第9話 海辺の城市


――――海辺の城市まち。潮風が気持ちいいわねぇ。


先ほど狩った獲物を城市で換金しつつ、まずは城市の探索だ!


「本当は森ルートも楽しいんだけどねぇ」

しれっと言いやがる小姑・地角ディージャオ。その森ルートって、妖獣が生息してる危険な森よね!?毎年妖獣の繁殖の季節は討伐が活発になる。時には妖獣に対抗するために、妖魔帝国側の協力が必要だ。

私が嫁ぐことで、その協力も堅固なものになればいいのだけど。


「海辺の街でぇととやらを、してみたいと思ってな……ぽっ」

飛雲がめちゃくちゃオトメ――――っ!?鬼畜小姑が森ルートを選ばなかった理由がこれである……っ。


「マオピーも嫁としたと言っていてな」

「……うむ」

飛雲の言葉にマオピーが頷く。え……?マオピー既婚者!?そこに一番ビックリした。


「まぁ、マオピーは妖魔帝国側でだが」

「うむ、主君」


「……まずは何をしようか」

お面越しでもウキウキしてるのが分かるわね。


「マオピーは嫁とどんなことをしたのだ」

「美味しいものをあーんしあっこした」

「……美味しいもの……っ」

飛雲がこちらを見つめる。


「スイは食べたいものがあるか?」

「……その……ここなら、包子バオズを食べたいわ」

この海辺の街はさまざまな具材の入った包子や串焼き、クレープなど、露店で買い食いできるフードが有名なのよね。公主と言う立場だから、表立って街歩きなんてのはできなかったけど……今なら、できるかしら……?


「では、それを買いに行こうか、スイ」

自然に差し出されたその手に驚きつつも……いい、のよね。何だか本当にデートみたいだわ。


差し出された手を取れば、お面の向こうで飛雲が微笑んだ気がした。だけど……飛雲のそのお面は……大丈夫なのかしら……?


そして案の定……見られている。いや、周囲は地角、範葉、マオピーが護衛してくれているから安面は問題ない。

国境地帯ならではの風景なのか、妖魔族のひとたちも見かけるから、角やもふもふも問題ないと思うのだが……。


「お面……?」

お店のひとが絶句してるーっ!

いや、まぁ布面のひとなら知ってるけど……!範葉もタオ叔父さまと出掛ける時はこんな感じだだたのかしらね……?


「あ、あの、おすすめをくださる?」

そう告げれば、お店のひとが慌てて包子を包んでくれる。

人数分買って、地角が会計を済ませてくれる。そして範葉たちの分は彼らに渡す。

その一方で……。


「あれ、お嬢ちゃん……」

「……はい……?」

何だろう……何か変だっただろうか……?


「その髪と目、公主さまみたいだな!」

「へぁっ!?」

てか……本人なのだが……。でもバレたら確実に騒ぎになるから……ナイショである。


それでもさすがに、私を本人だとは思わなかったらしい。

姿絵くらいは伝わっていても、まさか本人だとは思うまい。


「だけど……スイ公主はいい方だが、聞いたかい?陽亮の公主はねぇ……」

「見た目はいいらしいけどねぇ」

お店のひとたちが苦笑する。

弥花は見た目だけはいいものの、隣国の庶民にまで評判が知れ渡っているわね。


まだここまでタイムリーに婚約破棄の件は出回っていないようだけど……私が妖魔帝国に嫁いだと発表されれば、鄭逸の愚行と共に弥花のやらかしが明るみに出るのも時間の問題よね。


私の輿入れが大々的に発表されていないのも、道中の安全のためなわけだし。

あと私の輿入れを、鄭逸と弥花のやらかしで泥を塗らせないためってのもあるわね。


「さぁ、食べようか」

そう、飛雲が誘ってくれる。そうね、まずはこの街のグルメを楽しまなくちゃ。

ちょうど腰掛けながら食べられるスペースを見つけ、みなで軽い昼食となった。


「んんっ、中の野菜入りお肉はジューシーでやわらか~~っ!ふわふわの生地も絶妙にマッチしていて……絶品だわ!」

しかも野菜もたっぷりだから、女子にも嬉しいっ!

「うむ……妖魔帝国にも似たようなものがあるが……こちらとはまた味が違ってよいな」

飛雲もお面の中に器用に包子を入れながら食べている。

確かに妖魔帝国は妖魔帝国で、味付けが違うはずよね。今からでも行くのが楽しみだわ。


そして目一杯包子を食した私たちは、次は国境越えである。

馬車の中では、再び飛雲と2人っきりだ。

しかし飛雲は何故か小さな籠に花を摘んで持ち込んでいた。そのお花……どうするつもりなのかしら……?そう思っていれば、飛雲がおもむろに花を一輪手に持ち、そして……。


「好き……嫌い……好き……嫌い……」


花びらを摘まみとりながら紡がれるその秘密の呪文は……っ!


「好き……嫌い……」

そこで、花びらが全て取れた。


「スイが……私のことを……嫌い……」

やっぱり恋する乙女の花占い――――っ!全く……!お花持ち込んだと思ったら、また何てかわいいことを始めるのだ、このひとは……!


「ずーん……」

しかもかなりのショックの受けよう……っ!


「何言ってるのよ……!私は飛雲のこと、好きよ!?」

出会って間もないのに、こんなにも好感を持てている。妖魔族だとか人間とか関係なしに、私はこのひとなら夫婦として共に歩めるのではと思い始めてるんだから……!


「なら……」

「飛雲……?」

飛雲のまっすぐな赤い瞳と目が合う。


「おまじないの口付けをくれ」

お……おまじないの口付け……!?さすがにそれは、初めて知ったのだけど……こちらの世界ではそうなのかしら……?


「マオピーが言ってた。占いで良くない結果が出たら……嫁におまじないの口付けをもらうって……」

ま……マオピー!この花占いは、マオピーがこの乙女妖魔帝飛雲に授けたってこと……!?そして良くない結果が出たときに、奥さんにおまじないの口付けをもらうマオピー……ヤバいかわいい。


「だから……スイからの……おまじない……」

目の前でもじもじしながら見つめてくる飛雲も負けてないけどね……!


「でも……お面越しよ……?いいの……?」

「……っ、そうか……そうだった……」

飛雲がしゅんとしてしまう。うーん……とは言え無理矢理お面を取らせるのも良くないわよね。


「だったら、私が目を瞑るわ」

「……スイが……?」


「だから、あなたが私に口付ければいいんじゃない?」

「だけど、おまじないは……嫁から……」

そ……それもそうだけど……。


「あ……分かった」

うん……?何故か飛雲が納得した……?飛雲からの口付けでも、可だと思うことにしたのかしら。飛雲の場合は、お面と言う事情もあるのだ。


だから今回は特例と言うことで。私は静かに目を閉じる。


目の前で、お面を脱ぎ去る音がする。てか……その、勢いでここまで来てしまったのだけど……これってつまり……キス、するのよね……?口付けなんだから、キスよね……!?私……実はとんでもないものしていいって言ってしまったぁ……っ!?

あぅ……あぁぁっ!でも今さらダメだなんて言えない!飛雲がさらにしゅーんとなっちゃうわ!

ど……ドキドキ……胸の鼓動が速くなって、緊張マックスよ!?でも……女は度胸。度胸よそうよ!だから、頬に落ちるであろうその感覚が来るのを、じっと待つ。


――――しかし、その時。


ちゅっ


そう、触れたのは、頬ではなかった。私の……唇ううぅっ!?その、え、頬とかじゃないの!?


「スイ、目を開けて」

いつの間にかお面をつけたらしい飛雲が呼んでいる。


「……っ」

ゆっくりと瞼を上げれば、そこにはすっかり見慣れたお面がある。


だけど……そのお面からちらりと見える赤い双眸を、まっすぐには見れなくて。

それに……唇……。

そっと唇に手を翳せば。


「ちゃんとスイの口付けを受け取ったぞ」

た、確かに……!唇同士が触れあったのなら、私の口付けでもあるのだが……。

だからって、いきなり唇とか……っ。そうか……飛雲が閃いたのは、そう言うことだったんだ……!


「ふふっ、スイの口付けだ。おまじないがあるから、大丈夫だ」

飛雲は嬉しそうにそう笑う。んもぅ……どこまでもかわいすぎるのは……反則よ……。


まだ鼓動がトクントクンと高鳴ってるのよ……?まともに飛雲を見られないから……仕方がないので、残りの花で花輪を編む。


「スイは器用だ」

「ま、まぁね……」

これも気分転換の一貫よ。


「人形も、楽しみだ」

「……うん」

そう言えば、人形を作るって約束もしてたわね。人形の型紙製作のことを考えてたら、気も紛れるかしらね。




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