第8話 妖獣討伐


――――月亮皇国から妖魔帝国まで向かう際に通る見事な海岸線は、国境越えの醍醐味とも言えよう。


しかし、その道中、妖獣はやはり多少は出るので……。


「あぁ、楽しいねぇ。肉だ肉ぅっ!」

ニコニコ笑いながら妖獣を屠るドS小姑め、アンタ戦闘狂かよ。


「スイのために……美味しい肉……!」

張り切りながら妖獣を討伐する飛雲フェイユンはかわいいからよしとしよう。


一行が進む馬車の手前、現れた妖獣たちに、戦闘狂が肉だとはにかみこうして討伐しているわけだ。私は飛雲から、マオピーの影で襲われないよう待っているようにと言い付けられている。


まぁ、ひとの城市まちに流れても厄介だから、討伐自体はいいのだけど。


「く……っ、次から次へと!」

そして戦闘狂たちに負けず劣らずの範葉ファンイェもやるわね……!でも……何だか攻撃が範葉に集中していない……?


「やめなさい!」

そう叫べば、妖獣が一瞬こちらを見た気がした。いや……何故。

しかしその瞬間。


「……やれやれ、旨そうな匂いでも嗅ぎ付けたかねぇ……」

地を這うようなその声が、一瞬誰のものなのか分からなかった。何かとてつもない恐ろしい何かが、いるような。


だがその視界が捉えたのは、くるりと身を翻し、範葉の加勢に入る地角ディージャオの姿だ。

まさか地角って、桃叔父さまの同類……いやいや、まさかね……?


そして地角の脚が地に降り立った瞬間、妖獣たちが脅えたように固まる。


「肉・到了ゲット~!」

しかし華麗に妖獣を屠りながら、へらへらとまた笑いだすのだから……。

やはりさっき感じた底知れぬものは……気のせい……?


「地角はとても強いからな。私の自慢の側近なのだ……!」

狩った肉を素早く捌きながら、飛雲フェイユンが教えてくれる。


強いと言うか……別次元では。だけど、妖魔帝の側近なのだし、強くてなんぼかしらね。そうじゃなきゃ、妖魔帝だって少数の護衛と私を迎えに来たりはしないか。


「申し訳ありません。自分のせいで足を引っ張りました」

範葉が地角に詫びる。けれどそれが妖魔族と人間の差。それでも範葉は腕がたつほうだと思う。陸叔父さまにも指南を受けているはずだが、それ以上に……あのタオ叔父さまの義息子である。


「いやぁ、範葉はよくやってると思うよ?むしろ数が偏ったのは俺の影響かなぁ……」

それはどういう……?確か歴史好きの友人が昔、妖獣すらも逃げ出す四柱の凶星の話をしてくれたが……桃叔父さまじゃあるまいし……まさか関係ないわよね……?


「でも大丈夫大丈夫!飛雲が縁起物のお面被ってるからねぇ」

そう、地角が笑う。


「……縁起物……?饕餮紋のお面が……?」


「魔を食らう魔除けのお面なのだ」

飛雲が嬉しそうに語る。


「あぁ……確か……何でも食べちゃうから……」

饕餮とはたいそうな大食らいを表す。その元ネタは、前世の中華もので言う四凶のひとつ・饕餮とうてつが何でも食らってしまい、それが魔に通じるものも含むからと、魔除けのシンボルとなったと言う話だ。

この世界にも、四凶と通ずる存在がいるのだ。それが饕餮、檮杌、窮奇、混沌。尤もこの世界では踏襲制の特殊な妖魔族のことをさすのだが。


「だから、私に振りかかる魔はお面が食べてくれるようにと、地角がこれをくれたのだ」

「へぇ……そうだったの」

地角ったら、いいところあるじゃない。見直したわ。


「さて……妖獣は屠ったし……今夜の野宿はここでしようか!」

うおおおぉいっ!前言撤回――――っ!せめてちょっと場所変えるとかしなさいよ!血抜きした場所よ!?逆に妖獣や獣を誘き寄せたらどうする!!


「だが、地角、海辺の城市が間近だ」

「……それもそうだったねぇ」

地角が笑う。そうよね。ここにもほんのりと、潮の匂いが届いている。

雰囲気的には、どうやらここで野宿は回避できたみたい……?


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