テイマーもどきはダンジョンを出られない
虎と狸の蚊は参謀
第1話 ダンジョンの朝は早い
ギルドの朝は早い。朝の6時には開門して深夜の1時までの長丁場です。
私は開門前から並ぶ通称ガチ勢の
ええ、今はコンプライアンスは大事ですから。
「えー、それでは丙種異界洞窟型2号壕、本日の営業を開始します。
ご近所の事も御座いますので皆さまお静かにしてご入場をお願い致します。
まずはご安全に」
粛々と入門してくる探索者の皆さん、毎度の事ながらご協力ありがとうございます。
さぁ、支配人の私の掛け声と共に丙種異界洞窟型2号壕、通称駅前ダンジョンの朝が始まりました。
私たち通称ギルドは、私設公設入り乱れた各ダンジョンでの事務処理一般を行う国からの委託業者のようなものです。
この国ではダンジョン本庁と綽名される異界探索統括庁がダンジョンと呼ばれる各地に発生した異界の管理と探索を司っているんですが、私たちはその下請け、或いは出先とでもいうべきポジションと思われて結構です。
平時ではダンジョンに潜る
申し遅れました、私は当異界のギルドの支配人
かつては乙級探索者パーティー『叡智の極み』でポーターをやっていましたが、とある事情で10年前に探索者を辞めダンジョンの見張り番に転職して今日に至っているのです。
ポーターと言うのは要は荷物持ちです。最低限の武装とパーティーの一切の荷物を抱えた非戦闘員、一番死にたがりな一般人とでも思っていただければ結構かと思います。
剣を振るえる訳で無し魔法を唱えられる訳で無し探索者の中でも最下層に属し、かつては新入りはここから成り上がっていくのが通例となっていました。
今では養成所である程度ジョブを鍛えて何かしら攻撃手段を持ち合わせた者たち同士がパーティーを組んでいきますので、無用の長物のポーターはただ飯喰らいの余剰人員と言う認識が若手を中心に拡がっているのは嘆かわしい限りではありますが・・・実際私も荷物を運ぶ或いは倒したモンスターからの拾得物を回収するくらいしかほとんどやってこなかったのでポーターの地位向上には何の力も無いのが現状ですね。
洞窟型異界の駅前ダンジョンに探索者の第一陣が消えて行くのを近頃めっきり薄くなった頭を下げて見送り事務所に引き上げていきますと、私の娘が暖かいコーヒーを
「いつも気が利くね、ありがとう」
私のこの言葉に彼女は眼を細めて微笑んでくれます。
ここ駅前ダンジョンは、土属性の洞窟型と言う分類にされてまして出て来るモンスターも持ち込まれる物資もほぼ土属性であまり人気があるとは言えません。
ダンジョンで人気があるのは属性で言うなら水属性か火属性、分類で言うなら開放型と呼ばれるタイプで他の火口型、湿地型、迷宮型、洞窟型に比べると例えば超人気の雷属性の迷宮型に潜る探索者の倍の数が水属性の開放型の寂れたと称されるダンジョンに潜っていくなんてデータもありましたっけ。
密封された閉塞感が嫌われるとか諸説あるらしいのですが、私に言わせれば身の丈にあったトコに行くんならどこでもいいじゃないですか。
一生この駅前ダンジョンに縛られ続ける運命の私に比べたら、選べる権利があるだけで最高じゃないですか。
さて、8時を過ぎると
6時の開門から9時までは住み込み組の私たち二人での営業でしたから、これで
申し送りやら注意事項の伝達が済むと、ようやく私たちもお役御免で自由な時間がやってきます。
「ゴンちゃん、いつものデ~ト?」
「勤務中ですよ?ゴンちゃんはよしてください、支配人ですよ。
定期観察の為にちょっと見回りに行くだけですからいいじゃないですか。
・・・おや?ミクちゃんもどうしたんですか?香水が変わったようですが?」
「もぉ、今はあたしのほうが勤務中なんですからミクちゃんはなしですよ~?
ゴンちゃ、じゃないや。
チクったとは言い方が悪いじゃありませんか。
まぁ、隣で微笑む娘に教えてもらった事に間違いはありませんが。
それから私は、さっきから言ってますけど所長ではなく
「チクるも何もあからさま過ぎる変化に反応をしないのでは
もしや新しい恋でも始まりましたか?」
「ブーッ!セクハラ発言禁止です~!
まぁ、外に出られない
また所長って言ってますね・・・時代が変わってきている事は若い探索者を見ていればわかりますからほっといてくださいな。
「とはいえ男運が悪いのに定評があるミクちゃ、柴田さんに変化があったとなると心配したくなるのが年寄りの楽しみ、いえ年長者の
「またミクって言った~、それよか年寄りの楽しみって本音が刺さる~!!」
「柴田さん、いつまでも騒いで無いで仕事に戻りなさい。
「ミクちゃんのせいで
それじゃ正午まで丹羽さんお願いしますね」
それから私は支配人ですとハッキリ釘を刺してから早番のチーフのしっかり者の丹羽さんに敬礼をすると相棒と外に出ます。
外と言ってもこの事務所はダンジョンの内側に作られているのでしっかりダンジョンの中なんですけどね。
私たちと丁度合流するかのようなタイミングで早番組の探索者が入場してきましたね。
最近初級から己級に昇格した
「これから『お散歩』?」
「いつ見ても仲がいいっスね!」
「僕らでよければ2階層まで同行しますよ」
「君たちイケメンと一緒だと私が引き立て役にしかなれないのが残念ですがボッチでいるよりましですかね、よろしくお願いします」
陽気に腕を振る三人に、私は軽口で答え娘は静かに微笑んで同行を了承しました。
今日の散歩は
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