High海-hai-テンション

ジェン

High海-hai-テンション

 照りつける日差しとは裏腹に、涼しさすら感じさせる潮風。


「もう夏も終わり、かぁ」


 哀愁漂う独り言も、ここなら誰かに聞かれる心配もない。

 寄せては返す波の音がかき消してくれる。


 景色は言うまでもなく壮観。

 終わりなき水平線を眺めていると、無意識に吸い込まれてしまいそうになる。

 この先には何があるんだろう、どこに続いているんだろう、と哲学じみたことを考えてみたくなってしまう。


 一夏の思い出に浸りながら、私は熱帯びる砂浜を踏みしめた。


 足裏とビーチサンダルの間に砂が入り込んでも気にしない。

 鼻を衝くような磯の香りも、むしろ心地よささえ感じる。

 海という推しなら全てを愛せる。


 今年の夏はいろいろあったような気もするし、何事もなく過ごせたような気もする。

 楽しいこともあったし、嫌なこともあった。

 いずれにせよ、ここに来ればどんな出来事もいい思い出へと変換してくれる。


 波打ち際まで近付き、私はビーチサンダルを脱ぎ捨てた。


 足首の辺りまで水に浸かると、目も覚めるような冷たさが勢いよく駆け上がってきた。

 背筋を伝い、頭の先へと突き抜けていく感覚――これがたまらなく気持ちいい。


 どれくらい水遊びに興じていただろう。

 テンションが最高潮に達したところで、不意に冷静さを取り戻した。


 私、1人で何やってんだろ……でも、いい気分転換になったかな。


 雑に放られたビーチサンダルを拾い上げ、最後にもう一度海を眺める。

 そして、心の中で夏に別れを告げる。


 また逢う日まで。

 次来る時はもっと素敵な思い出がいっぱいありますように。


 自然と笑みがこぼれ、私は大きく頷いた。


「よしっ、明日も頑張ろ!」

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