馬か、羊か

高乃原 健

馬か、羊か

 俺は、足が速いと言われている。タテ髪もある。よく言われるよ、筋肉質でカッコいいと。

あんなモジャモジャした奴と、並べられるのも嫌だ。大体見た目や、立ち方とかも似てるから

比べられやすい。俺がストレートパーマなら、あいつはモジャモジャパーマて、とこだな。


 私は自慢のフカフカした雰囲気が、可愛らしいと良く言われるわ。暖かそうだし、優しそうと。

私に会えば、皆そぅ言うわ。老若男女問わず好まれるのよね、私は。少し生意気かしら?

性格は悪い方かもしれないわね、見た目に反して。だってしょうがないじゃない。こんだけチヤホヤされれば、イイ気にもなるわよ。恨むなら、私じゃなくて私という存在を造った、神様を

恨むのね。


 いけ好かねぇ女だ。こっちを見てきてはニヤニヤしてきやがる。俺の顔に何か付いてんのか?

付いてんなら、取りにきやがれ。そん時は俺の自慢の足で、蹴られても文句言うなよな。


 何よ、あいつ。さっきからこっち見ながらグルグル自分の周りを回ってさ。なんて落ち着きのない男かしら。体もデカいくせに落ち着きがないから、余計に目立つのよね。


 俺は走るのが好きだ。走ると爽快な気持ちになって最高。颯爽と走る姿はいろんな奴らを魅了してきた。こういうモヤモヤした気持ちのときは、走ってスッキリするのが一番。よし!ちょっと走ってくるか。


 あれ? さっきまでそこに居たのに、あいつドコ行ったんだろ?でも、あいつの匂いはまだしてるから、いなくなって、そんな経ってもないな。まったく、タイミング悪いな!さっきも私に声かけてナンパしてきた男がいたから見せつけてやろうと思ってたのに、見てなかったの?私がいつものように華麗にかわして断ったの見てなかった? ・・・つまんないな。


 はあぁぁ!いやぁ、疲れたっ! でもスッキリしたー。やっぱ走るの最高だぜ~。ん?なんかアイツこっち見て嬉しそうにしてんな。何かイイことでもあったか?スゲ~笑顔だな。まぁ、あれか。またどうせアイツのタイプのイケメンとやらに声かけられたな?じゃなきゃ、あんな可愛い顔しねぇよな。 ・・・チッ!


 今頃帰ってくるの遅いっつぅの。あんたより百倍カッコいい男子にナンパされたの!わかる?

これだけ世の男子共が私をほっとかないのよ?そんな私があんたを気にかけてるだけで、スゴイことよ!ほんと少しは自覚してほしいわ。私がいつも見てるの気付いてないの?目が合う時だってあるよね?ほんと・・・ 気付いてよ。

 陸上部のエースと、テニス部のエース。どちらがスゴイかは、比べようがない事だと思う。どちらも個人の力が試され、発揮することで勝敗が決まる。まさに弱肉強食の世界。

しかし、人間の恋愛というものは、個人だけではどうにもならない。どちらかが声をかけ、それを受け入れる。あるいは、お互い想い合ってはいるが、それが成就しないままに、すれ違いで終わってしまう事もある。およばぬ鯉の滝登り、とでも言おうか。今、2人には、それが起ころうとしている。さぁ、どうなる事やら、もう少しだけ見てみよう。


 隼人は、もうすぐ全国高校陸上競技大会 広島地方予選決勝に出ることもあり、部活にも力が入りまくっているとこだ。皆からの期待がかかっているし、何せ高校一年でのレギュラーに大抜てき。勉強よりも練習、もちろん恋愛なんてやってる場合じゃない・・・。自分でも分かっているが、部室の横にある、いつも自分が水飲み場として使う水道の所に行くと、どうしても見えてしまう。テニスコートが・・・。


 テニス部のキャプテンとして、後輩の指導に熱が入る洋子。高校三年の最後の夏の大会まで後輩をしっかり育てあげ、自分が行けなかった県大会に行ってほしい。怪我で試合に出られなくなった悔しさを、皆のサポートで裏方に撤して、役に立ちたい。その一心で動いていたけど、どうしても目に付いてしまう運動場。と言うよりは、見てるという方が正しいかな。エースとして活躍していただけあって、わざと運動場の方にボールを後輩に打たすのも上手になった。取りに行くのはもちろん、裏方の私。


 俺が、いつも拾うテニスボール。取りに来るのはいつも彼女だ。俺はそれを誰よりも早く気づいて取りに行く。気にかけてるから、早いに決まってる。年下の俺が言うのも何だけど、取りに来る彼女は・・・メチャメチャにカワイイ!一目見た時から、好きだった。まさか年上の三年生と気付いたのは陸上部に入って、結構経ってからだった。三年生から見れば、一年生なんてガキと同然。相手にもされないと思って何も行動に移せていない。今日こそは・・・。と、思っていたけど、今日はボールが来なかった。来なかったけど、俺が部活を終えて帰ろうとしたら、学校の校門に彼女はいた。思わず下駄箱の横のガラス窓に、薄ら映る自分の髪形を整えた。


 私の人生初の、恋の告白。まさかの年下とは・・・。私自身は何度も告られてきたけど、これって冷静に考えると、ナンパにも似てる。この私がナンパ!?て、言うか手汗ヤバいんですけど!

足も震えて、産まれたての子羊みたいで笑える。髪の毛とかも変じゃないかな。隼人君パーマ好きかな?どうしよう、呼吸もうまくできないぐらい緊張してきちゃった。どうしよう、彼がこっちに近づいて来る!ヤバい!いつものように余裕で振る舞えばいいのに、できないよ!どうしようーーー!そんなパニックの中、彼が私の名前を呼んだ。


 「洋子先輩!」

 一頭の羊が目覚めるとそこは、いつもの小屋だった。どこを見ても一緒。風も穏やかに吹きすさみ、暖かいワラの上。エサも何不自由なく食べれる。仲間の羊も何頭もいるから寂しくもない。寝ては起きて、食べての毎日。でも少し虚しいのは私だけ?私たちをお世話してくれてる、ここの小屋の旦那様の、一人娘の方が私には羨ましく思えてならない。私たちにも凄く優しくしてくれるし、毎日楽しそうにしてるから。私も人間だったらなぁと思う事も多い。どうやら毎日学校という所に行っているらしい。そこから帰って来ると、いつも私たちの所へ来て、嬉しそうにこんな話をしてくれる。


 「今日はさぁ、隼人が帰り道の途中で、クレープ奢ってくれてさぁ。スゴイ美味しい食べ物なんだけどね、食べてる途中で彼の鼻に、クリームが付いてね。それを私が指で取ってあげたら、ありがとう。て、言って少し私のこと見つめてキスしてきたの!準備してなかったから思わず

嬉しすぎて彼の肩を叩いちゃった。私たちにとって初めてだったから・・・嬉しかったなぁ。」


 彼女のキラキラした目が全てを物語っていた。人間ってステキだな。私も生まれ変わるなら次は人間がイイな。

それか、となりに建ってる馬小屋の、一頭のカッコいいお馬さんのお嫁さんになれたらいいな。


                                    おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

馬か、羊か 高乃原 健 @tumecomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ