かみなり様

青野ひかり

第1話

今日の夕食はカレーライスと味噌汁だ。

カレーは母が作り、味噌汁は私が作った。

相変わらず母が作ったカレーは美味しいし、私が担当した味噌汁も野菜の甘さと味噌がマッチし、溶いた卵がフンワリしていて悪くない味だ。


ところがあるときから、急に胃がせり上がり、夕食を味わうどころではなくなってしまった。

私の一番の天敵であり、恐怖の対象、かみなり様が鳴り始めたからだ。冷や汗が出てきて、食べることが出来なくなり、リビングのソファの影で三角座りをし、両耳を塞いだ。

私が雷に耐えるときの定番スタイルである。


食事を中断しても、カレーを作った人は全く怒らないでくれた。

なぜなら、三角座りの私の目の前で、その人も同じポーズをしているからだ。

私の家のリビングには扉と壁の間に、ちょうど人一人が座れる謎のスペースがあり、そこがその人の居場所だ。

ただの設計ミスで雷とは全く関係ないが、避難場所として役立っている。

もう一人の同居家族の父は、妻と娘の同じポーズに呆れながら、夕食を普通に食べ進めている。


私がこんなにもかみなり様が怖くなったのは、大人になってからのことだ。

数年前、私の住んでいる地域に今まで感じたことのない激しい雷雨がやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る