若き武者たちの飛翔――信長の選択

片倉正行と宗紅蓮は、湊の命を受け、織田信長への報告を果たすため、安土城に到着していた。彼らは湊が大陸で築き上げた三別抄、梁山泊、鄭成功との同盟が成ったことの重要性を伝え、攻勢に向けて信長の支援を求める使命を担っていた。


広間に通され、二人は信長の前に立った。片倉は冷静な態度を崩さず、湊から託された書状を手渡す。紅蓮は隣で、彼女の胸に秘めた思いを伝える準備を整えていた。


「信長公、湊様からの書状をお届けしました。大陸での同盟について記されております。」


信長は片倉から書状を受け取り、静かに目を通した。湊が築いた同盟の力――三別抄、梁山泊、そして鄭成功――彼らが連携してモンゴルに立ち向かうための体制が記されている。それを読み進めるうちに、信長の表情は次第に引き締まり、無言のまま深い思索に沈んだ。


その時、信長はふと、自分が戦った桶狭間の戦いを思い起こしていた。あの戦いでは、わずか数百の兵で今川義元の大軍を打ち破った。数で劣っても、戦術と機略で勝利を掴んだあの瞬間の記憶が蘇る。信長は再び考えた――日本が再びモンゴルという巨大な脅威に直面するならば、単に守るだけでは勝てない。攻めに転じることが、日本を救う唯一の道だと確信した。


やがて、信長は顔を上げ、二人に冷静な口調で問いかけた。


「湊は見事な同盟を築いたが、お前たちがここに来た理由を直接聞かせてもらおう。」


片倉は湊からの書状に記された内容に忠実に従い、冷静に言葉を重ねた。「湊様は、これらの勢力が一丸となり蒙古に対抗することで、日本が受けるであろう脅威を未然に防ぐことができると申しております。信長公のご支援を賜り、大陸での作戦をさらに推し進めることが急務とのことでございます。」


紅蓮は、片倉の冷静な説明に続き、一歩前に進み出た。彼女の胸には、対馬の元寇がもたらした惨劇の記憶が強く残っていた。


「信長公、私は対馬の宗助国の娘、宗紅蓮と申します。対馬は、いにしえの元寇にて、蒙古の侵攻を最初に受けた地です。私たちの島は、蒙古軍の上陸により壊滅的な打撃を受け、無数の民が命を落としました。元寇の恐怖は今もなお、私たちの心に深く刻まれています。」


信長の鋭い目が、紅蓮に向けられた。紅蓮はその視線にひるむことなく、さらに言葉を続けた。


「今回の同盟は、対馬や九州だけでなく、日本全土を救うためのものです。湊…殿が築いたこの連携は、元寇の再来を防ぐための防波堤となるでしょう。蒙古は再び日本を侵略しようとしています。ですが、単に守るだけでは、次の侵攻を防ぐことはできません。日本全体が団結し、大陸で攻勢に転じることこそが、蒙古に対抗する唯一の道です。」


信長はじっと紅蓮の言葉に耳を傾け、彼女の説得力に満ちた声が広間に響いた。彼女の言葉は、元寇という日本全体がかつて経験した脅威を強く訴えかけていた。


「信長公、この同盟により日本は防衛だけでなく、攻勢に転じることが可能になったのです。日本が力を合わせ、大陸での連携を通じて蒙古に立ち向かえば、彼らの野望を挫くことができるのです。」


しばらくの沈黙の後、信長は再び書状に目を落とし、ゆっくりと頷いた。


「なるほど……蒙古が再び攻め寄せるならば、日本はただ守っているだけでは勝てぬ。湊が築いた連携に、我々の力を加える時が来た。」


信長は一瞬目を閉じ、再び開くと、厳かな声で決断を下した。


「片倉、湊に伝えよ。まだ、日本全体が一丸となれるとは思えぬ。日本の結束を固めるためにはもう少し時間を要する。湊にはすまぬが、まずは若き将3名、さらに足軽100名、鉄砲隊100名を派遣する。彼らを湊の軍に加え、蒙古に対抗する力を強化させてくれ。」


片倉正行は深々と礼をし、信長の言葉をしかと受け止めた。「ありがとうございます、信長公。必ずや、湊様にお伝えいたします。」


紅蓮も再度、感謝の意を示し、深く頭を下げた。


信長の決断により、若き将蒲生氏郷、細川忠興、前田利長が派遣されることとなった。彼らはすでに戦で頭角を現しつつあり、その成長と共に期待される若い武将たちだった。


彼らの旅立ちの朝、片倉正行と宗紅蓮は若き武将たちと共に信長から預かった鉄甲船に乗り込み、大陸へ向けて出発した。


蒲生氏郷は、湊の名を聞いて期待に胸を膨らませていた。彼は湊の戦略に惹かれ、さらなる知略の成長を自らの使命としていた。細川忠興もまた、武勇に優れた戦士であり、湊の軍で前線を指揮する覚悟を決めていた。前田利長はその穏やかな性格の裏に、緻密な後方支援の能力を備えており、軍備の整備を任されることになった。


若き武者達が、大陸でどのような活躍をするのか、正行も胸躍るのであった。

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