゃんがアイスティーをコロコロとかき混ぜながら笑う。お姉ちゃんだって、理解してるはずだ。あそこに入れる権利を手渡すことが出来るのは、パンドラの箱の鍵を持っているのは、たった一人だって。
「ま、どうせあの人だよね」
「先生が、あの子に隠し事を突き通せるわけが無い」
妹は可愛くないだの、妹は二次元に限るだの言ってたが、何より妹が大事で、妹の笑顔が好きな人だった。
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