Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋

序 血染めの渋谷事件

 導入部分を改めて大幅改稿しました。

 書きたいこと書けたので、個人的には納得のいく導入になったかなと。

 感想などの評価諸々お願いしやす!

 

★★★


 ———2025年1月1日 午前11時50分

 

 日本列島が新たな年を迎えてから、半日が経過した昼頃。

 動画配信サービスの【UTube】上で、常にLIVE配信されている渋谷スクランブル交差点には、年始セールの特売という戦場に向かう主婦や、日本各地だけでなく世界中から集まった観光客でいつもの如くごった返していた。


 

“日本にはかわいい女の子が必要です!”

“テレビの取材おる”

“ホントや~”

“🚘ブーブー”

“荒らし屋も年末年始休業だっていうのに俺は……”

 

 

 年始なのにも関わらず、謎に渋谷の定点カメラLIVEにしょうもないコメントを投下するネット民ら。

 すると、同じ垢のコメが虚しく連投されるだけだった配信のコメント欄に異変が起きた。いや、正確に言うならば、カメラの先——渋谷のスクランブル交差点に異変が起きたのだ。


 

“事故起きてる”

“マジじゃん”

“キターーーーーー!!”

“↑人の不幸を笑うゴミ”

“えぐい音したのだが?”

“十台ぐらい玉突き起こしてるし”

 

 

 何があったのか、先頭を走っていた複数台の車が交差点の中心で急停車したのだ。それに、後続の車たちが止まり切れずクラクションを大きく鳴らしながら次々と前の車に追突していく。

 歩行者信号が青になるころには、二十台近い乗用車やトラックが事故に巻き込まれており、年始の渋谷は騒然となっていた。


 200近くしかなかった同接数は、あっという間に1000にまで膨らみ、コメント欄の流れがどんどんと加速していく。


 

“普通にやばくない?”

“通報しました”

“てか、なんで先頭の車は止まったの?普通にそいつが原因じゃない?”

“何人死んだんだろ”

“火出てるくね?”

“賠償請求!賠償請求! ”

“消防も追加で通報”

“消防が通報されてて草”


 

 実際に事故現場にいない者たちがコメントを打っているせいか、同接数と共に不謹慎なコメントも増えていく。

 ここから更に、新年の渋谷は混沌を極めていく。


 

“なんか黒い裂け目みたいの出てきた”

“ガソリンか?”

“この何を見てたらガソリンになるんだよ” 

“じゃあどっかの企業の演出?”

“その企業は車諸共炎上する”

“じゃあなんだよ?”

“知らん、日本の終わりとかじゃね?”

“日本は既に終わってる定期”

 

 

 交差点の中央にいきなり謎の黒い裂け目が現れ、少し落ち着いていたコメント欄とスクランブル交差点が再びざわつき始める。

 同接数は1万を超えており、コメント欄に海外の言語が飛び交い始めていた。

 

 

“あ、警察と消防きた”

“めっさ来てるやん”

“What is this?!”

“そりゃそやろ、こんだけの事故なんだから”

“25年も正月に悲劇が起きてしまった……”

“Hoooooo!!”

“裂け目でかぁ!”


 

 そして、日本は遂にその時を迎える。


 ———2025年1月1日 午後12時00分———



 巨大スクリーンに映っていたデジタル時計が、12:00に変わった瞬間——裂け目が消えうせ、禍々しい気配を放つ謎の門が現れていた。


 

“は?”

“Wha?”

“は?”

“え、”

“なにこれ?” 

“門…か?”

“なんか騎士みたいなのが出てきたけど”

“コスプレじゃないの?”

“でも馬に乗ってるぞ?あと、変な旗担いでるし”

“どうせコスプレだろ”


 

 突然の出来事に頭が追い付かない渋谷の群衆の前に、5000人近い馬に跨った西洋騎士風の者たちが謎の門を通って現れた。

 先頭に立つ騎士の叫んでいるような声が僅かに拾われるものの、その言葉を理解できた者は少なくともこの配信を見ている人の中にはいなかった。


 

“おい見ろ、警官が三人向かってるぞ”

“危なくないのかよ”

“コスプレの可能性が高いとはいえ、相手は武装してるからな”

“だから、コスプレの可能性云々とかじゃなくてコスプレなんだって”

“銃持ってないし、距離取っときゃ大丈夫だろ”

“せめて規制線張れるまで待った方がいいのでは?”


 

 門から現れた謎の騎士に近づこうとする警官三人組を心配する声と、大丈夫だと楽観視する声でコメントは半分に割れていた。

 そんな中、警官三人組の先頭に立っていた上司と思われる女性警官が、先頭の騎士から10メートル程の距離のところで立ち止まり、騎士たちへと声をかけ始める。

 しかし、女性警官の場所とカメラの設置場所には距離がありすぎるせいで声が聞き取れない。

 

 

“なんて言ってるか分かる奴いるか?”

“この距離でわかるはずなくて草”

読唇術どくしんじゅつ持ちしかわからん”

“使えるけど距離ありすぎてわからん”

“噓松乙www”

“あ、警官たち戻ってる”

“なんだよ、結局戻るんかいwww”

“画面の前で文字打ってるだけの奴よりかは凄いと思う”

“ブーメランで草ァ!”


 

 警官三人組は、言葉が通じないので交渉を一度諦めたのか、騎士たちへ背を向けないように後ずさりながら警察車両へと戻っていく。

 

 しかし、その時に悲劇は起きてしまった。

 三人組が後退している最中に突如として炎上していた車が派手に爆発したのだ。更には、その一台の爆発が鍵だったかのように、次々と他の車へと爆風に乗った炎が燃え移り、漏れていたガソリンへと引火し爆発してく負の連鎖が始まってしまった。

 

 

“やばいやばいやばい”

“もう生やす草すら燃やされた”

“早く逃げろ!”

“OMG!”

“警察は何やってんだ!早く規制線張れよ!”

“爆風でカメラ揺れたぞ”

 

 

 配信のコメント欄も、先ほどまでの楽観視が混じった余裕感は消え失せ、逃げろというコメントが届くはずも無いのに流れていく。

 

 だが、最悪はまだ終わらない。

 その爆発を敵の攻撃だと勘違いした騎士たちが、今までは様子見だった姿勢を辞めて近くにいた一般人へと半パニック状態で襲い掛かり始めてしまった。

 


“マジでやばいって”

“グロ見たくないんでやめる”

“自衛隊早くこいよ!!マジで何やってんの!”

“これは現実なのか?”

“同じ東京都で起きているとは思えない惨状”



 そして遂に、とある騎士の持つ剣が同僚を庇った一人のの脇腹を捉えた。

 交差点の中央で舞う鮮血は、少し離れた場所に設置されている定点カメラにもバッチリと映っていた。



“もう無理”

“あぁ……”

“…………”

“もう見たくない”


 

 そこから先は、正に地獄絵図と称するにふさわしい状況だった。

 突然の爆発に驚いて混乱していた騎士たちが、真っ先に冷静になった先頭の男の指示を受けた。

 その命令は『虐殺』。下った命令に、騎士たちは嬉々として逃げ遅れていた無抵抗の一般人を、老若男女人種見境なく殺していく。


 警察側は、この惨状を最悪の事態として想定していたものの、だからと言って実際にその腰にかかった拳銃で人を殺せるものなど、訓練を受けていない警察官にはほとんどいなかった。


 

“やめて”

“ハチ公が血を……”

“シンプルに吐いた”

“見たくないはずなのに、目を離せない自分がいる”

 


 一時は3万人近くまで迫った同接も、流血シーンでダウンする者が続出し、今では5000人を切っている。

 警察側も数こそ少ないが、恐怖を克服した者や怒りで理性を持ってかれている者などが拳銃で応戦しているため、少しずつ甲冑の射殺体が騎士の殺した一般人の屍の上に重なっていく。

 


“これはテロなのか?”

“あいつ等は絶対に殺す”

“これが現実だと認めたくない”

“本当に何が起きているの?”



 現実を認めたくないというコメントが次々に流れていくが、そのコメント同時に誰かの断末魔がマイクに乗る。

 白と黒の横断歩道は血に染まり、交差点の中央には消えぬ炎が揺らめき、交差点の信号はすべて赤になっていた。

 そのまさに地獄というべきその絵に、誰かがコメントでこう言った———


 

“これはもう『血染めの新年ブラッディニューイヤー』だろ”


———この配信は管理者により消去されました———

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る