公孫瓚の軍勢――呉用の策略と湊の経験
梁山泊の広間には、重い緊張感が漂っていた。湊たちは、自分たちの運命がどうなるのかを待っていたが、突然、呉用(ごよう)が晁蓋(ちょうがい)に耳打ちすると、場の空気が一変した。
「晁蓋殿、公孫瓚(こうそんさん)が梁山泊に対して兵を動かしているという情報が入りました。どうやら交渉を待たず、力で我々を従わせるつもりのようです。」
この知らせに、梁山泊の好漢たちの表情は険しくなった。梁山泊はこれまで何度も外部の勢力に狙われてきたが、今回の公孫瓚の行動は特に深刻な問題だった。
「どうする、晁蓋殿? すぐに迎え撃つか?」豪傑の林冲(りんちゅう)が苛立ちを隠せず、鋭く問いかけた。林冲の手はすでに剣にかかり、戦意がみなぎっていた。
「公孫瓚がなぜ今、梁山泊を脅かしているのか?」湊は心の中で自問していた。公孫瓚は本来、モンゴルに対抗するための盟友となるはずだった。しかし、彼は梁山泊が独自の勢力を築いていることを脅威と感じていたのだ。公孫瓚の立場からすれば、梁山泊がモンゴルに加担する危険がある限り、彼の軍は南方からの挟撃を受けかねない。そう考えた公孫瓚は、梁山泊を屈服させ、敵にならないよう確実にしておきたかったのだろう。
「公孫瓚と戦えば、我々の計画は破綻する……」湊は焦りを感じていた。彼らは本来、公孫瓚の協力を得てモンゴルに対抗するつもりだった。しかし今、戦いを避けるには何か策が必要だった。
ふと、湊はかつてのゲーム経験を思い出した。歴史シミュレーションゲームで頻繁に使っていた「流言飛語」の戦術だ。敵の軍に偽情報を流し、混乱を引き起こす――それは戦わずして勝利を掴むための巧妙な手段だった。
「もし、この世界でも『流言』を使えれば……」湊は冷静に考えた。公孫瓚の軍が梁山泊に集中している間、彼の本拠地が手薄になっている可能性が高い。そこで、モンゴル軍が公孫瓚の本拠地を襲撃しているという噂を流せば、公孫瓚は兵を引かざるを得なくなるだろう。
「これなら、公孫瓚と戦わずに撤退させることができる……」
湊は考えをまとめ、意を決して梁山泊の知恵袋・呉用に相談した。
「呉先生、少しお話ししたいことがあります。」
湊がたどたどしい漢語で話しかけると、呉用は流暢な日本語で返答してきた。
「どうぞ話してください、湊殿。この状況ではどんな知恵も重要です。」
湊は一瞬、呉用が日本語を話すことに驚いた。そこで、彼はその理由を尋ねた。
「どうして呉先生はこんなに日本語に堪能なんですか?」
呉用は静かに微笑み、語り始めた。
「私はかつて日宋貿易に関わっておりました。日本の商人や武士との交流を通じて、日本語を学び、彼らの戦術にも興味を持ちました。あなたの考えには、日本の戦術書『闘戦経』の影響を感じます。」
湊はその説明を聞き、呉用の知識と洞察力に感心しつつ、自分の考えた策を話し始めた。
「公孫瓚の軍に、モンゴル軍が彼の本拠地を襲っているという噂を流せば、彼の軍勢は動揺し、撤退するはずです。この方法なら、直接の戦闘を避けることができます。」
呉用はしばらく考えた後、頷いた。
「確かに理にかなった策です。しかし、噂を広めるには適切な人材が必要ですね。」
呉用は即座に石秀(せきしゅう)を呼び寄せた。石秀は梁山泊の策士であり、情報操作の名手だった。
「石秀、この湊殿の策を実行に移してくれ。公孫瓚の軍に、モンゴル軍が本拠地を襲撃しているという噂を流し、動揺を引き起こすのだ。」
石秀は冷静に頷き、準備に取り掛かった。
「お任せください、呉先生。こうした策はこれまでにも何度も成功させてきました。今回も間違いなくやってみせます。」
湊の策が動き出す中、梁山泊の好漢たちの中には複雑な思いがあった。林冲は剣に手をかけたまま、いまだに戦意を燃やしていた。
「こんな小細工に頼るより、いっそ公孫瓚の軍を打ち破った方が手っ取り早いのではないか?」
その意見に、時宗は鋭い口調で反論した。
「無駄な血を流さずに解決できるのなら、それに越したことはない。梁山泊も公孫瓚も、モンゴルとの戦いに集中すべきだろう。」
時宗の言葉を呉用が訳して伝える。林冲は少し眉をひそめたが、呉用の冷静な判断を信じ、剣を納めた。
「分かった。だが、もしこの策が失敗すれば、次は俺の剣で公孫瓚を討つことになる。」
こうして、梁山泊の内部でも意見の違いがありながらも、湊の策を受け入れることになった。
一方、公孫瓚の軍では、密かに流された噂が兵士たちの間に広まり始めていた。
「聞いたか? モンゴル軍が我らの本拠地を襲っているらしい……」
最初は小さな囁きだったが、それが次第に大きくなり、兵士たちの間で動揺が広がっていった。やがて、その噂は指揮官の耳にも届いた。
「もし本拠地が襲撃されているなら、ここに留まって戦っている場合ではない……」
兵士たちは不安に駆られ、士気が次第に低下していった。公孫瓚は、混乱が広がる中で、心を乱されながらも冷静を保とうとした。
「この噂が本当かどうかを確認せねばならん……だが、今すぐ動ける者がいない。もし本拠地が危険にさらされているなら、ここで戦う意味はない。」
実は、モンゴル軍が北方で不穏な動きをしているのは本当の事であり、呉用はその情報もつかんでいたのだ。その情報を耳にした公孫瓚は悩んだ末、ついに撤退を決断した。彼の軍は次第に後退し、梁山泊から去っていった。
湊の策は見事に成功し、梁山泊は戦わずして危機を乗り越えた。呉用は湊に向かって静かに微笑んだ。
「見事な策でした、湊殿。あなたの知恵が梁山泊を救いました。」
湊は安堵すると同時に、心の中で成長を感じていた。ゲームで培った知識が、この現実の戦いで通用することを実感し、自信を深めた。
「これからも、この知恵を使って生き抜いていける……」
湊は次なる戦いに向け、さらなる決意を胸に抱きながら、梁山泊の好漢たちと共に未来を見据えていた。
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