ラブ~愛欲の産みし業~

かわくや

とある追憶

ガチャ

 

「……来た」

 

 遠くで鳴ったドアの音を聞いて思わずそう呟いた。

 

「そうそう、今日家に誰も居なくてさぁ」

 

 それに続くのは粘つくような甘ったるい声と二つの足音。

 その音源がこちらに近づくと、隠れている扉がぶつかったかのような衝撃を訴えて軋んだ。

 あぁ、大人しくしてろってことだろうな

 漠然とそう理解すると、途端に腹が立ってきた。

 ……何で俺がてめぇの都合に合わせなきゃなんねぇんだ。

 そんなに俺が邪魔なら養子になり何なり出しゃ良いだろ。

 

「……クソッ」

 

 思わず呟いた怨嗟の声は物置の狭い壁にぶつかって落ちるだけだった。


 

 それから少しして。

 俺が恨み節のループから抜け出す頃には、外から聞こえる互いにからかい合うような声はいつしか水音を伴い、嬌声を孕んだ物へと変わっていた。

 それに確かな嫌悪を覚えつつ、ヘッドフォンを頭にはめる。

 瞬間、知覚したくない物だらけの世界が少し遠退いた。

 次にスマホを取り出し、音楽をかける。

 意味のない歌詞と共に軽快なメロディが頭の中で溢れ出した。

 最後にそっと目を閉じる。

 これで俺はこの世界に一人。

 住む世界が違うんだからわざわざ関わり合いになることもないだろう。

 自分にそう言い聞かせて何も見えないフリをする。

 何も聞こえないフリをする。

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