回復魔法が使えるのが女子だけの世界じゃ、女の子のフリをしないと生きていけない!

傘仔

第1話 手術失敗、死亡、転生

 僕の名前は篠塚しのづかサツキ。

現在、手術中だ。

小さい頃から体が弱かった。

病気のせいで学校にはほとんど行けなかったし、大きな病気にかかって長期の入退院を繰り返すこともあった。

そのせいか、学生時代の楽しい思い出が少ない。

そして、今も病気にかかって手術をすることになった。


 今、僕は人生最大の不幸の中にいる。


「あっ、やべ、麻酔の量ミスっちゃった」


その声が聞こえたのは手術台の上だった。

背筋が凍る思いをしても僕は動けない。


「先生!!患者の心拍数が急速に下がっています。」


「すいません!!麻酔の量を間違えてしまいました!!」


「とりあえず、バイタルサインを安定させろ!」


「ああっ!先生手元が!!」


「ガーゼ!ガーゼ!吸引!吸引!」


一体、僕の首から下で何が起きているというのだ?

恐ろしすぎて知りたくない…

当然手術中なのだから、意識なんかないはずなのに、先生たちの焦る声が聞こえる。

言わずもがなわかる。

手術が失敗しているのがわかる。

ああ、徐々に意識は遠のいていく。

思考がぼやぼやしていく。

とんだヤブ医者に当たってしまったものだ。


 頭の中にふんわりと浮かぶ。

人を健康にしてくれる魔法でもあればよかったのに…

ほら、よく小さい頃妹が見ていたテレビで見たじゃないか。

確か、妹が大好きな女児アニメでやってた。

名前はなんだっけ…

そうだ、『魔法少女⭐︎ミカちゃん』だ。


 可愛らしいコスチュームを纏った女の子が相棒のユキちゃんと一緒に、悪の組織と戦う話だ。

妹が大好きで毎日一緒にミカちゃんとユキちゃんごっこをしたっけ。

確か、ユキちゃんのみんなを元気にする魔法の言葉は

『ユキユキヒーリング♡みんな元気になぁれ!!』

だったかな?


 妹はよく僕にユキちゃん役をやらせた。

懐かしい…


「サツキお兄ちゃんはユキちゃん役ね!」


妹の華奢な声を思い出す。

嫌だと言っても妹にコスチュームを着せられたっけ。

妹と遊べたのはあれが最後なのだ。

本当に『みんな元気になぁれ!!』だな。


「先生!!患者の心配が停止しました!!」


「AED持ってきて!それから心臓マッサージ!!」


ああ、意識が遠のいていく。

朦朧としてきた。

仕方がない。

今更、『みんな元気になぁれ!!』が通用するわけがない。

死を受け入れるしかないのだ。

結局、治癒の魔法なんかこの世に存在しなくて、ミカちゃんもユキちゃんも僕と妹を助けてくれなかたのだ。


 また妹と遊ぶなら、もう一度コスチュームを着ることになるのだろうか。またあの、フリフリとカチューシャを着けるのだろうか。


 ユキちゃんはどんな見た目をしていたっけ。

確か、髪の毛はふわふわのラベンダー色で、目は…


「そうだ、こんな感じの青色……」


 そこにいたのは、ラベンダー色の髪がもふもふした女の子あった。

完璧にユキちゃんというわけではないが、見た目はそっくりである。

よく磨かれた陶器のように真っ白で艶のあるほっぺた。

キュルキュルのまつ毛。

サファイヤみたいな綺麗な瞳。

本当に綺麗な人。

その子はゆったりとしたネグリジェを着て毛布から体を起こしてコチラを見ている。

ちょうど僕と同じ格好だ…


「あれ…?」


僕は右手を挙げた。

その子は真似をする。

ほっぺったを触った。

それも真似をする。

目の前の子は右を見ても、手を挙げても同じ動作。


「嘘でしょ…?」


気づいてしまった。

鏡だ。

間違いなく覗いているものは鏡で、写っているのは僕だ。

こんなにかわいい女の子が僕だというのか?


「そんな…、あぁ…」


響き渡るのは、砂糖のような甘い声。

この声がこの僕の意思を持った体から発せられるのだ。

いったい何が起きているのだろう。

僕はユキちゃんのような美少女になってしまったのだろうか?


それなら、例の違和感を感じてもおかしくないと思うのだが。

(例の違和感とはあれだ。我々の足の間に関係するあの違和感だ。)

僕はネグリジェの中に手を伸ばす。


「……………、ある」


どうやら、この体はかわいい女の子ではないようだ。

立ち上がると、しっとりとした揺らぎが下腹に響く。

なければよかったものが、ある。

今、股座で感じ取っているものは、前の体で生まれた頃から慣れ親しんできた相棒。

そして、手を当てるとそこに膨らみはほとんどない。

胸元は女の子にしては薄いといえる。

あればよかった柔らかみはそこにない。


どうやら、僕は、かわいい男の子になったらしい。



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