ヴァーテックス・デオキシリボ

麝香連理

第1話

 ガ、ウィーン………

 ん?……………カプセルが開いた?何か問題でもあったのだろうか?外からなんとなく声のようなものが聞こえるが、目覚めたばかりでよく聞き取れない。そもそも、ここは日本じゃないから、通訳の人以外の言葉は分からなかったからそれのせいかもしれないな。

 途轍もなく重い瞼をゆっくりと開ける。それ以外の身体は思ったように動かない。

 俺が動けないと察知したのか、俺はカプセルの外に連れ出される。視界の端で、何かが光り揺らめいている。

 火でも焚いたのか?………いや、遠赤外線だったか?それだろうな。

「…ぅ………や……り……………か…?」

 暫くして身体が慣れてきたのか、声が聞こえるようになってきた。人影も見れる。

 …………一人?通訳の人かな?医務室にでも連れてかれたか?それよりも、気になるな。どうして俺を目覚めさせたのかだ。

 何か問題があったのかならまだいい。だが、俺の細胞は解析し終えたから用済みだとか言われる方が最悪だ。

 俺の細胞はどうやら突然変異らしく、若返りや身体能力の増加。健康な肉体に毛髪安定など、人間が欲しいと願うものの種が多くあったらしい。俺にはそんな知識はないのでほとんど知らないが。

 そこで、国力が低下していた日本、つまり俺の故郷の国は俺を差し出し、世界に貢献することで地位を取り戻そうとしたそうだ。

 …まぁそれはぶっちゃけどうでもよくて。そのかわり、俺の家族や友人への相応の手当を要求した。これが面白いように通っていき、俺がいる限り彼らに不自由はないと約束してもらった。

 契約書とかのサインはクソだるかったけど。


 昔のことを思い出してる内に、身体がぎこちなくだが、動くような感覚が甦った感じがした。

 さて、まずは今は西暦何年か聞かないとな。

 俺は手探りしながらゆっくりと起き上がった。

「きゃあ!?」

 ?少女?あの研究所に少女はいなかったはず……聞き間違いか?

「んん………なぁ、今は何年だ?」

 目が見えるように瞬きをしながら尋ねた。

「今ですか?……今は名王歴1016年です。」

「は?」

 めいおうれき?西暦じゃない?……もしかして、俺の細胞で人間が進化したから暦を替えたのか?研究者達は相当気合いが入ってたし、世界中の富豪達が資金提供していたから、していても不思議じゃない。

 頭の中のはてなが数多く残ったまま視界が完全に回復した。

「は?」

 目の前にいたのは、まるでアニメのような…深紅すら霞む程の赤い瞳。一本一本がしっかりしているようでとても柔らかい印象を与える綺麗な金髪。

 確定とは言えないが、どちらも天然だと思う。

 そして愛らしさのある可憐な顔立ち。ハッキリ言おう。タイプである。まぁ、男なんて大体の女はストライクゾーンなのだよ。(※彼の意見です)

「えっと………だ、大丈夫ですか?」

「んあ?あぁ、スマン…………」

「いえ、それはいいのですが………それよりどうしてこんなところに閉じ込められていたんですか?」

 ………もしかして、どっかの富豪の娘とかか?よく分からないまま俺を起こしたみたいな。あぁーじゃあ科学者でも誰でも、とりあえず大人を探すか。

「………あぁ、お嬢ちゃん。どっかに大人はいないかい?出来れば呼んで来て欲しいのだけれど。」

「え?っと……ここには私とあなたしかいませんよ?上でなら仲間が詐欺師たちを捕らえている所でしょう。」

 あっけらかんと、物騒な単語が出てきた。

「は?ど、どういうことだ?」

「……ここは、フェザー教の総本山の地下施設です。私、カンドラール王国の兵士としてここを調査していました。」

「調査?」

「はい、フェザー教はこの世界の宗教で最も古い宗教なのですが、他の宗教の聖典と内容が合わないことを理由に次々と他の宗教や国まで滅ぼしていたのです。そこで、我々は一丸となって今日、フェザー教を壊滅させた所で、この施設を見付けました。」

 あ?あ?あ?あ?……訳がわからん。作り話にしてはやけに真剣に話しているし、かわいい子の話はなるべく信じてあげたい。

「えっと、その……悪いんだが、状況が上手く飲み込めないんだ。記憶が混濁しているかも………」

 少し罪悪感はあるが、ここは情報が欲しい。

「んん、何がお望みですか?」

 ……むず。あー

「じゃあ…フェザー教の聖典?を教えてくれ。」

 最も古いってんなら、俺が知ってる何かがあるかもしれん。

「少し長くなりますが……んっんん!

 私達がまだ名王歴を宣言する遥か昔、私達の国に一人の青年がやって来ました。彼こそ後の最高神フェザーである。

 彼の姿を見るだけで人々は争いを止め、幸福をもたらした。

彼の吐き出す息には人々をたちまち健康にし、万病から人々を救った。

 彼の匂いを嗅いだだけで人々の頭脳は限界を越え、全ての人間が高度な知識を得た。

 彼の声を聞くだけで人々は時を逆行し、若返りを果たした。

 彼の抜けた毛髪に触れただけで人々は超人的な身体能力を手に入れ、人類は全てにおいて生態系の頂点に君臨した。」

 …………一つもピントこねぇ。やっぱ海外の宗教だからか?

「人々は施しを与えてくれたフェザーに毎日三回、食事の前に感謝を述べ、祈りを捧げた。フェザーの献身はそれだけに留まらず、自身を封印させることで自身の身体を自由に使ってよいと許可を出した。出してしまった。

 そして、我々は過ちを犯した。途轍もなく愚かで最低で人間らしい過ちを。

 我々は考えてしまったのだ。フェザーが元々住んでいた国にフェザー同様の存在が何人もいたら、と。我々は元々国を滅ぼし得る兵器を所持していた。しかし、フェザーのお陰でその兵器を更に強化、改造を施し、我々はフェザーが住んでいた国を土地ごと海に沈めた。跡形もなく、完全に。

 国を滅ぼしたそれの名はサン・プリズム。これを受けた存在は、大陽が二個あるかのように錯覚した瞬間に存在が消失する。とても恐ろしい兵器だった。

 しかし、その兵器を使用したことにより国家間で争いが起こり、人々は絶滅寸前までとなってしまった。

 しかし、我々はフェザーから与えられた力で文明を復活させるまで至ったのだ。

 ……簡潔に纏めるとこんなものでしょうか。」

「そうか…………」

 まさか……いや、そんな…………

「どうされたのですか?」

「いや、なんでもない。それより、フェザー教というのはそこまでダメだったのか?」

「えぇ、まぁ。だって考えてみてください?我々が普通に使えているこの頭も、この身体も、神という虚像が与えたなんて、誰が信じると?私達は両親から生を受け、生まれた時からこの身体でしたから。」

 少女は誇らしそうに胸を張った。 

 …意外と……おっと、違う違う。

「なぁ、そのフェザー教の地下の怪しい施設にいた俺はどうなるんだ?」

「………私の見立てでも?」

「もちろん。」

「特別何かすることはないでしょう。あんな風に閉じ込めて、そんなに線も細いし……

 前に聞いたことがあるんです。フェザー教がフェザーを復活させようとしてるって。もしかして、あなたは生け贄だったのでは?それなら保護になりま…」

「そう!そうなんです!両親が熱心なフェザー教で、物心つく前にここに連れてこられたせいでなにも分からないんです!!!」

 誤魔化されろー!

「……そうだったんですね、分かりました!私が責任をもって保護します!」

「あ、ありがとうございます!!!」

 ふぅーセーフ!

「あ、名前まだでしたね?私はカンドラール王国諜報部隊所属、無音のエルミッサです。気安くエルミーとお呼びください。」

 ワンチャン意外と偉い人?

「あ、これはご丁寧に。…………えっと、」

 どうしよ?これ明らかに本名言ったら怪しまれるだろうなぁ。

「どうされたのですか?」

「俺は………そう!一号!そう呼ばれてました。」 

 咄嗟に言った。

「っ!………そうですか。一先ずこちらへ。」

「あ、はい。うわっ!?」

 俺はドテッとカッコ悪く倒れる。

 長期間冷凍されてたの忘れてた……まさかここまで上手く歩けないとは。

「あ!大丈夫ですか!?」

「あ、いえ……ちょっと感覚が………」

「肩貸しますね?」

「あ、ありがとう………」


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題名とあらすじと会話でこの話の中身を察してね。

暴走見切り発車の前にレールなんて無いんですよ!


                by作者

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