アストラム・ゲーム

Air

第1話 New World

 【プロローグ】

 ただ平凡に高校へと進学し退屈な毎日を俺は過ごしていた。面白味のないリアル、そして、ただただ淡々と過ぎていく日々に対して、かなりイライラしていた。

 挨拶を交わす友人もいて、ある程度は女性との交流関係もあったり、とにかく無難な日々だった。

 ただただ授業を受け、ひたすらに放課後の遊びとやらにワクワクしていた。暑い中汗をかいて豪遊したり、寒い中凍えながらキャンプだってした。

 まあ、なんだかんだありつつも、結構人並みには楽しんでいたとは思う。

 しかし、俺はそんな退屈な日々を皮肉にも愛おしく、好きでもあった。

 変わりゆく日々だなんて最初は楽しいかもしれないが疲れちまう。

 人間関係も、日常も、リセットされるのは面倒だ。

 だから、俺は安定な日々もこよなく愛す事が出来るのさ。

 こんな事になるまではな。



第一話 New World



「此処は何処なんだ?」

 俺は見知らぬ教室の中で目を覚ました。見覚えが無いどころか全く見知らぬ、その周りに思わずキョロキョロして、キョトンとする。

ーー俺はなんでこんな所にいるんだ?

 そんな疑問が頭の中を巡る。綺麗に並べられた机を掻き分け、俺は教室の外へと飛び出した。

 しかし、俺は外を見るなり唖然とした。

 何故なら老化が血塗られたかの様に真っ赤に染まっている。色も、光も全てアカ一色で統一されている。その様子はかなり不気味であった。正直言って恐怖以外の何者でもない。

「......怖い。」

 ただその一言に尽きる。

 恐怖を募らす様なこの学校。全く覚えもないし、聞いた事なんてない。

 しかしだ、よくよく奥の方を凝視していると人影が微かに見える。

 赤い廊下に、黒い影が蠢いている。

 人か?そう思い俺はその影を急いで追いかけた。

 どんどん近づく影。そして、その影の正体を俺は知る事になる。

ー影の正体は可憐な少女であった。

 赤い瞳に、青い髪。そして、見るからに俺より年下のその少女はこちらを真顔で見つめる。

「え、えっーと。此処が何処だかわかりませんか?」

 俺は少女に尋ねた。しかし少女は言葉を発する事は無く、ただただ首を横に振るだけだった。

「あー、そうか。じゃあ名前。君の名前は?」

 少女固く閉ざしていた口をようやく開いた。

「私は礼。貴方は此処でなにをしているの?」

 その繊細な声でようやく出て口を開いてくれた。俺は人に会う事が出来て安堵した。

「目覚めてたら此処にいて、それでパニックになって、教室を飛び出してきたんだ。」

「そう」

 雪の様に冷たく返事された。

 もうちょっと言葉があるんじゃないか?初対面とは言えども冷た過ぎやしないか?

「じゃあ、違反者ね。」

 彼女がそう言うと、ポケットから小さなナイフの様なモノを取り出し、こちらを見つめる。

「おいおい、こいつはなんの真似だ?ハロウィンはもうとっくに終わってるのに。えっと、今日は仮装パーティの日だっけ?」

「Mコマンド発動。5502527327578コードを適用。じゃあ、死んで」

 すると、その少女はこちら目がけて腹部を刺してきた。あまりにも急な出来事で最初はよく分からなかった。しかし、時間経過とともに刺された真実を知る羽目になる。

「うぁ、くっ、なにすんだ」

「ごめんなさい。貴方には死んでもらう。どうか、悪く思わないで」

 刺された腹部から痛みと熱さを感じる。触ってみると指に液体のような感覚が伝わる。

 ああ、なにがいけなかったのだろうか。

「くっ、イッテェ。」

 不意に地面に倒れ込み、傷跡を手で抑えていた。

 なんでだよ。

 なんでだよちくしょう。

 そんな事を思い意識が薄らいできたその時であった。

「生きる事をあきらめないで!!」

 またもや知らない声であった。

 しかし、そんな事を思っていたその時だった。ナイフを持った少女が物凄い勢いで飛んでいった。

 おいおい、今度は何が起こってるって言うんだ。

 痛みに耐えながら俺は再び立ち上がった。

「君は誰だ?」

「私は貴方を助けにきた、このゲームリーダーのスノーホワイトよ。宜しく。貴方、怪我しているみたいだからこの包帯で取り敢えず何とかしてちょうだい。」

 スノーホワイトは包帯を俺に投げた。

「ドドドどういうことだ?」

「私はアイツを何とかするから。それじゃあ頑張って!」

「頑張るって?」

「それは自分自身で考えなさい!!」

 スノーホワイトと名乗るその少女はバレットを取り出して、少女に向かって発砲した。華麗に走り、止まる事なく回転しながら三発撃ち込んでいた。一瞬の事であり、俺は思わず見惚れていた。

 そして、その弾は全て少女に当たり命中した。


「nice hit」


 まるでロボットの様な声が少女から発せられた。

 そして、少女は薄らぎながらどんどん消えていった。流血などは無さそうだ。

 俺はあるけど。

「ふぅ、やったわ」

「おいおい、こいつはどう言う幻覚だ」

 俺がそう聞くとスノーホワイトはあしらうように答える。

「幻覚なんかじゃ無いわ。ある意味体験しているから、リアルってことかも知れないけどね」

 幻覚ではない。少女にそう言われて俺は意味が分からなかった。

 夢だろ。これはもう。これを現実だなんて急に言われても信じれる訳ないだろう。仮にも俺は、普通の毎日を送っていた筈の少年だ。

「これはどういう冗談だ?」

「あら、私はあまり冗談を言わない主義なのよ。前から何度も言ってるでしょ」

「ん?言われた事ないし、さっき会ったばかりだろ」

「!!」

 俺がそう指摘するとスノーホワイトは明らかに動揺する素振りを見せた。どうやら、あわあわと慌てながら、よく分からない弁明を始めた。

「い、今のは忘れて!何かの間違えよ」

 何かの間違いだと言われてもなぁ。

「と、とにかく貴方はこの狂った世界に迷い込んでしまった。それが真相よ」

「はぁ、どういう事だよ。周りを見渡して見る限り、えらい閉鎖的にも見えるが、ここは一体どんな世界なんだ?」

 そう聞くと、スノーホワイトは待ってましたと言わんばかりに、ニヤリとしながら俺を見る。

「ようこそ!!〈アストラムゲーム〉へ。ここは、ゲームの世界よ!」

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