四話 侍従は騎士団で!①
蒸気自動車に揺られてチマがやってきたのは、そう学校である。あまり乗り気はしなかったものの、気の迷いから一度登校してしまった事を理由に、シェオが
車輌を停めて玄関口に向かえば、先日にレベル上げを共にしたリンが待っており。
(二人共、圧が強いのよね…)
気圧されながら挨拶を交わしていく。
「おはよう、リン」
「おはようございます、チマ様、シェオさん、ビャスさん」
「はい、おはようございます」「お、おはようございますっ」
こうして友人と挨拶を交わせることは嬉しいようで、「あの日に登校しなければ」と思えないことが、なんともいえない表情を作り出す原因となっている。
「ではビャス、今日はお嬢様をお願いしますね」
「は、はいっ!」
「あら、シェオは何処かにお出かけかしら?」
「登城して騎士団の方へ顔を出すようにと」
「そういうね。この前に会ったばかりだけど、
「承知しています。それでは授業が終わる頃には間に合わせますので。お嬢様とビャスの事をお願いしますね、リン様」
「はい、任されました」
丁寧に腰を折りお辞儀をしてからシェオは
「シェオさんって騎士も兼任しているのですか?」
「年齢に対してレベルが高いし実力を十分だから、騎士の修練に加わっているんだって。実際の様子は見たこと無いけれど」
(シェオが登城するなら今日は休んでても…、そうなるとリンが待ちぼうけになっちゃったわけだし。…なんか休み難い雰囲気を作られている気がするわ…)
「…。ビャス、そんな肩肘張らなくても大丈夫よ」
「…っ。」
コクリと
「そういえばチマ様ってシェオさんと仲が良いじゃないですか、
「アゲセンベ家に仕えるのは七年前からよ、お父様が孤児院から雇ってね。働き者でスキルも多く優秀、時折
「それで直ぐにチマ様の侍従に?」
「二年くらいしてからだったかしら。色んなお稽古の合間に遊んでくれて、一緒にスキルを習得しようと協力もしてくれたから、私がお父様に言って侍従にしてもらったの」
「なるほど〜」
「私にとって、なくてはならない存在なのよ、シェオは」
誇らしげなチマは胸を張り廊下を進んでいく。
(色恋とかじゃなくて、主従の信頼って感じなんだ。シェオさんは強いし、物語が進行した際に起こる彼是に対処するため、チマ様の近くにいてほしいけど。…今日みたいに護衛を離れる可能性は考慮しとかないと)
(そういえばシェオなしで屋敷外を出歩くのって、小さい頃以来よね。早く戻ってこないかしら)
チマにとっての退屈な時間が始まろうとしていた。
―――
シェオが向かったのは王城の一角にある第六騎士団の詰所。ここは数年前に新設された、市井出身者や家格の低い者が多く所属する騎士団で、日夜有事に備えて騎士たちが鍛錬を行っている場所でもある。
施設は第三騎士団から明け渡されたお古で、味のある佇まい。有り体に言えば襤褸く、所々に手直しされた箇所も。
「アゲセンベ家に仕えているキャラメ・シェオです」
「まあこんにちはシェオさん。ちょっとご無沙汰だったんじゃない?」
受付に構えていたのは、ふっくらとした体型の女性で憎めない笑顔を咲かせている。
「ある程度レベルも上がって、修練に加わる必要もなくなってきまして。少しばかりアゲセンベ家の職務を主としていました」
「じゃあ今日は別の用事が?」
「いえ、修練に。レベルが少し上がったということもあって、スキルの慣らしなんかをしておきたかったんです」
「
「感謝します。それと手土産を、皆さんと召し上がってください」
「毎度ありがとうねぇ。…はい、入所許可証。回復魔法を使用できる騎士もいるけれど、怪我には気をつけてね」
「はい、それでは」
白い手袋を着用したシェオが向かうのは勿論修練場、足を踏み入れれば騎士の面々が身体を技を鍛えており、初夏の熱気と彼らの活気が共に肌へと纏わりつくようではないか。
「ん?おお、シェオ!こっちに顔出すなんて、へぶっ!」
「鍛錬中に他所見をしない」
「はいっ!」
顔面に一撃をもらったディンは、自身の顔に回復魔法を使いながら改めてディンへと向き直る。
「ご無沙汰ですねシェオ。先日にゲッペの穢遺地に出向いていたと伺いましたが、それに関連することでの来訪ですか?」
「半らそんなところです、ユーベシ副団長。レベルが上がりスキルを習得しましたので、その慣らしをしておきたくて」
「そういうことでしたか、構いませんよ。ではこの後は模擬戦にでもしましょうか」
(シェオのレベルは、確か…40半ばだったのがいくらか前。先程で報告をしていない以上、現在値の隠蔽を図っているのでしょうね。…となると50後半まで上がり、公にしたくないと考えるのが妥当。どう組み合わせに)
(ユーベシ副団長なら、今回レベルの報告をしなかったことに気がついて、こちらのレベルを高く見積もるはず。…、スキルポイントだけであれば100超え、だからこそそれに伴った技能がなければ、十分にお嬢様の役には立てない)
元が低かったのが原因とはいえ、ビャスのそれは実力が伴ったものではなく、ややスキルに振り回されている印象があった。シェオはその事を考慮して、自身を鍛えるために騎士団へ足を運んだのである。
「そういえばアゲセンベ家の雇われたっていう、もう一人の方は連れてきていないのか?ゲッペで戦えるなら、ここでもいい修練になると思うんだが」
「お嬢様は今、学校の授業中です。二人同時に護衛を離れるわけにいきませんので、…時期を見計らって連れてきますよ」
「学校なら危ないこともないと思うんだがな」
「三〇年ほど前に伯爵家のご子息が暗殺されたのは学校でしたよ、ディン。騎士として国仕えるのなら、そういった事件を把握する必要があります。実際にそれ以降は学校側が警備を雇い、王族及び一部の高位貴族のご子息ご令嬢が通う際には第二か第四が警護に加わっているのです。配置換えがあった場合、他人事ではありませんのでしっかりと記憶しておくように。いいですか?」
「は、はいっ!」
「
「「「はいっ!」」」
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