偶然の再会、必然の邂逅

「くそっ、あいつどこに行きやがった?」



 謎のストーカーの再出現という出来事に遭遇した俺たちは、そいつを逆に追ってみることにした。


 今までつけてたんだから、こっちが追っても問題はないよなぁ?

 絶対に曝いてその顔を拝んでやる! ……という意気込みは持っているけど、早速躓いている。


 あの野郎、逃げ足が速い。エンバーニアと別れてから店内をあちこち見て回ったがもう姿を見失った。


「なんちゅー逃げ足だ。ラフラ、探知系のスペルとかないのか?」

「あるにはありますけど……犯人個人を特定できる情報をほとんど持っていないので、難しいと思います」

「ううむ、今回ばかりはアテに出来ないか……」


 だそうだ。基本全能のスペルもそう都合の良い使い方は出来ないってことらしい。


 こういう時にエンバーニアの眷属を使役する能力が役に立ちそうだよな。何というか絶妙に惜しいぜ。


「ううむ、一度角矢の所を見に行って見るか。あいつは角矢狙いかもしれなかいからな、近くにいるかもしれない」

「もし見つけたらスペルで犯人にマーキングを付けておきますね」


 ここで一度視点を変え、角矢の様子を窺うことに。

 奴は遊園地では何も行動を起こすことはなかったが、ここでも同じく黙ったままでいるとは限らない。


 恐らく先ほど俺の様子を窺っていたのは、邪魔者になりえる俺の所在を確認しに来ていたと考えられる。


 いくらカードゲーマーたちがいるとはいえ、所詮は烏合の衆。

 あの体格なら多少強引な手法で角矢をどうにかしようと思えば出来るはずだ。


「あいつのサプライズってのも気になるしな……どれ、こっそり見てみるか」


 早速俺たちはショーケースのコーナーからカードコーナーの付近へ移動。

 多くのカードゲーマーが集っているのが見える中、肝心の角矢を発見した。



「ふふん、ふんふ~……お、見っけた。ふぅ、あと一枚か。大会までに見つけられるかな?」



「一応無事ではあるみたいだな」

「普通にカードストレージを見てるだけのようですね」


 視界の先にいる角矢は、鼻歌を歌いつつカード漁りをしている。

 何か欲しい物でもあるんだろう。結構な枚数のカード束を回収しているみたいだ。


 取りあえず目視で無事を確認。周囲にも目を配る。

 不審者らしき人影はいない──衣服にまで気を使わない服装ばかりの奴らが多くて逆に怪しいと思えるけどな。


 もっとも俺も人のことを言える立場ではないけど……。

 それはさておき犯人はどこだ? まさか本当にいないのか?


「上下黒い服装ってのは覚えてるんだけど、あんまり似た感じの人はいないな。黒いズボン履いてる奴はそこそこいるけど」

「うーん、全員が怪しく見えますね。これではどうしようもありませんよ」


 犯人にマーキングを付けると意気込んでいたラフラも、これにはお手上げの模様。


 まさか角矢を狙っているわけではないのか?

 ここの人口密集度的に強行作戦が取りづらいのが原因? そうだとすればなんて慎重なんだ。


「相手は随分な慎重派みたいだ。まったく足取りが掴めない」

「だからと言ってお店の中を無意味に歩き続けるわけにはいきませんしね」

「ああ。どーすっかな……」


 まだ完全にそうと決まったわけではないが、犯人を取り逃がしてしまったかもしれない。

 相手が一枚上手だったか……! 野郎、舐めた真似しやがるぜ。


 現状の敗北に何となく悔しい気持ちになる。

 探偵を気取るつもりは毛頭無いが、普段の生活ではきっと起こりえない出来事だったから、少し躍起になっていたようだ。


 気になる……奴は一体何者だったんだろうか……?

 そんなことを考えながらカードコーナー付近から離れた──その時だ。



「よ、束上。やっぱここに居たんだな」



「……え!? な、鳥場さん!?」


 不意に呼びかけられ、振り向くとそこには見慣れた巨漢が!


 その人物を見て俺は今朝の一件をリフレインさせ、一瞬キョドってしまった。

 鳥場才蔵さん……! 何であんたが……!?


「ど、どうしてここに……?」

「何だよ。俺は穴唐や瀞磨と違って今日用事なんか無いからな。様子見ついでにここへ来てみたんだよ」


 俺からの問いに鳥場さんは目的をあっさり話す。

 言われてみれば一週間前の話し合いの時でも、他の二人のように何かしらの用事があるからとは言ってなかった気が。


 俺かあるいは角矢……いや、大会に出るのは角矢だから、そっちを目的に来たんだろうな。


「な、なんだ……脅かさないでくださいよ。超ビビった……」

「ガハハ、悪い悪い。あ、そうだ、今更だけど朝の件はあんま気にすんなよ。俺とて多少大人げないことをした自覚はある。脅かすようなこと言って悪かったな」


 すると、意外なことに未だ恐々とする俺へ、鳥場さんが今朝の一件について謝罪をする。


 これには俺もきょとんとせざるを得ない。だってそうだろう?

 うっすら気にしていたことを、予想だにもしないタイミングで謝罪してきたんだからな。


 隣のラフラも突然の出来事に思わず無反応だ。

 それは俺も同じこと──でも、すぐに言葉の意味を理解する。


「いえ、良いんですよ。正直あれはかなりビビりましたけど……」

「そうか、許してくれるか。ありがとな」


 非礼を詫びる相手には許しを与えるのが常識。俺が鳥場さんからの謝罪を受け入れるのは必然だ。


 角矢が俺とのデートに鳥場さんのチケットを使ったことを、正直負い目に感じていたからな。


 鳥場さんが角矢に対してどんな気持ちを抱いているのかを知っているから、申し訳ない気持ちで一杯だったんだ。


 でもこうして許しを得られたのなら俺から言うことはない。

 良かった、普通にまだ友達でいられるんだ。それだけで俺は心が晴れやかになる。


「……じゃ、大会頑張れよ。お前の欲しい物が手に入ることを祈ってるぜ……まぁ実際にプレイするのは角矢だけどな! ガハハ」

「ぐぅっ……!? そ、そこに触れるのは卑怯ですよ……!」


 最後、鳥場さんとの別れ際に痛いとこを突かれてしまった。

 ううむ、俺じゃ勝てないから代行を頼んだのは、実はちょっとズルかったなと反省してはいるんだぜ。


 本当はちょっぴりまだ恨んでるだろ! そう考えを改めさせるには十分な一言だ。


「すぅ──……はぁ、よし。ラフラ、犯人捜しは止めるか」

「止めちゃうんですか?」

「ああ。どうせ見つかる前に試合が始まるだろうしな。適当に店ん中ほっつき歩こうぜ」


 笑いながら漫画のコーナーのある方へ去る鳥場さんを見送ると、俺は軽く深呼吸する。


 落ち着きを取り戻した俺は、犯人を捕まえるという目標をキャンセルすることにした。

 少しだけ驚きを見せるラフラ。でも良いんだ。そんなこと気にしてても意味ないからな。


 つーか仮に捕まえたとしてもどうするってんだ。下手に関わるとどうなるか分からんしな。


「そうだ。向こうの雑貨コーナーに行ってみようぜ。何か良いのあるかもよ」

「うーん、そうですね。では行ってみましょう!」


 犯人捜しの代わりは雑貨品を眺めることにしよう。

 ラフラも簡単に乗ってくれて助かる。そういう素直なところは好きだぜ。


 一体どんなガラクタがあるんだろうな。こういうの見るの、実は結構好きなんだぜ。

 そんなわけで雑貨コーナーへ俺たちは駆け足で向かって行った。











「……俺がここに来た理由、本当は分かってるんだろ? 悪いけどお前の願いは俺が阻止させてもらうからな、束上……!」

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