扈三娘との遭遇――梁山泊の試練

鄭成功(ていせいこう)との同盟を結び、モンゴル帝国の動向を探るために大陸へ向かう湊たち。彼らの次の目的地は遼東であったが、道中で梁山泊に立ち寄ることが決まった。梁山泊――それは『水滸伝』に登場する英雄たちが集う場所。物語の世界が現実に混じり合ったこの不思議な世界で、湊はこの訪問が重要な転機になると感じていた。


「梁山泊……本当にあの物語の梁山泊が存在するというのか?」湊は地図を見つめながら、その驚きと期待が交錯する感覚を抱いていた。


「話の通りならば、強力な助っ人になるが、相手は戦士たちだ。気をつけろ、下手に近づけば命を落としかねん」と時宗は警戒を促した。


「だからこそ、行く価値があるんです。」湊の声には決意があった。「彼らが味方になれば、我々にとって強力な支えとなるでしょう。」


紅蓮もまた、険しい表情で頷いた。「彼らの力を借りるには、こちらも力と覚悟を示す必要があるだろうな。」


こうして、湊、時宗、紅蓮、そして通訳役の李天淵が梁山泊への交渉に挑むことになった。言葉が通じるのは李天淵だけであり、彼の役割は非常に重要だった。


険しい山道を進むと、周囲は次第に静寂に包まれていった。広大な湖と緑豊かな山々が目の前に広がり、梁山泊の強固な要塞がその姿を見せ始めた。湊は、物語でしか知らなかった梁山泊が現実に存在することに驚嘆しながら、その場に立ち尽くしていた。


「これが梁山泊か……」湊の声に驚きが混じっていた。


その時、山道の先に一人の女性が現れた。鋭い目つきで彼らを睨みつけ、長い黒髪を揺らしながら腰に帯びた剣を握りしめている。その雰囲気には、ただならぬ威圧感が漂っていた。


李天淵がすかさず前に出て、現地の言葉で話しかけた。「すみません、このあたりに梁山泊という場所があると聞きました。我々はその場所へ向かいたいのですが……」


しかし、女性は険しい顔つきのまま、冷たく言い放った。「何者だ? 梁山泊に何の目的で来た?」


李天淵が通訳すると、湊たちは即座に警戒態勢を取った。紅蓮も素早く弓に手をかけ、即応できるように構えた。


すると、女性は一瞬で剣を抜き、湊たちに向かって斬りかかった。湊と時宗は反射的にかわしたが、彼女の動きは速く、次の攻撃がすぐに繰り出された。紅蓮も間合いを計り、応戦しようとしたが、李天淵がとっさに声をかけた。


「待ってください! 我々は戦いに来たのではなく、協力を求めに来たのです!」彼の声は切迫感に満ちていた。


その言葉を聞き、女性は動きを止めたが、鋭い目で湊たちを見据えたまま、剣を収めることはなかった。


「協力だと? 梁山泊を利用しようとしているのではないのか?」その疑念に満ちた声は、彼女がまだ湊たちを信じていないことを示していた。


「梁山泊を利用するつもりはありません。ただ、我々はモンゴル帝国に対抗するため、どうしても助力が必要なのです。」李天淵が再び真摯に訴えると、彼女はようやく剣を下ろした。


「言葉で信じるほど、私は甘くない。梁山泊に連れて行く。そこでお前たちの真意が試されるだろう。」彼女は冷たく告げ、湊たちを梁山泊へと導いた。


道中、湊は気になって彼女に問いかけた。「あなたの名を聞いても?」


李天淵を介して質問が伝えられると、彼女は冷静に答えた。「私の名は扈三娘(こさんじょう)。梁山泊第五十九位の好漢だ。」


「扈三娘……」湊はその名を聞き、驚愕した。『水滸伝』に登場する、卓越した剣技と勇猛さを誇る女性戦士であるはずの彼女が、目の前に実在しているという事実は、湊の胸にさらなる確信をもたらした。「やはり、この世界は現実の歴史と虚構が混じり合っている……」


扈三娘に導かれた湊たちは、ついに梁山泊の拠点に到着した。広大な湖に囲まれ、自然の要塞と化したその地は、強固な守りを誇り、外部の者を決して容易には受け入れない重厚な雰囲気が漂っていた。


「ここが梁山泊……」湊はその荘厳さに圧倒され、かつて物語で読んだ英雄たちの拠点が、目の前に広がっていることに驚きを隠せなかった。


「お前たちの言い分は聞かれるだろうが、どうなるかは仲間次第だ。」扈三娘は冷静に告げ、湊たちを梁山泊の奥へと連れて行った。


湊たちが案内されたのは、梁山泊のリーダー、晁蓋(ちょうがい)をはじめ、武松(ぶしょう)や林冲(りんちゅう)といった『水滸伝』の英雄たちが集まる大広間だった。李天淵を通じて対話の準備が進む中、湊は再びその現実に驚かされた。物語上の架空の存在であるはずの彼らが、ここに実在しているのだ。


「これは……本当に『水滸伝』の英雄たちなのか?」湊は静かに呟き、その目の前で繰り広げられている光景に信じられない思いを抱いた。


その時、晁蓋が静かに口を開いた。「お前たちが梁山泊に協力を求めに来たと聞いた。しかし、我々がそれを受け入れるかどうかは、お前たちの力次第だ。」


扈三娘が続けて言った。「梁山泊は力で自らを守り、独立を保ってきた。我々に協力を求めるならば、お前たちも同じ力を示さねばならない。」


その言葉を聞いた紅蓮は、静かに前に進み出た。彼女は扈三娘の鋭い目をまっすぐに見つめ、戦士としての決意を示すように、凛とした声で応えた。


「私たちはただの交渉相手ではありません。我々も戦士であり、共に戦う覚悟があります。」


紅蓮の言葉は、李天淵の通訳を介さずともその真剣さが扈三娘に伝わっているようだった。女性戦士同士の視線が交わされ、張り詰めた緊張感が漂う。


「戦士としての覚悟……それを示すのならば、梁山泊の掟に従ってもらう。」扈三娘は鋭い眼差しを向けたまま、紅蓮に告げた。


こうして、湊たちに課される梁山泊の試練が、いよいよ始まろうとしていた。

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