僕の大好きなロリ同級生、本当は知識が無さすぎる官能小説家でした
雪宮 楓
第1話 僕は告白がしたい
「あ、紅崎さん!」
僕は教室で2人きりのまたとないシチュエーションで彼女に声を掛けた。玉砕覚悟。当たって砕けろ。
「えっと、ずっとあなたのこと追いかけてます……!」
なんだか直球な告白とは外れてしまった気がする。受け取り方によってはストーカーと取られそうだ。ち、違う、早く次の言葉を言って取り返さなくては……!
「い、いや……えっと……!」
僕は焦りのあまり、上手く言葉を出すことができない。友達がいなくて、普段から会話をすることなんてない。なんて訳では無いが、大好きな女の子を前にしてスラスラと言葉を並べられるのは詐欺師くらいのものだ。
「あ、これスケジュールです!良かったらっ!」
てっきりグダグダな告白に、上手く決まらない言葉で引かれているとばかり思っていたのに彼女は明るい笑みで僕に1枚の紙を差し出していた。そこには、
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と、書かれていた。はて、これはなんだろうか……。
「こ、これは……?っていうか多分伝わってないと思うんですけど、僕は紅崎さんとほかの人たちとは違う1歩踏み込んだ関係になりたいと言いますか……!」
あーあー、話せば話すほど墓穴をほっている気がする。完全に気持ち悪がられる。僕が紅崎さんだったら真顔でスルーで帰宅といったところだ。
「なるほど……。お、お家に来たいってことですか……?」
「へ、へ!?」
「え!?ち、違いましたか!?1歩踏み込んだ関係ってそういうことじゃ、ないんですか……?」
紅崎さんの言葉にお茶を飲んでいる訳でもないのに吹き出しそうになる。まさか、家に誘われるとは……。というか、そんな話をしながらモジモジと恥ずかしそうにスカートから覗く太ももを擦り合わせているものだから僕は唾を飲み込まざるを得ない(不可抗力)。
◆
「えへへ、ちょうど人を探してたので助かりましたっ!」
栗色のツインテールを揺らしながらえへっと笑う彼女の家に自分が足を踏み入れていることが未だに信じられない。あのタレ目がちな目も、ふにゃっと笑う口元もずっと遠くから眺めていたというのに……。というか、人を探してたって言った?ということは、他にもいっぱい男が来てる……?
「あ、紅崎さん……。僕でよければいつでも来れるから誘ってね」
頬が熱くなっている気がする。身長が低くて、体つきもやや大人しめな紅崎さんがそんな生活を送っていたとはにわかに信じられないけれどほかの男に取られるくらいなら僕が全部担ってやる。そんな覚悟で彼女に言った。
「ありがとう!じゃあ、これ校正お願いね♪」
そう言って彼女から、紙の束を手渡された。そこには文章が綴られていて、それの校正をお願いされたらしかった。うん、こういうのは得意だ。
「秋田くん、これ追加ねっ!」
「あ、うん」
「秋田くん、読むの早いね……!」
その後も紅崎さんから手渡される紙に綴られている文章を校正していく。ん?僕、何やってるんだ?まあ、紅崎さんの役に立つならいいんだけど、あれ……?
「紅崎くん、お茶入れたよ♪」
耳元で可愛らしい声がした。声の方に目を向けると、にこっと笑いながらマグカップをふたつ持っている紅崎さんと目が合う。はて、何をしていたのだろうか……。
「……。赤崎さんって、小説家だったの……!?」
「え、知らなかったの……!?て、てっきり知ってるものだと思ってた……それで追いかけてくれてるのかと……」
「え、あ、追いかけてるって言うのは言葉の綾で……」
「えええ!?じゃあ、なんで手伝ってくれてたの!?ていうか、どうして家に着いてきてくれたの!?」
「そ、それは……」
それは、あなたと何かがデキるかもしれないと思ったからなんて言えない。僕は顔の火照りを誤魔化すようにお茶を飲み干して、立ち上がった。暑い、熱い、あつい――。
「か、帰ります……!!!」
◆
「紅崎さんが、小説家……」
僕はぼんやりと帰り際に申し訳なさそうに説明してくれた紅崎さんの顔を思い出す。もう何冊も文庫本を出していて、ファンも一定数いるらしい。僕も、その中の1人だと思ったということだろう。
「僕が持ってる小説なんて、ほとんどこんなのだよな……」
本棚に目を向ければ、官能小説と呼ばれるジャンルの本が並んでいる。まあ、男子高校生ですし……。漫画も映像も多種多様なものがあるけれど、僕は自分で妄想を膨らますことのできる小説が1番好きだった。
紅崎さんに見せたら叫びそうだなぁなどと思いながら、お気に入りの1冊取り出してパラパラとめくる。紅崎さんの活動名は紅野 ヒロトと言うらしい。大好きな紅崎さんが書いてるものだし、今度本屋に行って――。
「は、はぁぁあ!?」
僕は手元にある本の作者名を見て、大きな叫び声をあげた。そこに書かれていたのは、”紅野 ヒロト”だった。それは、紛れもなく僕の大好きな紅崎さんの作家としての名前である。
僕は、呆気にとられたまま数秒固まった。どうやら、僕の大好きなロリ同級生は僕が推している官能小説家だったらしい。
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