[メイク]

「○○さん。悪いんだけど、この書類をあそこに届けに行ってくれないかな?」


「はい。任せてください」


 ハンドクリームを塗り、ハンドマッサージをして潤い整った手で書類を受け取る。手指だけではなくきちんと爪も整えている。紙を扱うと乾燥してしまうから、ケアは欠かさずに。




「○○さん、今日のプレゼン頼んだよ!」


「ありがとうございます。頑張ります」


 プレゼン。人前できちんと話せるかな? 心臓がドキドキしているけれど、きっと大丈夫。唇に魔法の色を乗せるの。これで私は話し上手のプレゼン上手。とんでくる質問にも、きちんと答えられるわ。




「○○さん! こことの契約は、絶対に取らなきゃいけないよ!」


 失敗できない契約交渉の日。私は優秀であると自信をつけて交渉をするわ。だって目に特別な色を乗せているから。私の目を見て? 私の話を聞いて? どう、この交渉は良いでしょう? ってね。





 今日は彼とのデートの日。今日の為にも全身のケアは欠かさずに行ってきたわ。だから私は自分に自信が持てるの。頑張った努力は報われるから。


「大丈夫。私は可愛い!」


 思い込むことも大切だと誰かが言っていたの。私もそう思うわ! だから私も自分が可愛いと思い込むの。そうすると、何だか自信も出てくるわ。


 自信が出てきたら顔に手際よくメイクをしていくの。デートの日には決まって使う特別な魔法。彼の視線を離さないアイメイク、思わず触ってしまいそうになる薄く色付けた頬、楽しくお話しできるように願いをかけたリップメイク。


 ガサガサの手では手が繋げないから、お気に入りのハンドクリームで手を整えて。爪にはお気に入りの色を塗って、気分を上げて。


 

 ほら、綺麗な色の魔法をまとった私は最高に可愛い彼の彼女! あっ、約束の時間だわ!





「行ってきます♪」


 足取りは軽く、大好きな彼のもとへ!





<貴方の魔法道具は何ですか?>

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お話 短編集 エミリー @onemuna-usagi

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