第15話 ぬい作り


部屋に入っておいでと手招きしても、なかなか入ってこない飛雲を、見かねた地角が手を引っ張って連れてきた。


「スイ……」

しかし……しょんぼりしてる。まるで仔犬みたいな飛雲。


「ど、どうしたの……?そんなにしょんぼりしちゃって……」


「夫婦の部屋に……スイがいない」

そこか――――っ!?

いや、その……まだ夜じゃないのだから当然と言えば当然だが。しかしウキウキ気分で夫婦の寝室に向かえば、私がいなかったものだから、ふるふるしながら私の部屋を覗いていたとか……かわいいにもほどがあるわよ!!


「こっちに遊びに来ればいいじゃない。さすがに私から飛雲の部屋に行くわけには行かないし」

「スイならいつでも来てくれてかまわない」


「ほかの妃がいたらどうするのよ」

皇帝や王とは一夫多妃。国によっては何十……いや何百もの妃を抱える。

皇后のほかにも、妃の種類は多い。皇貴妃、貴妃、妃、嬪。身分や皇帝の寵愛度によって、どの妃の座を得られるかが決まる。

お父さまはそれほど積極的ではなく、亡くなった私のお母さま以外の后もいるにはいるが、外交上、あとは国内の貴族との結び付きのために迎えたものだ。まぁ先代が結構後宮を大きくしすぎたと言うのもあり、おばあさまも賛同のもと、現治世では縮小したのだ。もう、縮小しまくりよね。


「スイ以外にはいない」

「はい……?」


「陛下にとっては、スイさまが初めての后なのです」

胡艶が補足してくれる。何――――っ!?


「でも、これからは迎えるかもしれないでしょ?」

お父さまもお母さま以外は迎えるつもりはなかったようだが、しかし立場上迎えるしかなかった。だから飛雲だって……。


「無理だ……みな、私を恐がる」

何だか、切実な声を聞いた気がした。


「スイじゃなきゃ……ダメだ」

「でも……」


「飛雲が望むのなら、俺はいくらでも賛成するかな」

にこっと笑う地角。

「そうねぇ……直系ならばほかにも弟殿下がいるのですし、陛下は陛下で、スイさまと幸せになるべきですわ」

と、胡艶。臣下たちはそれを応援しているのね。そして……弟か。何だか甘えっ子だから、飛雲は弟だと思っていたが……お兄ちゃんなのか。

しかしだからこそ皇帝の座に座っているのよね。


「……分かったわ。でも、国政上必要になったら、ちゃんと相談してね」

「うん……ないと思うが」

推すわね……でも、一途なら一途で、少し嬉しいわね。


「それで……スイは何を……?」

「ほら、前に約束したでしょ?お人形さん、作るって。だからぬいを作るのよ」

「ぬい……?」


「お人形さんの一種よ。あなた好みのかわいいぬいができるはずよ」

まずはぬいの型作りよね。前世で作っていたから、少し覚えている。記憶のままに型を作って行けば……。


「とてもかわいらしいデザインのお人形ができそうですわ」

と、胡艶。

「分かる?よかったら胡艶も作ってみる?型を作るわよ」

「まぁ……!それはありがたいですわ!」

そのふわもふ狐耳しっぽも、しっかりデザインしてくれよう!!


そうして、ちくちくちく。刺繍をちくちくちく。


「飛雲……忙しいのでは」

「今日は后を迎えた日。だから后を堪能できるのだ」

何その超ルール!でも天然っぽくてかわいいから可!


「ほんとは留守にしてた間の仕事やれって宰相がキレてるけどぉー」

ちょ……地角がぶっちゃけたわよ!?


「まだまだかかるから、行ってきなさいよ」

「でも……あとどのくらい?」

「夜までは……」

ぬい作りは早い方だと思う。ただしぬい作り以外何もやらなければだが。


「聞きましたよ……陛下……来い……!」

ひいいいぃっ!?部屋の扉の隙間から、蛇の目がこちらを睨んでるううぅっ!?てか、扱い!飛雲の扱いが完全に宰相の犬みたいになってんのはいいのかオイ!


「ふぐ……」

「まぁ、楽しみがあればその分頑張れるんじゃない?」

地角もたまにはいいこと言うわね。


「うむ……でも、スイ」

「……なぁに?」


「行く前に、ぎゅーして」

そう言って腕を広げる飛雲。やっぱりかわいいわね、このひと……!!!


そしてリクエストどおりぎゅーしてあげれば、泣く泣く宰相のところに向かう飛雲。


「頑張ってね」

そう、手を振れば。


飛雲がパタパタと手を振り返してくれた。

やっぱりかわいいわね、あの小動物……じゃなかった飛雲。


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