〝キラキラネーム〟で悩む生徒の話

梵ぽんず

人の悩みは様々である。

 突然だが、皆様は〝キラキラネーム〟の意味をご存知だろうか?


 私の場合、なんとなく意味は知っていたが、詳しく説明して欲しいと言われたら、なんと説明しようか言葉に詰まり、結局、あやふやな回答しかできなかった。


 改めてネットで調べてみると、「当て字などを使った変わった名前」と表示され、酷い言い方だとDQNネームと言われているらしい。


 解説内容を見て、非常にセンシティブな問題だと、思わず渋い顔になってしまったが、何故、私が〝キラキラネーム〟をエッセイで取り上げたのか? それは自分の名前に本気で悩んでいる生徒から相談を受けた事があったからだ。



 当時、私は学校の事務員として働いていた事があり、中学・高校の事務室に在籍していた。


 教育機関で働いた事がある方は分かると思うが、〝キラキラネーム〟と呼ばれる生徒達の名前を目にする機会が普通の人に比べて多いと思う。実際、私が学生だった頃の年代では見慣れない名前の子供達が数名いた。


 その中でもとりわけ珍しかったのは、漢字一文字で、某有名ブランドの名前が付けられた女子生徒がいた事だった。


 この女子生徒を仮に『ルイヴィトン』と呼ばせて頂こう。


 これを読んでいる読者の方は、こんな名前は役所に通るはずがない! この作者は嘘をついてる! と思うかもしれないが、これは実際にあった話なのだ。


※実際はこの生徒の漢字も読み方も違いますので、あくまでイメージとしてお読み下さいませ。


◇◇◇


「……なぁ、先生は下の名前ってなんて言うん?」


 ロッカーの鍵を借りに学校の事務室を訪れたルイヴィトンは、見るからに元気がなさそうだった。


 ルイヴィトンは中学に入学したばかりのピカピカの一年生で、長い黒髪をポニーテールにした女の子だ。体型は少しぽっちゃり系で、いつもクラスの皆を笑わせるような人気者であるが、普段からロッカーの鍵を忘れてしまう事が多く、事務室に鍵を借りに来る度に私と顔を合わせる為、こうして世間話をする仲になっていた。


「下の名前? 〝ぽんず〟やで」

「そうなんや。普通でええなぁ……」


 俯きがちにポツリと本音を漏らすルイヴィトン

私が「どうしたん?」と聞くと、落ち込んだ様子で悩みを打ち明けてくれた。


「私の名前って、〝輝〟って書いてルイヴィトンって読むやん? 食堂とか友達とかに名前呼ばれたりすると、知らん人が全員私の方を見るねん。その視線がな、ちょっと……。クスクスッて笑う人もおるから、自分の名前が嫌やなって……」


 これは本人にしか分からない辛さである。名前を聞いただけで他人から奇異の目で見られ、喋った事のない人にそんな反応をされるのは、思春期の女の子にとっては辛い事だろう。


ルイヴィトンは自分の名前が嫌やと思ってるんやね?」


 私が聞き返すと、ルイヴィトンは「うん……」と頷き、少し泣きそうな顔になった。


「この前お母さんにな、なんで私の名前をルイヴィトンにしたん? って聞いたらさ。お母さんが愛してるブランドやからやって。ルイヴィトンやったら海外に行っても、皆が知ってるから良いやろって……」


 それを聞いた私はなんと答えたら良いか分からず、苦い顔をしながら困り果ててしまった。


(ぬあぁぁぁぁっ!! お父様、お母様!! もう少し娘の将来を考えて名前をつけてあげて下さいよぉぉぉぉ!!)


 心の中で激しくツッコんでしまったが、最後の砦である役所が受け取ってしまったのだ。ただの一般ピーポーで、地位も権力もない私では何もできず、こうしてルイヴィトンの悩みを聞く事しかできなかった。


「言うてくれてありがとう。これからも悩みがあったら、いつでも聞くからな」

「うん、ありがとう。ぽんず先生」


 結局、話を聞く事しかできず、私は非常に歯痒い思いをした。とても心配していたが、私の思いとは裏腹に、ルイヴィトンはこの悩みを乗り越えたようだった。


「先生! 私な、お婆ちゃんになってもルイヴィトンって呼ばれるん嫌やから、親に言って名前を変えるつもりやねん! 親から付けて貰った名前やけど、変えてええと思う!?」


 いつものようにロッカーの鍵を借りに来たルイヴィトンは、何故か意気揚々としていて、鼻息がいつもよりも荒かった。


 話を聞いてみると、どうやら友達に悩みを打ち明け、名前は変えられると教えてもらったらしい。それを聞いたルイヴィトンは希望に胸を膨らませていたのだった。


 自分の名前について様々な悩みがあると思うが、ルイヴィトンは〝改名する〟事で、悩みを解決しようと決めたようだ。


「よく考えてから決めたら良いと思うよ。私は貴方の決断を尊重するから」と言うと、ルイヴィトンは白い歯を見せて嬉しそうに笑った。

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〝キラキラネーム〟で悩む生徒の話 梵ぽんず @r-mugiboshi

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