二話 主人公は突然!

(今日も登校してこない?意味わからない、どういうことなの??)

 王立第一高等教育学校。王族や貴族の、入学試験を突破できた者だけが通える格式高い学びの園にて、一人の少女が険しい顔をして一つの空席を睨めつける。

 彼女はブルード・リン。ブルード男爵だんしゃく家の養子として迎えられた、市井しせい出身の成績優秀者。入学時の筆記試験は次席であり、成績を落とすことなく卒業できるのであれば、王城での官職にも就くことができる逸材と目されている一人。

 そんなリンが何故に空席を睨めつけているかといえば、チマが不登校となり人生設計が大きく破綻してしまったことに起因する。

 ブルード・リンという存在は、この世界にいては主人公ヒロインと呼べる存在であった。本来であればチマと出会い友情を育んては、彼女の人間関係に影響を受け、多くの貴族と校友を結び、攻略対象の異性と結ばれる乙女ゲームの主人公なのだ。

 この世に生を受けた瞬間に、自身が異世界から転生したことを悟った彼女は、育つ過程で周辺の情報をできるだけ集めていき、自身が生前に遊んでいたゲームの舞台、ドゥルッチェ王国の『リン』に生まれたのだと確信。ならばと、前世の知恵を活かして入学試験を突破、ブルード家の養女となれるよう努力し、教材や学費をブルード家に面倒を見てもらい晴れて入学することが叶った。あとは入学初日にスチルで見たことのある場所で待っていれば、チマが現れて友情を育めるのだと思っていた。

 しかし現実はゲームとは異なっており、「アゲセンベ・チマはスキルが一つしかない」「王族として生まれた恥さらし」「入学時の成績は陛下に願って改竄かいざんした」という陰口を言われおり早退、それ以降は学校に来ていない。

(わかる、陰口とか言われるのは辛いよね、あたしもちょっと経験ある…。でもさ、アゲセンベ・チマでしょ?!そんなんでくじけるような、キャラじゃないでしょうに!作中では所持スキルが一切明かされず、設定資料集ファンブックにたった一つのスキルだけで頂点に君臨した最強だったはずでしょ!なんでなの~)

 そう、チマはゲームのラスボスで悪役として散っていく。そして、どのルートでも市井から出てきて心細い思いをしている主人公を支えてくれる、親友でもあるのだ。

(というかどうしてスキルが一つしかない、なんてバレているの?チマがあたしと同類転生者で、どこかでヘマをしたとか?あー、もうわかんない。というかこの世界、なんか可怪しいしさ!デュロ殿下の護衛にいるはずのバァニー・シェオはいないし、アゲセンベ・レィエは王座を狙う王弟だった筈なのに公爵の地位に下って宰相になっているし、チマは不登校!!このままだとストーリーがめちゃくちゃなんだけども~!)

 心の内から噴火しそうになる思いを抑え込み、勉学面で置いていかれぬよう板書を写しながら授業を受ける。


 リンは学校に友達と呼べる相手がいない。本来であればチマが橋渡し役になってくれるはずのチマが不登校となり、リンはリンなりに頑張ってみたのだが、出身が市井ということ、そして出出でだしをチマに頼ろうと画策していたために出遅れてしまったことが主な要因だ。会話の種になりそうな流行り物をある程度押さえてはいたものの、浅く広くでしか知識を得ていなかったことを看破され、浅ましい市井出身者と烙印らくいんされてしまっていた。

(もうどうしよう。これじゃあノーマルエンドにもいけないし、…そうなったらチマを救うことは出来なくなっちゃう。隠しキャラルートに進む予定だけど、今の仲間が誰もいない状態でラスボスを倒せるの?う~ん、…厳しいかも)

 昼休みに学校の片隅で、一人寂しく昼食を突いていたリンは、物陰から恐る恐るといった様子で歩いている夜眼族やがんぞくの少女を見かけて、口に運びかけていたサンドイッチを落とす。

「お嬢様、そんなおっかなビックリ移動しなくても大丈夫ですよ。夜眼族はお嬢様しかいないので、いずれバレます」

「っ、なにかあったら護ります、お嬢様」

 そう、アゲセンベ公爵にして宰相のレィエが娘チマと、護衛のシェオとビャスである。

「アゲセンベ・チマ?!」

「ひぇ、誰よ貴女?!」

 びくりと肩を揺らし、眼にも留まらぬ勢いで跳び退いたチマは警戒心を露わに、嫌そうな表情でリンへと視線を向けた。そして、それと同時に二人の護衛は獲物を手にして。二人の間に立ちはだかったのだ。

攻略対象ヒーローのバァニー・シェオと、隠しキャラのティラミ・ビャスまで?!どういう状況なの!?)

「申し訳ございません。私はブルード男爵の養女、リン。今年の次席入学者であり、首席入学者であるアゲセンベ・チマ様をお見かけし驚きの声を上げてしまいました。ご容赦をいただければ幸いです」

「そういうこと。はぁ…驚いた。二人共いいわ、構えを解きなさい」

「「はっ」」

「その、…普段登校してこない相手を見かけても、大声で名前を叫んでは駄目よ。驚いてしまうから」

「以後気をつけます」

「よろしい。では今回の件は不問よ、誰も見てなくて良かったわね」

「寛大なお心に感謝を」

 一度礼をして視線を上げれば、リンが生前にゲームの立ち絵でみたご令嬢の姿がそこにあり、そして何故が主人公が攻略する筈の相手が二人侍っている。

(次席で養女、確か市井出身の人よね。私が首席だからって敵対心燃やしてたり、…しないといいのだけど…)

(すっっご、本物のチマだ。状況はわからないけど、あたしを見て変わった反応をしてない所から推測するに、…同類じゃないのかな?…どうしよっか、ここで橋頭堡きょうとうほを失ったら確実に詰みな気がするし、意地でも交友関係を持たないと)

「アゲセンベ・チマ様はどうして今まで登校をなさらなかったのですか?」

「ぐっ」

(いきなり過ぎた~!?気になってしょうがなかったけど、もっと当たり障りない話題でいくべきだった、絶対に!)

「し、失礼な質問をしてしまい、申し訳ございません!」

「…別に大したことではないのよ。私は王家の血を引いているのにも関わらず、スキルを一つしか持たない…出来損ない。なんて陰口を叩かれ、宰相をする父や歴代の先祖様方の顔に泥を塗る存在となってしまったことが恥ずかしかったのよ。勉強に武術、楽器に芸術に色々と試してみたけれど、スキルを取得することが出来ず、恥じるばかり。諦めずに挑んではいるものの、レベルを上げようとも変化がなく、この歳まで過ごしてきたの」

 完全にしおれた風のチマは膝を抱えて小さくなり、言葉を支えながら励まそうとするビャスと、今日はもう無理かとシェオは諦めかけていた。

「そんな、恥じることはありません、アゲセンベ・チマ様!貴女は入学時の筆記試験は『学問』スキルを持っている私を差し置いて首席を取り、入学式には生徒代表に選ばれ堂々たる挨拶をなさっていたではありませんか」

(あたしは知ってる。リンが市井出身だろうとお構いなしに話しかけ、攻略対象のことで相談すれば親身に悩んでくれ、…そして、統魔族とうまぞくの闇に飲まれラスボスとなってしまった後も、主人公たちに自身ごと討たせるため抵抗し隙を作った事を)

「私は、そんなアゲセンベ・チマ様を尊敬しています!陰口なんて気にせず、学校での生活を一緒に楽しみませんか?」

「ッ!」

 眼を丸くし尻尾を立てたチマは、少しの間硬直したまま動かずいて、一人オロオロと動き回ってはリンへ向き直った。

「私と、…お友達になってくれるということかしら?」

「え?」

「え?違うの?!」

「違わないです違わない!お友達になりましょう!」

「そう、よろしく。……シェオ、シェオ、友達ができたわよ」

「良かったですね、お嬢様」「っ、おおおめでとうございます、お嬢様」

 拍手する二人に祝福されて、チマは尻尾を揺らしながら嬉しそうな笑顔を見せていた。


(バァニー・シェオ、じゃなくてキャラメ・シェオは孤児院出身?ゲームだと宰相、いや今はアゲセンベ・レィエが宰相だから、政務官のバァニー伯爵の庶子で母親が亡くなると同時に養子として引き取られ、デュロの護衛として侍っていたはず。…宰相傘下であることは変わらないけれど、かなりの変化点だよね。ビャスの過去は作中で語られていないけど、村を追われて王都のパン屋で働いていたはず。何がどうなったらこうなるの?)

 雑談がてら簡単に情報収集してみれば、チマは軽々と自身やシェオ、ビャスの事を話してくれ、侍る二人も異論はない様子。

(なにか計画があって二人を取り込んでいる転生者だと思ったけど、…違うみたい。国が一緒で登場人物がいるだけのパラレル世界って考えたほうが良さそうかも。そうなるとチマがラスボスになる確率はどれくらい下がるんだろ)

 考え事をしながら雑談をしていればゴォーンと昼後ちゅうごの授業がそろそろ始まるという、鐘の音が響き渡った。

「チマ様、昼後の授業だけでも受けていきませんか?」

(今のチマ、いやチマ様に友達はいなさそうだし、貴族界への橋渡しは望めないかもしれないけど。それでも今後もぼっちは流石に嫌だから、是非とも授業に来てもらわないと!あと少しすればグループを作っての対魔物戦闘の授業もあるから、組める人は必要なの~)

「お友達も出来ましたし、参加してみては如何でしょう?私共も待機しておりますので」

(これはいい傾向です。お友達、というお嬢様が学校へ通ってくれるようになる切っ掛けができましたし、家に引きこもっている生活よりも全然健全!)

「…、まあ来てしまったし授業にでてみるわ」

「よっ、ドゥルッチェ一のお嬢様!」

「その間抜けなはやし立てはやめて頂戴、シェオ…」

 護衛を引き連れたチマは歩き出し教室へと向かっていく、その姿を不思議そうにリンは見つめていた。

(このシェオは、…ファンの子が見たら卒倒しそうな性格になっているなぁ…。デュロ殿下に仕え忠誠心にあつい、冷静沈着な男性だったのだけど、…楽しげな執事って感じね。母親が重病を患っているのにも関わらず手を差し伸べることなく、駒として使えそうだからと自身を取り立てた父親への復讐心で生きているゲーム内より幸せそうだから、いいのかな?)

 生前に遊んだゲームの知識が何も活かせない現状にやきもきしないこともないリンだが、「これはこれで面白いかも」と三人の後を追っていく。


 校舎内を歩いていくと、この学校に唯一の夜眼族のご令嬢ということ、そして入学式以来登校していない不登校者ということから、他の生徒の視線を一手に集めて進んでいく。

(あの方ってアゲセンベ・チマ様よね、今まで登校なさってなかったけれどどういう風の吹き回しかしら?)

(流石に家にも居づらくなったのではなくて?)

(ありえますわぁ、…スキルが一つしかない、王族の恥さらしですものね)

 陰口を耳にしてけば、チマの機嫌は悪くなっていき、尻尾の揺れる勢いが強くなっていく。

(本来のチマなら、学校中誰からも慕われる程に人徳カリスマがありながら、自身のスキルの数をコンプレックスに思ってスキル至上主義を打倒しようとする革命者。デュロルートなら短い間ではあるけど、平民を指揮して王座に就いてるんだけど…そんな気概はまるで無し。…というかスキル至上主義は数年前から薄れ始めているんだよね、王立第一高等教育学校ここ以外では)

 意識を逸らすため、何か話題をださなければ、と考えていれば声の大きな女生徒が態々聞こえるように陰口を叩く。

「腰抜けの娘は腰抜けよね。下賤げせん粗陋そろうな平民なんて侍らせて、恥ずかしくないのから。あはは、種が悪かったのかしらね?」

「っ」

 ギロリ、と視線を令嬢に向けたチマは、尻尾の毛を逆立てて一直線に相手へと向かっていく。

「ヤバ、お嬢様?!」

「何か文句でもお有りですの?」

「訂正をしたら許してあげるわよ、トゥルト伯爵はくしゃく令嬢トゥルト・ナツ。お父様と三人への侮辱をね」

「あらなに、怒っているのかしら?もしかして図星ってこと?あはは笑えちゃう」

 ナツが嘲笑ば隣にいる女生徒たちも声を揃えて笑い出す。

まずい、彼女は最近勢いのあるトゥルト伯爵家のご令嬢で)

(デュロ殿下の婚約者候補筆頭、ですよね?)

(はい、よくご存知で。仲裁に入りたいのですが、…私とビャスは市井出身故、下手な手を打つとお嬢様の立場を悪くしかねません)

(同じくで私も出られませんね…、どうしましょうか)

 こそこそと話し合い、出方を考えるシェオとリン。そして主を馬鹿にされて苛立つビャス。

「王座を争うことなく、恥も外聞もなく王位継承権を手放し、胡麻ごまって宰相に召し抱えてもらった王弟を腰抜けと言わずしてなんというの?私が腰抜け宰相の娘だったら、恥ずかしくて家から出れませんわっ!あはは、だから引きこもってたのかしら??」

「―――!!」

 煽り、それも自身以外の親しい相手へを蔑む言動には我慢ならず、チマは一歩、つよく踏み込み拳を握れば。

「はいはい、二人共落ち着いて。何?口喧嘩?」

 颯爽と割って入って来たのは爽やかな美青年で、ほんのりとレィエに似た風貌をしている。

「…デュロ」「デュロ様?!」

 そう、彼が今上王の息子であり、王太子のガレト・デュロ。そしてゲームであれば攻略対象の一人。


「まったく。ようやく学校に顔を出したと思ったら、何をしているんだいチマ」

(もっと拙いのがきちゃった〜?!チマとデュロは犬猿の仲、特にデュロからは王位を奪えるだけの存在だと警戒されて、チマも邪魔な相手だと嫌煙けんえんしていた)

 拙い拙い、とリンがオロオロし始めれば、チマは顔をツンと他所へ向けて独り歩き出していき、安堵の吐息が漏れ出ていく。

「デュロ様!わ、私怖い思いをしてしまいましたわぁ、む」

 しおらしく寄ってきたナツは護衛の麗人に止められ、ほんのり不機嫌な表情をするも、余計なことはせずに大人しくなる。下手なことをしてしまえば、筆頭の地位が瓦解と理解しているのだろう。

「ご立腹だね、チマは。シェオ、何が有ったんだい?」

「ちょっとした口論ですよ、殿下のお耳に入れるほどのことではございません。それでは我々はお嬢様を追いますので、これで失礼します」

「ああ、チマにも宜しく伝えてくれ。おっ、君は確か市井出身ながら次席入学をした、…確か」

「ブルード・リン様ですよ、殿下」

「はいっブルード男爵家の養女ブルード・リンと申します!」

(場所とか時期とか違うけど、めっちゃ聞き覚えのあるセリフ。この後に続く言葉は)

「実は成績優秀者の君に話しがあってね、今度時間を貰えるかな?」

(実は成績優秀者の君に話しがあってね、今度時間を貰えるかな?本編が始まった~?!)

「あ、はい。喜んで!では私は授業がありますので、これで」

「呼び止めて済まなかったね」

 聞き覚えしかない台詞に驚きながら、リンはチマたちの背を追っていく。

(…。チマにも友達ができたのかな?)

「トゥルト嬢も授業をおろそかにせず、私の可愛い従妹のチマとも仲良くしてあげてね」

「はいっ。……。」


 好奇の目に晒されながら廊下を進むチマの目つきは鋭く、毛が逆立って誰の目からも不機嫌ととれる態度。教室へと足を踏み入れては、目についた場所へと腰を下ろして外を眺めている。

「リン様、今日お友達になったばかりの貴女にお願いするのは不躾ぶしつけだとは思いますが、お嬢様のことをお願いします。我々護衛は有事の際以外は教室内に入ることは出来ませんので」

「承知しました」

「ああ、それと先程デュロ殿下にお声を掛けられていましたが、本日のいさかいはお伝えしないようお願いします。より面倒なことになってしまいますから」

「より面倒、ですか?」

「はい。デュロ殿下は旦那様、アゲセンベ・レィエ様を叔父としてよく慕っていまして、トゥルト嬢が悪評を吹聴したとあれば、…想像していただけるとおもいます」

(そんな設定はなかったはず)

「もしかして、チマ様が何も言わずに立ち去ったのは?」

「冷静になられたのでしょうね」

「一つ、質問なのですが。チマ様とデュロ殿下は、仲が宜しいんでしょうか?」

「従兄妹として非常に仲良いのですよ」

「なるほど。先生が来ましたので教室に行きますね」

「はい、勉強を頑張ってくださいね」

 教師の姿が見えたので、リンはシェオとビャスへ一礼し教室へ入り、チマの隣へと腰掛ける。

(情報の整理が必要だ。この世界は『甘い恋の飾りは誰?』略して甘飾(あましょく)に類似していて、キャラクターたちが生きている場所。そしてあたしもその一人になっちゃった)

 リンが両親のもとに産まれて、情報を精査した限りはゲームの世界と相違なく、入学するまではそれが続いていた。

 然し入学してみれば、ゲームと同じ出来事が起こらず、友人となるはずのチマは早々帰宅。それからは不登校となって、道筋シナリオ頓挫とんざしたままであった。

 春が終わり初夏になり、煮えたぎらない気持ちにやきもきしていれば、こそこそと学校にやってきたチマと鉢合わせて友達となり、攻略キャラとどんどん顔合わせをしていき、今に至る。

 チマが首席というのは一緒。だが、貴族界での人脈、そして人望は皆無。スキルの数はファンブックに書かれていた通りに一つとのことだが、リンからすると実力は未知数。

主人公リンに世話を焼いて、導いてくれていた親友チマは不在。むしろ、…こっちからの手助けが必要なくらい。二次創作くらいの感覚で生きていったほうがだね〜)

 考え事をし過ぎて、授業に置いていかれでもしたら笑い事にならないと、意識を改めれば美姫びきたるチマの横顔が。

(うっはー!チマ推しは大喜びしそうな至近距離、約得すぎる!)

 なんてチマ推し一人が熱い視線を送っていれば、本人も気がついたようで視線が合い、リンが微笑みを浮かべた。

(見られてるし笑みを向けられたのだけど、返したほうがいいのかしら?)

 僅かに困ったチマは、秋の野に咲く一輪の秋桜のような笑みを返して、授業へと意識を戻していった。

(…、全編オリジナルスチルの神ゲーでは?)

 などとくだらない事を思っていれば、チマの学習状況を把握すべく教師がいくつか質問していく。

 ただ屋敷に家庭教師を呼んで勉強はしていたこともあり、詰まることもなく全てを回答していった。そもそも成績は首席で入学しているのだから、地力はあるのだ。

(登校しなくても勉強は問題なさそうね、シェオへの返しとして覚えておかないと)

(…根本はチマだったぁ、そりゃあ出来るよね)

 そんなこんなで昼後の授業は淡々と終わっていき、やや退屈そうなチマは欠伸をしながら教室を後にした。


 一日の授業が終わり、退屈そうだったチマはそそくさと帰ろうとする。得るものもなく、ただ陰口を言われたり、侮辱されただけの嫌な場所でしかなかったのだから当然であろう。

(このまま逃したら、きっと次はない!どうにかして再び登校してもらわないと)

 手早く荷物を纏めては、大急ぎでチマを追うリン。教室を出てみれば、デュロと鉢合わせているチマの姿が視界に入った。

「やあ、チマ。学校でこうしてしっかりと会うのは今日が初めてじゃないかい?」

「気が向いただけよ。気の迷いかしら」

「はは、釣れないね。また来る気はないの?」

「来ると思う?面倒なだけよ」

「まあまあそう言わずにさ」

「そうですよ、チマ様!継続は力なり、来続ければ楽しいことだってあります」

 王家の血が濃く流れる二人へと割り込むのは不敬を咎められる可能性もあるのだが、これは好機と周囲からの評価などかなぐり捨ててリンは声を上げる。

 護衛を務める麗人や周囲の者は眉を潜めていたが、二人は気にする風もなく彼女を会話に加えた。

「良いことを言うね、ブルード・リン嬢。チマのことだから学校で勉強をする必要なんてないのだろうけど、年頃の貴族、いや王位継承権を持つ一人として健全日々を送ってほしいな」

「…。」

 ジッとデュロを睨めつけたチマに、リンは内心を冷やすものの口論に発展する様子などなく、言葉を探している程度。

(チマ様とデュロ殿下は仲が良いってシェオさんが言ってたけども、実はあんまり仲が良くない感じ…?いやでもデュロ殿下の方から積極的に話しかけているし、犬猿の仲ではないはず)

 ガレト・デュロ。今上きんじょう王の一人息子で、順当にいけば王座を継いで、次期国王となる王子殿下。

 彼も攻略対象でルートを進んでいくと、革命軍を引き連れたチマと正面から衝突、一度は敗退し今上王の幽閉され王座を奪われるものの、最終的にはチマが倒れデュロとリンたちが王座を取り戻すことになる。

 デュロとチマ、二人の関係は中々に劣悪なもので、お互いに関与することなくお互いがお互いを視界に入れないよう避けていた。

 原因はデュロが抱く劣等感。ゲームでスキルの数が公言されていないチマは、頭の良さも剣の実力も他の追従を許さない天才のそれ。対してデュロはスキルこそ優秀な物揃っているのだが、彼女の実力と比べられると些か物足りない。それ故に幼少からチマのことを疎んでおり、チマもそれに気がついていたが故にお互いに不干渉を決め込んでいた。

「何れはチマに、叔父上の後を継いで、いや継がなくともまつりごとの支えになってほしいと思っていてね。そのために交付関係を広めていてほしいのさ」

「昔からそれよね、デュロは。私が政務官なんて務まると思わないし、お父様の子だからといって、お父様と同じ政の才があるとは限らないのよ」

(もしかしてこの二人の関係ってやっぱり良好?デュロ殿下がチマ様を前にして、作中の劣等感を露わにしてないし)

「やってみないとわからないだろう。それでだ、実はチマとブルード・リン嬢、二人の成績優秀者に生徒会へ入ってみないか、と誘いに来たところでね。どうだろう?」

(やっぱり生徒会イベント、…だけど、チマが誘われるのは原作と違ってる。でもこれはあたしとチマ様の交友を広げる好機チャンス!)

「私は参加したいです!チマ様も一緒にやりましょうよ、生徒会!」

 平民のくせに図々しい、なんて外野の声を聞くもお構い無し、形振り構っていられないのがリンである。

(平民だからと差別なんて嘆かわしいわ。市井出身でも優秀な者は優秀なのよ、私のシェオみたいに。デュロがいるのなら心配はないかもしれないけれど、この子を補佐する役目が必要かもねしれないわね。…、本心はどうだからわからないけど、悪意を向けてこない友人だし、)

「デュロが、どぉ〜してもっていうのなら協力してあげるわ」

「どうしてもどうしても!いやぁ助かるよ、優秀な人材はどこも引っ張りだこだから、引き込むのが大変でね」

 はっはっは、と哄笑こうしょうするデュロの視界に映るのは、後方で満面の笑みを浮かべるシェオの姿。彼としてはこれでチマが健全な学校生活を送れるようになり、デュロは優秀な人材を生徒会へ引き込める。チマが学校へ足を運んだ際に、こうしようと計画されていたのだ。

(護衛職は大変になりますが、殿下とブルード嬢には感謝しないと)

 ちなみにビャスは一人、状況を理解できないでいた。


 チマが学校へ通うようになって数日。ビャスは彼女の学業に必要な荷物の準備を行っていた。教科書や筆入れ程度でこれといった品はないのだが、護衛兼侍従見習いとして雇われた彼が、熱心に打ち込んでいる職務である。

 そんなビャスの評価、アゲセンベ家に仕える同僚たちからの評価はすこぶる良い。仕事に熱心、そして護衛としての腕っ節も十分。会話は得意でないが朴訥ぼくとつな性分だと受け入れられていた。

 明日の支度を終えて、そろそろ夕餉時だと廊下を歩いていれば、アゲセンベ家の家令が声を掛ける。

「お疲れ様ビャス。明日の支度は終わりましたか?」

「……」

 コクコクと首肯すれば、家令は満足そうに目を細めて皺を作っていた。

「それでは夕餉としましょうか。ふふっ、ここ最近、お嬢様が学校へ通うようになり、アゲセンベ家に仕える者一同が浮かれていまして。料理長が張り切りすぎてしまったのです、少し豪勢な夕餉を楽しめますよ」

「…っ!」

 パッと笑顔を咲かせれば喜んでいるのは一目瞭然。ビャスは屋敷にやってきてから、目に見えて表情がわかりやすくなった。

「学校でのお嬢様の様子は如何ですか?」

「……っ、悪口を言われると、ふ不機嫌になります。でですが、お友達のリン様が言葉を尽くしてくれてて…」

「悪口はありますか」

「…」

 小さく頷く。

(市井、そして貴族界でもスキルの少ない者への風当たりが徐々に和らいでいると聞きますが…、競争的な面の強くある学校では未だ未だといったところでしょうね。陛下と旦那様が下手に手を出しては逆効果でしょうし、難しい問題ですね…)

「居ないとは思いますが、お嬢様に毒牙を剥こうとする輩があらわれましたら、対処をお願いしますねビャス」

「……すっ、はいっ!」

「良い返事です。では食堂へ向かいましょうか」


 実質初登校から数日経て、チマへの陰口というのは徐々に風化しつつあった。

 学校の生徒は一五から一八歳の、蛙になりかけの御玉杓子おたまじゃくしたち。押しても手応えのない相手に飽きがきた、そして単純に文武両道なチマを見て、非常に有用なスキルを保持していると錯覚し始めたからであろう。

 現実は『怠惰』なんていう、意味不明なスキルなのだが。

 とはいえ貴族派閥的に、現宰相であり彼女の父レィエを面白く思わない者たちは、飽きもせずにこそこそと影から悪評を流していたり勤しんでいる。

「それでは授業も終わりましたし、顔合わせに生徒会室へ向かいましょうか!」

「…、リン、貴方はやる気満々ね。これから向かう場所は、何れ国の舵を担う捕食者たちの巣穴なのよ」

「チマ様もその一人じゃないですか」

「そんなんじゃないわよ、私は」

「優秀なお父様もいますし、教えを請えば政務官にもなれるのでは」

(チマとレィエの親子関係はゲームでは最悪だった。けれど、この前の怒り方からして、尊敬し誇りに思っていることは確かだよね~。今この世界で一番外れているのはレィエだけど、接触しようにも不可能な相手だし…チマ様から聞いていくしかない)

「きっとお父様は私が教えを請えば快く教えてくれるし、登城の同行も許してくれるわ。でも、もしも私がお父様の期待に添えなかったら、それで居場所を失ってしまったら。なんて考えたら動けなくなってしまうのよ、残念ながらね」

「――ッ」

『わた、くしは…居場、所が…ほしかった、』

 いくつかのルートで、チマが息を引き取る最後の瞬間に呟く一言を思い出したリンは、僅かに顔を強張らせては笑顔を貼り付ける。

「今更一回の失敗程度で見捨てる狭隘きょうあいなお父様ではないけれどね」

(アゲセンベ・レィエはチマのスキルが一つしかないと知り、娘を冷遇し妻に強く当たっては家庭を崩壊させていた。…そしてシナリオの黒幕でもあったはず。…確か…、幼少期に統魔族からの精神支配を受けていた宿主で、王座を狙う心を利用され続けていたんだっけ。今のアゲセンベ・レィエが本来の姿ということ?統魔族は目覚めないとみるべきってこと?うーん、わからない~!)

「なら挑んでみませんか?もしも、もしもの話しで居場所がなくなってしまっても、私が居場所を作るお手伝いをしますので!」

「…やっぱり都合の良いことばっかりいうのね、貴女は」

「っ!」

 リンの心の奥底がぞわぞわと風になびくすすきのように揺れ動く。そう、紡ぐ言葉を間違えてしまったのだと、本能的に感じ取れてしまった。

(…。…“やっぱり”?)

 護衛の二人を引き連れて廊下を進むチマを追いかけるため、リンは教室を飛び出していく。


「やあチマにブルード・リン嬢もようこそ生徒会へ」

 華やかな笑顔で迎え入れたのは勿論のことデュロ。王子様自らが二人の席へと案内しては、自身も腰を下ろす。

「お久しぶりですね、チマ様」

「久しぶり?枇杷月4月の舞踏会以来なのだから、そんなに懐かしいというほどでもないでしょうに。息災で何よりよ、バァナ」

 マフィ・バァナ。マフィ侯爵家の出身で三年生、そして現生徒会長にしてゲームでの攻略対象。生徒会ルートではデュロとバァナのどちらかを選んで攻略することとなる。

「はは、それも二ヶ月と少し前。目眩めまぐるしい日々を思えば、久しく、そして寂しくなってしまいます」

「はいはい、こっちの子がブルード男爵の養女、ブルード・リンよ。半端に手を出すようなら扇子で叩いてやるんだから」

「お初にお目にかかります、ブルード・リン嬢。私は生徒会長を務めさせていただいている、マフィ侯爵家のマフィ・バァナと申します。いやはや、直接お会いしてしまえば華やぐ心は抑えられませんね、お近づきの印に」

「ご丁寧にありがとうございます、生徒会長。私はブルード男爵家の養女、ブルード・リンにございます」

 何処からともなく取り出した造花の一本をリンに手渡し、満面の笑みで自身の席へと戻っていった。

(こんなんだけど、惚れたら一途でギャップ萌えなキャラなんだよね。この花は、…ネモフィラだったかな?)

 青と白の可愛らしい造花へ笑みを向け、そっと形が崩れないよう机に置いては、生徒会役員の紹介を受けていく。

 デュロはニ年で副生徒会長。そしてニ年と三年から合計四人ずつの役員が選抜されており、チマとリンを合わせて一〇人となっていた。

「ところで一年わたしたちだけ人数が少ないのだけど、なにか理由があるわけ?」

「単純に決めかねているというだけですよ。首席と次席は謝絶されない限りは参加してもらっていまして、その二名から同学年の学生を選抜していただくことになっています。これから三年間も顔を合わせていく相手ですから、気の許せて且つそれなりに優秀な者を選んでいただければと」

「同学年、ねぇ。…私、友達がリンしかいないのよ」

「私もチマ様しかお友達がいません」

「「…。」」

 なんとも言えない空気が部屋を満たしてしまい、生徒会役員たちは瞳を逸らしていく。

「入学して二ヶ月も経つのだよ?」

「私は来ていなかったし」

「出身が市井ということもあり、なかなかに友好関係を結ぶのが難しく…」

「ならこちらで選出しよう、構わないかな?

「いいわよ」「問題ありません」

「なにか不都合のある相手とかは」

「いないわ」「いません」

(叔父上派閥の家から選べば問題ないか。トゥルト家からの圧が掛かる前に選出して、チマの周囲を固めてしまうのが無難だね)

 敬愛する叔父レィエの娘、ということもあって何かと世話をやこうとするデュロである。

「それじゃあ生徒会の役割について説明しましょう」

 基本的には催事もよおしごとの運営管理が主となり、細々とした教師陣への手伝い事なんかも行っているとのこと。

「とはいえ顔ぶれが顔ぶれだから、自分の仕事を押し付けるような教師はいないから安心していいですよ。彼らの手が足りなくなった際に声が掛かるくらいの認識、そう思ってほしい」

(ちょっとしたお使いがあって、金策になってたんだけど流石にないよね~。小遣い稼ぎには穢遺地に行くしかないかな)

(…なんか面倒そうね、生徒会って)


 コンコンと扉が叩かれて、レィエは手元の書類を軽く片付けてから入室を促す。

「失礼します」

「シェオか、どうしたんだい?」

「お嬢様のスキル『怠惰』への調査報告にと」

「続けて」

「手隙の間に、国立図書館と禁書庫、王城書庫での調査を行いましたが、それらしいスキルは歴史上発現しておらず、記録も有りませんでした。お役に立てず申し訳ございません」

「謝罪の必要はないよ。チマのスキルを確認した頃にも、私が調査をしていて…かれこれ、四度目の調査になるのだ」

「四度目ですか」

「二回目以降は、期間を空けての同じスキル保有者が増えていないかを確認していた、というだけさ。…やはり同じスキルを持つ者が現れて、登録申請をしてはいなかったか」

 眉を曇らせたレィエは椅子に凭れ掛かっては、手を遊ばせている。

「お嬢様のスキルが登録されていないのは?」

「新規に同じスキルを確保した者が現れて、登録に来た際に確認できるためさ。宰相としての地位を使えば、割り出しと観測くらいは容易いからね」

 こういった職権濫用を言葉にするのは、レィエという男にとって珍しい行動だとシェオは思う。王弟宰相レィエ、彼は叩こうと誇りの出ない清廉潔白な存在なのだから。

「スキルポイントを一〇倍の勢いで入手でき、そしてそれを誰かに分け与えられる。これが『怠惰』の効果なんでしょうかね」

「名前と効果が一致していないように思えるが、実際にそうなのだろうね。自身にスキルを欲し、他者からの評価を覆したいチマには難儀なスキルだよ。きっと、王家の血を持たずに市井にでも産まれていれば、幸せに暮らせたのかもしれないのに…はぁ」

「旦那様と奥様の愛情を一身に受けているお嬢様は幸せそうではありますが…、お嬢様自身が原因で旦那様と奥様が貶められることは許せないみたいでして」

「無能を産んだ腰抜け宰相とでも言われたのかな?」

「…。」

「私を面白く思わない派閥からはもっと酷い言われようだし、なんと罵倒されようと気にしたことではなく覚悟もしている。けれども、チマにまで背負わせること、そしてマイを悪く言われるのは本望じゃなくてね。どうしたものかな…」

(お嬢様と旦那様はよく似てらっしゃる。本当に地位が違えば幸せに暮らせたのでしょう…)

 二人は考えを巡らせるも回答は得られず、レィエは話題を変える言葉を口にした。

「話しは変わってしまうのだけど、チマのお友達になったリンという生徒はどんな娘か教えてもらえるかな?」

「そうですね、…元気で人懐っこい淳朴そうに見える方です」

「見える、というのは?」

「お嬢様との会話の最中や一人でいる際に、難しく考え込む表情を見せているので、彼女に何かしらあるのは確かでしょう。敵意や害意はなく掴みが弱いと」

「ふむ。シェオから見て、彼女をチマの近くに置くことに不利益と問題はあると思うかい?」

「今のところは無い、と私は考えます。初めて出来た友人、リン嬢との関係が上手く続けられれば、お嬢様も登校が楽しくなって学校にも馴染めるのではないかと」

「現にここ数日登校し、生徒会にも加わっているところを考えるに、引きこもっているよりも健全な状態と言えるね」

「はい。他の生徒達も、お嬢様への謗言には飽き始めていますし、…私を含め平民とばかり交流していることを除けば、健全な状態になりつつあります」

「シェオ」

「はい」

「自身を市井出身だと蔑むのは止めなさい。…一昔前までの感覚が国民に残ってしまっている、そのことは私も知っている。けれど兄上と私、そして多くの官人が悪習を祓うべく尽力している最中なんだ。だから、アゲセンベ家に仕える者たち、シェオにも胸を張っていて欲しい」

「承知しました」

「ブルード・リン嬢もチマや生徒会を切っ掛けに、貴族との交流を結んだりして足掛かりを作り、何れは優秀な力を国の為に振るってくれると良いのだけどね」

「期待なさっているのですね」

「そりゃあ次席入学できる市井出身者なんて歴史上初だからね。今後は良い刺激になってくれるさ、絶対に」

 報告を終えたシェオは部屋を出て、一人残ったレィエが夜の庭を眺める。

(さあ、どう動く主人公ブルード・リン、君はチマの隣に立とうとしている。…ならば、ならばこそチマ生存ルートを作り出してくれ。悲劇の引き金は私が壊しているのだから)

 転生者レィエ愛娘チマの幸せと安寧を希う。


 寮の一室にてリンは寝台に倒れ込み、天井を眺めながら手の甲をなぞり巻紙を出す。

 ブルード・リン(タタン・リン)。レベル34。自然回復力【7/19】、回復魔法適性【6/48】、鈍器術【5/31】、棒術【5/28】、学問【6/15】、身体能力強化【3/10】、敵性察知【1/10】等々。

 年齢に対してレベルが高く、戦闘に於いて優秀なスキルを保持している。

(入学段階でレベル30超えは破格、というよりこの世界でも年齢的に考えれば高い方なんだけど~…、入学してからは全然レベル上げにも行けてない。ゲームと違ってファストトラベルも無いし、時間経過と移動にお金も必要)

 小机から財布を取り出して、中身を確認すればそこそこに詰まってはいるものの、三年間を過ごすには厳しい金額。学費や寮費はブルード家が面倒を見てくれるが、個人的な金子は自分で用意する必要があるので、リンは溜息を一つ吐き出していく。

(遠征するとなると移動費と宿泊費が掛かるんだけど、ゲームのシナリオが進行していく事を考えると装備なんかも買っときたいんだよね~。原作にはないルートを進むことになるし、パーティメンバーはチマ様一派だから三人の強さも把握しないといけない。やることが一気に増えちゃったなぁ)

「明日からの休みは近場の穢遺地に向かおうかな。ふぁ…はふ、檸檬月2月までにはレベル50超えを目指したいんだけど…、レベル50って王城でも指折りの第一騎士団と同程度なんだよね」

(統魔族の復活、起こるかはわからないイベントだけど…、今のチマ様が革命軍を率いることはなさそうだし、リンあたしがチマと袂を分かつこともない、はず。このシナリオの壊れた世界でなら、居場所を求めて泥濘を足掻いた彼女がないこの世界ならば、結末は変えられるはず!)

「よし!おやすみっ!」

 部屋の明かりを消してリンは就寝した。

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