最強切り札と弱小プレイヤー
「え~、これからAブロックとBブロックの第二試合を始めま~す。準備が出来たグループから試合始めてくださ~い」
「よろしくお願いします」
「あ、よ、よろしくお願いします……」
ラフラからの衝撃的な提案を聞いた後、ついに俺の出番がやってくる。
やや焦りながらも席へ着くと、すでに準備を整えていた対戦相手のプレイヤーと挨拶。
こういう場になれてないから、ちょっとキョドってしまった。
恥ずかし……でもカードゲームなんて基本子供か陰キャがメインに遊ぶ物だ。
俺もその内の一人だから、恥ずかしがる必要はないのだがな。
遅れてやってきた分、こちらも急ぎでデッキをシャッフルして準備を整える。
そのセットアップを完了させるまでの間に、俺は先ほどの出来事を振り返っていた──
†
「ファミスピを……お前が!?」
「はい。私が代わりにプレイします!」
その内容は、人だかりの中で思わず声を荒げてしまうほどの物だった。
一瞬大声を出したことに焦り、周囲をキョロキョロと見回して問題ないことを確認すると、再度ラフラに訊ねる。
「お前出来るのか? やらせるやらせない以前にルール知らないだろ?」
「問題ありません! ファミスピのルールは先週行ったお店のテレビで覚えましたし、実際のやり方もシュージさんたちのプレイで確認しました。それについ先ほどそのデッキの使い方も角矢さんから学んだのでプレイするだけなら大丈夫です!」
「ま、マジでか……!?」
自信満々といった様子のラフラ。その表情は自信に満ちあふれたドヤ顔だ。
どうやら先週、いきつけの店のカードコーナーにある広告モニターに流れていたファミスピの初心者向けルール解説動画を見て学んだらしい。
さらに鳥場さんら三人を相手にした試合も観戦して実際の遊び方を確かめていた模様。
事前に大人しくしろと言ったとはいえ、あんまり静かだったから気になってたんだが、まさか裏でファミスピの勉強をしていたとは……。
そういえばラフラは
道理で角矢の説明を真剣に聞いていたわけだ。ここは原作通りの知識欲が出たみたいだな。
「……一応言っとくけど相手は見ず知らずのプレイヤーだ。鳥場さんたちみたいな身内じゃないし、ミスればそこを突かれる。手加減だってしてくれないんだ。遊びだけど遊びとは到底言えない戦いなんだぞ? はっきり言って、お前がやるのは認められない」
だが俺はどうにもその言葉を信用することが出来なかった。
というのも仮にラフラがルールを完璧に覚えているとして、初陣となる相手は本気で勝ちに来てるプレイヤーだ。
普通、初心者は大会にいきなり参加したりしない。
実力は勿論のこと、勝負の経験が圧倒的に不足しているからであり、参加したところで初戦敗退がほとんどだ。
過去の例を見ても初心者がいきなり大会で勝つパターンは、相手が同じ初心者か、自分のデッキは爆回りして相手の引きが悪かったなどの幸運が重なる必要がある。
ましてやカードに触れない以上、実際にデッキを回すのは俺。
この引き運の無さではいくらラフラがやると言っても最悪な並びの手札が来て戦略がおじゃんになる。
どう考えても……負ける未来しか見えない。それが素直な感想だった。
「角矢が間に合ってくれればいいけど、絶対に間に合う確証も無い以上俺が頑張るしかない。経験と知識“は”ある弱者と自信“だけ”ある初心者じゃ……前者が勝つのは当たり前のことなんだ」
「シュージさん……」
ラフラの要求を突っぱねたことは今日までにいくつかあるが、今回ほど静かに、それでいて強く拒絶したことは無い。
分かってる。たかがカードゲームの勝ち負けについてここまで重く受け止める必要は無いってことくらい。
でも、他の奴らと違って俺はラフラやエンバーニアというただのレアカードの言葉で片付けられない存在を知ってしまったんだ。
自意識を持ち、不思議な能力も備える不思議なカード。俺はこの謎を知りたい。
その第一歩とも言えるエンバーニアに出会えたのは千載一遇のチャンスでもある。
だが負ければ俺はエンバーニアを救えない。
当の本人が言っていた。大会で優勝できなきゃ自分を買わさせないと。
その我が儘を突っぱねて購入することは出来る。でもそれは同時にエンバーニアの意志を無視するということだ。
意思を持つカードは持ち主を選ぶ。
そうじゃなきゃラフラやエンバーニアはすでに俺以外の誰かの物になっているはずだろうしな。
無理矢理買ってしまえば俺は拒絶され、知りたいことを訊くことすら出来なくなってしまう。
故にカードだから、俺の所有物だからという理由でラフラたちを蔑ろに扱うつもりは毛頭ない。
本人の意見は尊重するべきだ。意思を持つカードも……なるべく人と同じ扱いを俺はしたい。
何しろ彼女らは人間とそう変わらないのだから。
「……分かりました。ではこうするのはどうでしょうか? 私たちの力を合わせるんです」
「合わせる……?」
俺の拒否に、ラフラからの返答はまさかの新提案だった。
まだ諦めてない!? いやでも、力を合わせるとは一体……?
「お忘れですか? 私の本体はカードですよ。デッキの一部として使えば運を引き寄せられるはずです。そしてシュージさんは私には無い知識で戦略を立て、そのサポートを私がする……一人の力ではなく、二人で戦えばきっと勝てるはずです」
新たな策に俺はついぞ固まってしまうほどの衝撃を受けた。力を合わせるって、そういうこと!?
それなら確かに二人でファミスピをプレイしてることにはなるから、あながち間違いではないな……。
いやでも、それ以前に不正じゃないか? あ、でもラフラは誰にも見えないからバレることはないか。
なら大丈夫かな……? 気になる点も多々あるけど。
「というかデッキの一部って……どうするんだ?」
「私の知識が正しければ、角矢さんからお譲りされたそのデッキと私自身との相性は良いはずです。クラン・ファミリアを私と交換しても問題ないかと」
「なるほど……言われてみれば確かに」
そのアドバイスについ頷いてしまった。あれ、ラフラの奴、本当にファミスピを
事実、角矢作のこのデッキ、光原素と水原素……つまり青白の二色はラフラのカラーとぴったり一致している。
さらにスペルを踏み倒したりするのがコンセプトであるため、能力系統が似ているラフラを入れてもコンボに影響は無い。
むしろ強化さえしてくれる。相性が良いどころか抜群だ。
「どうですか? やってみる価値は十分にあると思います」
「……そうだな。悪くないかもしれない」
「それじゃあ……!」
「ああ、どうせ負ける時は負けるんだ。勝つ可能性が1%でも増えるなら、その案に乗る。絶対に勝つぞ」
「はい!」
渋りに渋った末に、俺はラフラの提案を呑むことに決めた。
自身の意見が通り、喜ぶ推しの姿を横目に俺はネックレスよろしく首から提げているカードローダーを出す。
推しのラフラは常にこうして携帯している。
まぁ本来は決して良いとは言えない行為だが、意思持つカード相手なら仕方ない。
カードローダーのロックを解き、中から一枚の推しを取り出す。
そして貰ったデッキのクラン・ファミリアとラフラを交換すると俺……いや、俺たちは急ぐ。
「行くぞラフラ。この試合、二人で勝とうぜ」
「勿論です! 絶対に勝ちますよ~!」
こうして、俺たちは推しと一般コレクターという肩書きから、最強切り札と弱小プレイヤーとなる。
大会の第二試合はもう始まる。遅れて不戦勝を譲る前に人波をかき分けて席に着かなければ。
†
……ということがあった。
つまるところ俺はラフラをデッキに入れつつ、裏からサポートを受けながら試合をするということになる。
多少のズルさは否めないが、なぁに端から見れば何にも変わらない。ただの独り言の多い奴になるだけだ。
依然として緊張はしているが、クラン・ファミリアとしてテーブルの脇に裏向き状態となっているラフラがいる。
試合開始と同時にこれを開示することで、カラーライフの設定とそのご尊顔を拝むことが出来る。そして──
『シュージさん、大丈夫です。緊張しているのは私も同じですから。勝ち負けも大事ですが、楽しむことも大事だと思います』
「……そうか、そうだよな。ゲームは楽しむのが一番だったな」
テレパシーでの会話。俺はつい口頭でそれを言い溢してしまう。
俺には本物のラフラがついている。他の誰も持っていない、俺だけのスペシャルな特権が。
そいつがそう言うんだ。楽しまなきゃ損だよな!
さぁ、デッキのシャッフルは終わった。アプリのライフカウンターの起動も確認!
デッキトップから手札となるカードを六枚引いて準備完了だ!
「じゃあ準備完了したんで試合開始で……。最初はグー!」
「ジャン、ケン────!」
セットアップ完了と同時に試合の開始を宣言────その始まりは神聖で厳粛なジャンケン!
お互いに握りこぶしの開示から始まり、次の一手で先攻と後攻が決まる。
カードゲームにおいて、先攻の取得は勝利に直結すると言っても過言じゃない。
当然狙うのは──先攻! 戦いは始まる前から始まってんだ!
「ポン!」
俺たちの────全てを込めて勝ち上がらなければならない戦いの火蓋が切って落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます