木曽武士

麝香連理

第1話

永正元年(1504年)


「幸吉!」

「右衛門、どうした?城門でも破られたか?」

 俺と同じ足軽の右衛門が走ってきた。

 現在は姉小路家臣の三木重頼の軍勢と戦ってる途中で三尾からやってきた援軍で我らが王滝城は助かり、木曽家本軍が王滝城で食事をとっている所だ。

「いや違うんだ。裏木曽の方から百人近い兵士が下ってきたんだ!」

「なに?旗は?」

「分からん、斎藤様に聞いたら援軍だろうっておっしゃってよぉ。どうする?」

 斎藤様は木曽家本軍の殿軍を任されているすごい方である。

「…一応、警戒はしておこう。」

「あぁ、頼んだ!」


 裏木曽………あれか………確かに敵兵にしては急ぎすぎてるな。斎藤様の言う通り援軍か?来たのは裏木曽っぽいし…………


 いや待てよ?にしては………っ!

「敵襲ぅ!敵襲ぅ!!

 裏木曽から百人の敵襲ぅ!!!」

 まずい、奇襲だ!城の兵士はさっきの戦で態勢が立て直せていない!クソ!流石は飛騨の大名ってか!


 俺や他の守兵が弓の準備をしていると、食事をしていたはずの斎藤様が先頭に立って防衛する。

「す、すげぇ……」

「さすが斎藤様だ………」

 



「風波!」

「なんでしょうか!」

 俺の直属の上司である吉田伝左衛門様である。

「現在斎藤殿が戦っておられる!我らは支度を整え打って出るぞ!」

「承知!」

 俺はすぐさま陣笠と軽い鎧を身に付け、槍を持って戦場に向かう。



「よぉし、集まったな!行くぞ!」

「「「おぉぉ!!」」」

 総勢三十程度。苦戦する飛騨軍を攻撃する。

「一人でも多く討ちとれぇぇ!」


 む、右衛門が敵兵を一人が討ち取ったな。俺も負けてられんな。…………おや?あれは騎馬武者か。いっちょ一当てしてみるか!

「おいおい、その馬は飾りかよ!」

 挑発がてら槍を下に構える。

「な!?舐めるなよ雑兵ごときがぁ!」

 騎馬武者が脇差を抜き放って突撃してきた。

 見た感じ、若武者って感じだ。まぁ俺よりは年上だろうが。

「ひゅ~勇ましい。だが、下がお留守だぜ!」

 不意を突いて俺は持っていた槍をぶん投げる。

「な!?……がう!?」

 咄嗟の事で避けられなかったのか、馬の首に深々と槍が突き刺さり、武者は地面に身体を強打する。

「ほい、首確保!」

 俺は武者の元に駆け寄って腰刀で首を取り、味方の方まで逃げる。

 俺の持ち前の素早さでなんとかなったが、若武者を守っていたであろう兵士や傅役と思われる老兵が殺意の籠った目で俺を狙ってきた。

「うおぉぉぉぉ!死んでたまるかぁ!!」

 俺が敵兵の槍を避けつつ走っていると、放火されて焼け、敵勢が布陣している上島砦の方から鬨の声が聞こえてきた。

 やっぱりこの軍勢は一部だったか。上島砦にいた敵兵が押し寄せてくるのが容易に予想出来る。

「む!皆戻れ!城に戻れー!」

 吉田様の声に一目散に城に向かった。ちなみに俺が一番乗りだ。

「風波!また一人で逃げおって!」

「いえいえ、見てください!この首を!騎馬武者の首ですよ!」

「はぁ…まぁ良い。敵の攻勢は一層厳しくなるだろう。気を引き締めろ!」

「「「は!」」」

 


「来たか………」

 上島からやってきた敵兵の迎撃は野路里様……いや、あれは…………援軍か!

 方角は滝越、三浦様だろう。見たところ、民兵を四十から五十率いてといったところだな。

 それを好機と見たのか、野路里様に続いて大妻様、畑様、間壁様も続く。


 たくさんの人がうねるようにぶつかり合い、また離れていく。

 俺はそれを横目に見つつ弓を射る。


 さすが名の通った方達だけあって、敵をどんどん追い詰めていき、遂には王滝城に攻め寄せていた敵兵までもが元上島砦まで後退していった。


 それを追うように、三浦様を先頭に追撃を始めた。


「よぉし!城の修繕じゃ!」

 吉田様の号令を合図に守兵の大半が鋤を持って防備を固める。

 ちなみに俺は城外に出て、矢を拾う。

 矢だってタダじゃないのさ。使えるもんは使わねぇと。




 しばらく拾っていると、城から驚きの声が聞こえる。

「飛騨軍が攻めてきたぞおぉ!」

 よぉーくよく目を凝らしてみると、川沿いから逆に攻め上がってきていた。どうやら城から打ってでた木曽軍を欺いてこちらに攻め寄せて来たようだ。

 俺は慌てて矢を放り投げて城に戻った。




 が、城は陥落。当主の義元様は城を脱して、右衛門は王滝城に来援されていた松原様についていった。

 俺は最後まで城に残ってササッと敵に捕まった。

 まぁ、逃がすために稼いだ時間は無駄じゃなかったと信じたい。





 飛騨兵の不快な笑い声を我慢して聞いていると、突然城にいた飛騨軍が慌てて出ていった。

 何が起きたかは分からないが、今こそ千載一遇のチャンス!俺は今、城に俺より偉い人がいないことを良いことに、他の足軽達に指示を出した。

 防備を固めろ!と。


 木曽には質の良い材木がわんさかある。勝手に伐採してもバレんやろと、高をくくって伐採した材木を縄を使って三十人がかりで引き摺りつつ運び、城の周囲に配置しまくった。

 これで外に出れなくはなったが、敵の侵入も防げる。兵糧に余裕はないが、最悪伐採した樹木を食えば良いやろ。

 交代制で二十四時間警備させ、敵に備えた。

 



 結局飛騨兵は現れず、俺が城主気分に浸ってから二日程。味方である木曽兵がやってきた。

 その軍を従えていたのはまさかの当主義元様の弟である黒川三郎義勝様だった。


「皆!早く木を片付けるぞ!」

 俺が号令をかけると、黒川様が待ったをかける。

「いや待て。お主ら、この木をどれくらいで越えれるか試してみよ。」

 横倒れしている樹木の向こう側から黒川様の声が聞こえた。それと同時に一斉に樹木に群がる男達。

 黒川様は一番最初にこちら側に来れた者に銀貨を与えた。

「お主らは城の修繕に回れ!二日も城を守っていたのだ。守兵はゆっくり休ませておけ!

 それで?許可もなく木を伐採したのは誰だ?」

 その瞬間、城を守っていた守兵六十名の内、俺を除いた五十九名の視線が一点に集まった。

「そなただな?広間に来てもらおう。」

「……は。」

 オワタ………



「何を怯えておる?取って食おうなんぞ思っとらんぞ?」

「は……それは……その、伐採に際して、何か罰でもあるのかと…………」

「………ハッハッハ!ないない、ワシはそなたを褒めるために呼んだのだ。」

「えぇと、褒める……ですか?」

「あの樹木を使った防備、大雑把ではあったがなかなか悪くなかったと考えておる。」

「過分な御言葉!恐悦至極に存じまする。」

 急いで地面に頭を付ける。

 あぶねー、心臓バクバクだけど、めっちゃ嬉しい。

「そなた、名をなんと申した?」

「は!風波幸吉政康と申します!」

「そうか……ならワシの勝の字を与えよう。

 そなたはこれから勝康と名乗れ。」

「きょ、恐悦至極に存じます!」

 ま、まさか俺が偏諱を賜うとは……!

「………それと同時にで悪いが、弾正小弼様の元で働く気はないか?」

「弾正小弼様?」

 く、昔の人の名前はややこしすぎる!誰だ?

「義元様御嫡男の義在様だ。……いや、御当主様と言うべきか。」

 そっかー御嫡男様の名前かー………ん?

「は…今なんと………?」

「伊予守様は亡くなられた。先の戦の負傷が原因でな。」

 黒川様は沈痛な面持ちで呟いた。

「な、なんと………」

 まさか、齢十五で主君が亡くなるとは……確か義元様は三十歳だったか?で、弾正小弼様は確か…………十二歳か!以外と年が近いな。

「驚くのも無理はない、それに、野路里殿、三浦殿、大妻殿、畑殿、間壁殿も討死された。」

「ま、まさか……ぶ、無礼を承知でお聞かせくだされ。我らは負けたのでしょうか?」

「ふ、見栄を張って痛み分けと言ったところだ。木曽福島の兵三百と裏木曽からの兵三百で、飛騨軍の大半は討ち取った。お主が取った騎馬武者の首もそこで六つも取ったぞ。」

「な、何故それを……?」

「伝左衛門が言っておったのよ。配下の足軽に面白いやつがいるとな。名のある将が多く討たれた我らには能力のある人手が必要だ。そこで伝左衛門がお主を推挙したのよ。」

「よ、吉田様がですか?」

「なんだ?信じられぬか?」

「い、いえ……ただ、散々迷惑をかけた自負がありますゆえ。」

「ハッハッハ!伝左衛門がその程度の若気の至りを気にするほど狭量な男ではないわ!

 して、どうだ?ワシと主に須原城に来ぬか?」


 差し出された手を、俺は勢いよく握った。



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時代考証とかガバガバなんですが許してください。

これでも頑張った方なんです!!!

                by作者

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