アンチ・ヒーロー!

赤佐田那覇摩耶羅羽

-7.昔話


 むかーしむかし、あるところに。

 なんの力もない男の子とお姫様がいました。

 彼はお姫様に向かって、無邪気に言いました。

「ぼくがきみのナイトになってあげる!」

 お姫様はその言葉にとても喜んで、輝くような笑顔で答えました。

「きっとずっと、わたしをまもってね!」

 そう、約束を交わした二人は、これから続く未来に何の疑いも持っていませんでした。


 しかし、二人はまだ何も知らなかったのでした。


 お姫様が攫われた日。

 男の子は、ただその場に立ち尽くすしかできませんでした。

 彼の目の前に広がっていたのは、薄暗い部屋と、すべてを真っ赤に染めた血の海。


 男の子はお姫様を助けられず、ただその姿を見つめるしかなくて。

 無力な自分を呪うこともできず、ただその光景に飲まれていきました。


 彼女は真っ赤に血を浴びながら、なぜか笑っていました。

 その笑みは、まるでこの全てが予定されていたかのように、冷たく、不気味で……恐ろしいものに見えました。

「つぎはちゃんと、やくそくをまもってね?」

 彼女の言葉は、無力な男の子の胸に深く突き刺さり、冷たい鉛のように沈んでいきました。


 男の子はお姫様を守れませんでした。

 彼は勇者でもナイトでもなんでもなかったのです。

 あの日、無力さという重い現実が、その心に深く刻み込まれました。

 彼女が目の前で奪われ、彼はその時、初めて気づいたのです。

『守る』という言葉が、どれほど重く、そして痛ましいものかを。


 それでも、彼は誓いました。

「つぎは、ちゃんとまもるよ」


 その言葉は、彼の心に深く刻まれた最後であり、最初の「契約」でした。

 しかし、それがどれほどの代償を伴うものか、彼はまだ知らなかった。

 その誓いは、彼の運命そのものとなり、逃れることのできない鎖として彼を縛り続けることになり、そして、いつの日か。その誓いの重みが彼を再び引き戻すことになるのです。


 そうして、俺は息を止めた。

 それはいつかの、もう遠い過去の話だ。

 だが、もう二度と間違えるわけにはいかない。

 これは、俺の終焉オメガの物語だ。


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