私のお気に入り

白崎祈葵

第1話

古都の花が咲いて

こぼれるような笑顔に触れた時


萌え出づる瑞々しい小さな手を私の掌に包んだ瞬間

その温もり

小さないのちの躍動感

もっと手を繋いでいたい


私が歯を磨いていたら

「なにしてるの?」と妖精が来てくれて

私のスカートの裾の辺りに纏わりつく姿


私がスプーンに乗せた酢豚を妖精の口元まで運び

勢いよく食べてくれた時の喜び

もっと食べて!もっとごはんを山盛りに!


大好物の紫の宝石を野菜室から出すと

妖精は歓声を上げて飛び跳ねて来る

私はひたすら皮を剝き続ける

私の親指の爪の中に

三日月の形をした濃紫のシーツが敷きつめられる

紫の宝石から現れた若草色の艶々と果汁滴る甘美な実を

妖精はひたすら口に入れ続ける

妖精の口が栗鼠のように膨らんでる時を見計らって

私は素早く実を食べる

束の間 束の間

急いで味わう私の葡萄は

まるでスタッカートの様に私の喉に消えていく


私が梨のヨーグルトを食べる時

妖精はいつも目敏く察知する

今日も「乾杯!」ってして一緒に食べたね

妖精は金色の兎のスプーンで

まるで天丼でも搔き込むように梨のヨーグルトを食べ

「いっちばーん!」って叫んで嬉しそう

まだ微かに残ってるヨーグルトを私が「あつまれー」して食べさせる時

妖精はずっとウィンクしてた

まだ上手に出来なくて

眩しさを堪えるような顔をしてるのに

妖精のウィンクはとびきり可愛く映るの

私の眸には


本屋さんに行くと

妖精にプレゼントしたい絵本を探してしまう

一昨日は熊や青い馬や紫の猫が出てくる本を

昨日は音が鳴る車の本を買って帰った

妖精に毎日プレゼントを贈りたい

美しい日本語で四季が書かれた本も

砂の文字のあいうえおも

本当はおままごとの和食セットだって

クリスマスまで待たないで今すぐプレゼントしてあげたい

妖精が熱心におままごとの料理を作る後ろ姿の

可愛いあたまの髪の毛を眺めるのが好きだから


地球で巡り会えた私たち

どんな運命がこの愛を授けてくれたの

輝きを失い

彷徨い泣き叫んでいた私のところに


走り出す車の中で

流れていく風景の中で

青空の光の中で

鈴を鳴らして もっと鈴を鳴らして

その鮮やかな桃色の鈴を

もっと強く揺らして


神様がいる夕焼けを見つめるあなたの瞳の

湧き水のような燦きが忘れられない


血が滲む涙で濡れていた私に

あなただけは愛を思い出させてくれる


妖精の魔法で

私の心にもう一度花が咲く

信じられないほど大きな花が

その花はとにかく輝いているの

バラ色でもない

虹色でもない

とにかく眩しく輝いているの

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私のお気に入り 白崎祈葵 @matsuri_spoon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ