2, 右の猛犬

昨日は、投稿できずごめんなさいo(_ _)oペコリ

近況ノートに今日撮ったビッグ・ベンの写真貼っておくのでお許しを💦

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 ───2025年4月10日 カラスコ大陸北部


 札幌の『門』から突入してから、10日が経った、自衛隊 異界方面総合作戦部隊 札幌隊はカラスコ大陸の北部沿岸からおよそ50キロメートルの位置に点在する島々に拠点を構えていた。


 作戦本部は、『門』が鎮座する本島とその周囲に点在する50程度の島々をローツ群島と名付けた。

 『門』が鎮座する本島──ローツ本島は、沖縄本島のおよそ半分ほどの大きさだ。


 本島は突入当初、海賊の拠点となっており、『門』とその周辺一帯の安全確保のためこれを討伐。

 その後、先遣部隊が一日かけて本島の隅々まで索敵を行い、案の定潜んでいるところを発見し、数回の海賊との戦闘を経て、ようやく安全を確保した。

 そして、施設科の隊員達が『門』を中心にした生活拠点を3日で完成させ、その一週間後には滑走路とヘリポートまでもが整備されていた。


 そんな、施設科の目覚しい活躍により離陸可能となった、P1哨戒機1機とOH-1観測ヘリコプター2機が本島周辺の地形や海域の警戒、索敵任務に当たっていた。



 

 今回自衛隊に新設された、異界方面総合作戦部隊について、少し説明しよう。

 異界方面総合作戦部隊、通称───異界方面隊は、 陸海空の各自衛隊合同で部隊が組まれており、動員されている人員は述べ7500人。札幌、渋谷、博多の各隊に、2500人ずつが割り振られている。


 しかし、『異界』内で実際に活動するのはその内の2000人ほど。残りの500人は日本側での『門』の警備や、航空機などの整備などを行っている補給部隊だ。


 そんな、自衛隊が今直面している最も重要な課題。それは、自衛官の人員不足だ。

 いくら質のいい装備を揃えたとしても、それを操ることが出来る人員が居なくては意味が無い。


『門』出現前も、中国などの国々による、相次ぐ領空、領海侵犯により軍事的緊張感が高まっており、もしもの有事の際の人員不足が兼ねてより懸念されていた。


 そんな中現れた、新たな警戒対象『異界』。

 渋谷にて猛威を奮ったこれを、放置する訳にもいかず、重要度が低い部隊の人員を最低まで削り、その人員を集めて作ったのが今回新設された部隊だ。


 運用可能なギリギリの人数を攻めてようやく7,500人。されど7,500人。この人数を多いと捉えるか、少ないと捉えるかは、人によって変わるだろう。


 今、政府は自衛隊員の増員に全力を注いでいるのだが、その成果が出るのはもう少し後になりそうだ。



 そんな、人員不足の異界方面隊 札幌隊2,500人を率いているのは、高谷 直希たかや なおき 一佐だ。

 この男は、幹部候補生時代も優秀な成績を残し続け首席で卒業。彼が街に繰り出せば、スクアウトや逆ナンなんて日常茶飯事。


 容姿端麗、頭脳明晰、身体能力も彼の左胸に付けられた徽章の数を見れば理解できるだろう。

 そんな、スパーマンの彼は自衛隊の幹部の中では意外にも問題児扱いされていた。


 その理由は、彼の言動と思考回路にある。

 彼は、少し──いや大分考え方が右に偏っており、何本か頭のネジが外れてしまっている。


 そんな彼のその思考回路と強さから、幹部候補生時代に着いた二つ名は"右の猛犬"。



 そんな彼は、上からの指示で急遽元いた部隊の隊長と今回新設された部隊の部隊長を兼任。最前線で指揮を執っていた。


 彼はこの人事に応えるかのように『異界』でもその才能を遺憾無く発揮した。陸海空のバラバラ寄せ集め集団を部隊結成からたった一週間でまとめ上げ、突入後の海賊との数度にわたる戦闘を、死傷者を一人も出さずに成功させた。 その功績から、既に部下達からも厚い信頼を勝ち取っている。



 そんな彼は今、部下の1人から報告を受けていた。


「───以上が、第1次哨戒任務の結果報告です。」


「わかった、ありがとなー。下がっていいぞー」


「失礼しました」


「あっ、ちょっと待て」


 報告に来た隊員が退出しようとすると、いきなり、高谷一佐に呼び止められた。


「はい、なんでしょう?」


「そう畏まるな、大したことじゃない」


 隊員は上司にそう言われ、少し肩の力を抜く。


「お前も含め、第1次哨戒任務に当たった隊員たちには明日一日、日本側での一日特別休暇を与える」


「……いいのですか?」


「ああ、俺が直々に許可を出す。存分に楽しんでこい。その代わり、休暇後の働きに期待しているぞ?」


 その言葉に、隊員は少しずつ顔を困惑から喜びへと変えていった。

 『異界』は日本と違い、全くの未開の地。その最前線で働く隊員達には想像できないほどの、精神的ストレスや疲労が溜まりやすい。

 そんな彼らの数少ない楽しみが、日本側での休暇だ。普通なら、2週間に1回一日だけ与えられるのだが、それを一日特別に与えられたのだ。嬉しくないわけがない。


「はいっ!ありがとうございます!」


 そう元気よく返事を返し、1度深々と頭を下げ嬉しそうに退出して行った。


───その後、休暇を終えた隊員たちが全員高谷一佐の執務室に集まり、高谷一佐に感謝を伝えたと言う話があったとかなかったとか。

 


 隊員が去っていった執務室に残っているのは、机の上に山積みになっている書類との男だけだった。

 一人は、高谷一佐。もう一人は、札幌隊の副隊長、鍋島 煌鬼なべしま こうき二等陸佐だ。


 鍋島二等陸佐は、高谷一佐と幹部候補生時代の同級生であり、親友であった。


「流石の人心掌握術だね」


「まあな。天皇陛下の威光をこの世界の住民にも知ってもらうためなら、このくらい当然さ」


「またそれかい。なんで君が、そこまで天皇陛下に心酔しているのか全く分からないよ」


 そう、鍋島が肩を竦めて言うと、高谷は待っていましたかと言わんばかりに、口を開く。


「分からないのなら、俺が天皇陛下の素晴らしさを全て教えてあげよう!」


 宗教勧誘のおばちゃんもびっくりな、前のめりな高谷を両手で押えながら、鍋島は思わず溜息をこぼしてしまう。


 これが、一つ獲得するだけでも凄いと言われているレンジャー徽章。それを入隊後僅か1年でほぼ全て獲得して、史上最年少でに上り詰めた男の原動力か。


 本人が言うには、まだ子供の頃に色々あったらしいが、それを除いても才能の塊なんだよなーこいつは。


「ん?どうした?」


「いや。そういえば、この前あの国に送った打診。あれ、返事が来たぞ」


「ああー、あれか。それで返事はどうだったんだ。大分強気に出たつもりだったが……」


「『貴国の使節団を歓迎する』だそうだ」


「そうか、よかった。……あの国にも天皇陛下の威光が───」


「はいはい、それはまた今度な。とりあえず外務省に、使節団の編成を依頼しておくよ」


「はいよぉー」

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