The Broken Dream 夢の覚醒

智二香苓

第1話 夢

 それは今日初めて見た不思議な夢。ここではない別の世界の光景だった。

『新『夢見人ドリーマー』候補の接続を確認。《夢境の黎明ヘザルダー》を起動します』

 重い機械音声が告げるや、唸りを上げた駆動音が空気を震わせた。

 微動する大気を肌で感じながら、機械でコーティングされた玉座に腰かけるのは、純白のドレスに身を包んだ、白みを帯びた狐色の長髪の少女。

夢見人ドリーマー』特有の特徴的な銀河色の瞳は澄んでおり、その視線は頭上で青い波動を帯びている物体――球状のフィールドに収められた小宇宙を見つめている。

『移住者のセットアップ完了。《夢境の黎明ヘザルダー》に接続を開始』

「これでまたしばらくお別れだな。あまり無茶するなよ?」

 事務的な機械音声のあと、通信機から特徴のあるハスキーボイスが響く。

 少女は視線を戻すと、玉座を囲む円柱のガラスケースの向こう側、忙しなく動く研究員たちの中に白衣の女性を見つける。見知った相貌に少女は顔を綻ばせた。

「わかってますよ。無理はしません。私がいなくなったら、他の人が背負ってしまうことになりますからね。ここで退場するわけにはいきません」

「ははっ、そうか……お前らしいな」

 なんとも頼もしい少女の言葉に、白衣の女性は優しさの籠った目を向けると、後ろめたさとやるせなさの混じった声音で弱々しく返した。

 その神妙な面持ちに、少女もどこか心咎めを感じて悲しげに笑う。

 しかし彼女の心が沈むのも無理はない。今や生きとし生ける全人類が、この少女に世界の命運と希望を託し、すべてを背負わせているのだから。

『転送の準備が完了しました。カウントダウンに入ります』

 無機質な合図と同時に少女から淡い青色のパルスが湧くと、駆動音がより一層轟く。

(……ダ、メだ……っ。それ以上、進めちゃいけない――……)

 そこまで夢が進んでようやく、夢の主は作業中止を主張した。

 だがあくまでここは夢想。自由が利かなければ、実際に声も出ない。

(やめ、るんだ……今すぐ中止しろ! でないと、こっち側が壊れ――)

 そんな懇願とは裏腹に、小宇宙は活動を活発化させた。それを収めていたバリアも脈動さながらに断続的に波動を放つと、やがて青い閃光がすべてを包み――



「ダメだああああああああああああああああ!」

 すべてが光輝の中に消え去ろうとした瞬間、笠木彼方は飛び起きて怒鳴った。

 刹那、後頭部にガツンと硬いものが思いっきりぶつかる。

「ぎゃあああああ!」

 そしてあとに続く悲鳴。それは鈍痛と重なり、より意識が鮮明になった。

「いっ……⁉」

 呻きながら彼方は、奇異の目でこちらを見る生徒たちと、自分が飛び起きたときに顔面を強打した男性教師が、足元で啜り泣きながら顔を押さえて蹲っているのに気づく。

「――はっ、夢⁉ そうか授業中……なんだよ脅かしやがってぇ。さてもうひと眠り」

「笠木いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 再び彼方が机に伏せて顔を傾けた瞬間、教師の鼻血塗れの鬼面が目前で絶叫した。


      ◇


「ひいぃっく……! あ、あんあん、あんなお、怒らなくたっていいじゃあぁんっ」

 昼休み。いつも昼食を取っている昇降口前のグラウンドが見える階段で、彼方は顔をぐしゃぐしゃにしながら泣きじゃくると、しゃくり上げながら文句を漏らし続けた。

 目の前では、部活に興じている他の生徒たちがグラウンドを走り回っているのが見える。そんな誰に見られるかともわからない場所で、彼方はいつまでも泣き続ける。

 身長160cm以上ある、そろそろ17になろうとしている高2の男子とは思えぬ振る舞いをする彼方を、友人たちは冷めた目で見下ろすと、呆れ返りながら言い放った。

「いや授業中に寝てた彼方が全部悪いだろ。教師の顔面崩壊してたぞ?」

「うっせーなーいい加減泣きやめよ。いい年して恥ずかしい泣き方すんな」

 友人はいつまでもしつこい彼方の制服のネクタイを引っ張り上げると、乱暴に泣き止ませた。そんな友人の言い分に彼方は慌てて制服の裾で顔を覆うと、涙と鼻水と涎でぐしょぐしょにする。いろんな液体を生地に沁み込ませると、声を震わせながら反論した。

「は……はぁっ? 泣ぃってねっ、しぃ?」

「いや誤魔化せてねーよ。いったいどんな夢見りゃあんな叫ぶんだ」

 別の級友が割り込んでくる。聞かれて彼方は記憶を遡ろうとし、すぐに首を振った。

「夢のことなんていちいち覚えてねぇよ。まあすぐ忘れるくらいだし、別にたいした内容じゃなかったんだよ。ぐすっ……うぅ、ちょっと顔洗ってくる」

 腫れぼったい目元を擦りながら、校舎に戻ろうと腰を上げたときだった。

 バチン、と。まるでブレーカーが落ちるような強い電気音がした。その影響で世界にノイズが一線走ると、すべてが制止した――ような感覚に陥る。

 だが実際に世界は制止などしていなかった。一瞬後には万物は進行を再開し、何事もなく日常の動作に戻る。奇妙な現象に、彼方は固まった目をぱちくりさせた。

「……? 気のせい、か……。まだ寝ぼけてんのかな」

 自分にそう言い聞かせると、彼方はポリポリと頭を掻く。

 指先にチクリと針で刺すような痛みが走ったのは、そのときだった。

「痛ッ――」

 びっくりするほど鋭い痛みと妙な痺れに、何事かと彼方は右手を見る。

 右手はゲームのバグのように崩壊し、肉片をぶちまけていた。

「うっ⁉」

 彼方は体を仰け反らせると叫びかけた。が、さらに目を疑う光景が彼方の思考を奪う。

 砂塵がつむじ風に舞うように、どこからともなくノイズが出現した。ノイズの黒風は一気に大規模な砂嵐となって周囲の世界、グラウンドやそこで走っている生徒たち、果ては校舎や空までをも呑み込むと、視界に入るすべての景色を侵食していく。

 豪雨のような細かなノイズは、彼方に向かって四方から全身に叩きつけると、たちまち制服の繊維をバラバラにしていく。さらに崩壊した右手からもノイズが増殖すると、そこから虫の大群が這い上がって来るように、ブワッと肩に向かって侵食していく。

 やがて視界に映るすべてがノイズに汚染され、徐々に暗黒に支配されていく。

 恐怖で悲鳴を上げかけた瞬間、彼方は信じられない会話を聞いて絶句する。

「なあ、今日放課後空いてる? 帰り寄りたい場所あんだけどさー」

「あーわり、俺パス。今日部活に顔出す日で」

 友人たちはまるでノイズが見えておらず、体に付着した黒点が己を蝕んでいることにも気づいていない様子で弁当を食べながら、全身が黒い塊へと変わっていくのを彼方は驚愕の表情で見た。咄嗟に彼方は助けに入ろうとする。しかしできなかった。今やノイズの暴風は彼方にまで付着し、謎の痺れによって体をその場に固定する。

(動けない……⁉ いや、黒いのが口や喉にもついて……声も!)

 突如世界を襲った現象に彼方は目を白黒させた。いつの間にか空は万華鏡と化しており、それぞれの窓からは世界各地の風景が無限に映し出されて、その世界すらもノイズに侵食されていくという混沌とした情景が描き出されていた。

 その驚きも束の間。彼方はさらなる驚愕に翻弄される。その原因は先ほどノイズに飲み込まれた友人たち。学友たちの、崩壊して宙に残された体の各パーツの残骸。

 まるで子どもが遊びで張り付けたシールのように、宙に浮いたままフリーズした学友たちの全身から、液状のものが滲み出し、スライムのようなものへと変わっていく。

 その不気味な様を見るや、彼方の頭の中はさらなる混乱に上書きされた。

 突如、人間という着ぐるみを脱ぎ捨てるように現れたアメーバ状の幻影。それは別次元の存在としか思えない不気味な風貌で宙を浮遊して佇んでいた。級友だったものは完全にノイズと化すと空間に蟠り、花火の最後の瞬きが弾けるように小さくなって消えていく。

(これは夢だ! これは夢だ! こんなのが現実なわけがない⁉ まだ夢の続きを見てんのか? だったら早く目を覚まさないと――)

 彼方は極度の緊張で頭の中が混乱し、思考が支離滅裂になっていく。

 一方、自由の身となったスライム状のそれは、今度は生きているかのようにアメーバ状の形をとると、隣で同じようにノイズとなった友人に近づき、全身を膨張させる。

 刹那アメーバは奇妙な超音波を発した。超音波は空気を微動させると波紋のように波形を具現化し、大小様々な波長で不協和音を奏でる。すると不思議なことが起こった。

 まだ人としての姿が残っていた級友の肉体は、装甲が剥がれるようにノイズごと薄れると、内部から透明な人型スライムが現れたと思った瞬間に、白い影はアメーバに吸収されて崩れ去った。心なしか一回り大きくなったアメーバは、同じ要領で次々とその場にいた学生たちを取り込んでいく。

 最後に取り残された彼方に接近すると、アメーバはすでに見慣れた動作で膨張した。

「っ⁉ い……やぁ、めえええぇぇぇぇぇ……っ!」

 無駄な抵抗と知りながら、彼方は力を振り絞って硬直した口元から絶叫を漏らした。

 そのとき空気中にパリッと電流が走る。今度はなにかと目を向けると、その電流の走った場所に、人一人がスッポリと収まるくらいの大きさの虹色がかったバーチャル空間が、突如こちら側の世界に出現した。バーチャル空間の中では未だに高電圧がまるで空気をバリバリと裂くように弾けており、その中心にはゆらりと浮かぶ人影がある。

 その人影はバーチャル空間から、ゴツゴツして重たそうなレーザーガンの銃口だけを突き出した刹那、突然噴き出した莫大な光芒の本流が、浮遊していたアメーバを直撃した。

 アメーバは激しく痙攣すると、たちまちゲームでよく見るバグみたいにノイズで埋め尽くされて空中でフリーズした。

 強力な一撃が通過した軌道の空間は、こちらもゲーム画面のバクみたいに酷く損傷しており、剥き出しにされたサイバースペースごとノイズに塗れている。

 突如現れた人影と、襲い掛かってくるアメーバを一撃で仕留めた双方に彼方は頭が追い付かなかった。まるで3D映画かホログラムのゲームを間近で見ているような臨場感に打ち震え、現実に起こっていることとは思えなかった。

 自分は夢の続けを見ているのだろうか、それともバーチャルゲームをしている最中なのか。とにかくそんな衝撃が彼方の中に走り、驚きの連続で二の句も告げなかった。

「まずは一匹!」

 あらゆる疑問は活気に満ちた歓喜の声に遮られた。異常現象が起こってから初めて聞く肉声に、彼方は急いでその姿を探す。どこぞの軍隊を思わせる制服を着た少女が、恐らくレーザーガンのようなものを構えて鬼気迫った様子で立っていた。

 彼方と同い年くらいだろうか。髪は肩にかかる程度に伸ばされており、筋肉質のスポーツ系の引き締まった体が、制服の上からでも見て取れた。

 だが生憎その肉体美を拝んでいる余裕はない。少女が次なる標的を認めるように上空に視線を投げるのを見て、彼方も未だ動けないまま目だけを動かす。

 蝗害を彷彿とさせるアメーバの大群が万華鏡の空を覆い尽くしていた。同じ蝗害ならバッタの大群の方がどれだけよかっただろう。怪異の群れに彼方は固唾を呑む。

(さっきの化け物があんなに⁉ まさか、あれ全部人間から出た――)

「見つけたぞ! 全員直ちに迎撃態勢を取れ!」

 新たに発せられたドスの利いた声に彼方は胸中で飛び跳ねた。ともすれば怒声に近い声量に視線を投げれば、新たに出現していたバーチャル空間から、今度は隊列を組んだパワードスーツの集団を見つける。

 先頭には角刈りの髪に顎髭を生やした体長2メートルほどの巨漢が、ゴーグル型のサングラスをかけ、堂々とした風貌で直立していた。年は30歳前後くらいだろうか。

 その後方では、同じスーツの者たちが規則正しく整列していた。

(また変なのが現れた⁉ しかも今度はコスプレ集団――なんだこいつら⁉)

「『霊魂タブラ・ラサ』の反応を確認」

 当惑する彼方を前に、巨漢は腕に嵌められた端末型デバイスを操作した。するとアメーバの周りにクリスタル状の青みがかったフィールドが展開され、少女によってフリーズしたアメーバを施錠する。フィールドの内側ではバーチャル仕様の空間が広がっていた。

「データベースへ接続完了。転送を開始する」

 巨漢が呟くとフィールド内にパルスが発生し、尾を引きながら上昇した。

 途端にアメーバは細かなキューブとなって崩壊すると、渦を巻きながらフィールドごと消滅する。あとには硝煙と少量のノイズだけが虚空に残留した。

(消えた⁉ いや、転送って言ってたか――)

 先程から自分を翻弄する状況に彼方が苛立ちを覚え始めたときだった。不意に独特な音波が鼓膜を激しく震わし、すぐさま酷い痛みと耳鳴りが彼方を襲う。

 周りもそれを感じたのか、隊員たちは耳を塞いで頭痛に顔を歪めた。

「ぐあっ⁉ 耳が――あ?」

 脳が沸騰しそうな音域に耳を塞いで彼方はハッとする。

気づけば全身を覆っていたノイズが薄まり、腕も戻っていた。時間の経過で弱まるメカニズムなのか、身動きを取れる程度には回復したらしい。はたと思って上空を見ればノイズの嵐も止んでいた。代わりにアメーバの大群が、音波を発しながらこちらに急接近する。

 巨漢はそれにいち早く気づくと、情けなく蹲る隊員たちに厳しく一喝した。

「バグで発生したノイズの嵐は止んだ! 敵を前に怯んでいる暇はないぞ! 『霊魂タブラ・ラサ』の大群が目前に迫っているんだ、直ちに迎撃態勢に入れ!」

 巨漢の怒声に鼓舞されると、隊員たちは根性を奮い立たせて武器を構える。

 そして次の瞬間、ついに二つの勢力が衝突した。

 先陣を切って突っ込んできた複数隊の異形を前に、隊員たちはデバイスを操作すると、敵をフィールドで施錠して、ターゲットへと銃口から閃光を迸らせた。

 青い放電が拡散すると激しいスパークが一閃する。施錠されたアメーバの群れは即座に転送されると、第一波はあっという間に排除された。

 だがすぐに第二波、三波が継続し、隊員たちは直ちに次なる応酬へと没頭する。

「間違っても仕留めるな、我々の命の灯だ! 必ず生け捕りにしろ!」

 巨漢も自ら前線へ赴いて注意を促す。だがその命令は適切でなかった。

「うああああああああああああ⁉」

「援護を頼む! こっちから大量に湧き出してき――ぎゃああああああっ!」

 一回一回フィールドを展開する度に隙を突かれ、アメーバに超音波を放つ余裕を与えてしまう。音波に脳みそを揺さぶられた隊員たちは頭を抱えて発狂した。その間に別のアメーバに襲われ、隊員たちは次々とノイズに汚染されながら姿を消していく。

 初めこそ勇ましかった陣営も徐々に崩れていき、今や押される一方だった。必死で現状を保ってはいるが、それも時間の問題だろう。

「貴様またそんな軽装で来ていたのか⁉ 〈想像強化鎧レヴァリー〉を着ろと何度言えばわかる!」

「誰がそんな隷属スーツ着るか。そういうプレイはよそでやって」

「どれ……っ⁉ これは正式な戦闘着だぞ! 侮辱は許さん!」

 絶望的な状況に彼方が青ざめていると、不意に二つの怒声が飛んできた。見れば巨漢と先ほどの少女が、言い争いながらも器用にアメーバと応戦している。

「しかも〈波動銃サージブラスター〉の制御装置と補助装置を外して、それもフィールドで『霊魂タブラ・ラサ』を施錠せず直接光線をぶち当てやがって! いったいどういうつもりだ⁉」

「その方が威力上がるのよ。変にセーブかけたら逆にこっちがやられるわ」

「お前のその身勝手な行動が新『夢見人ドリーマー』候補に多大な負担をかけるんだぞ⁉ 少しは自分の行動を慎め! それともお前にとって新『夢見人ドリーマー』候補はその程度かっ?」

「なんですって――」

 最後の一言が逆鱗に触れたようだ。余程気に障る発言だったのか、少女は声に怒気を宿し思いっきり巨漢を睨みつける。眼前で攻撃態勢に入ったアメーバから目を逸らして。

「なにしてんだ、避けろ!」

 叫んで危険を知らせたときには、彼方は少女目がけてタックルしていた。

「きゃ⁉」

 ここに来て初めて年頃の乙女らしい声を漏らす少女。そのまま倒れる間際、少女は鬼気迫った表情で自身に体当たりする彼方と、その後ろから迫るアメーバを認めた。

 瞬時に状況を察した少女は、反射的に素早くデバイスを操作する。

湧いた青いパルスが全身を覆った瞬間、閃光が弾けると、二人はその場から消失した。


       ◇


 彼方が次に瞬いたとき目に映ったのは、どこかの路上の空中だった。

「――ぐふっ!」

 何度か虚空にパルスが一閃すると、彼方は重力に従って一メートルほどの高さから地面に叩きつけられる。彼方は顔をしかめつつ一緒に落下した少女に振り返った。

「いっつつ……。おい、大丈夫か⁉ 今襲われ――」

「なにすんだオラァッ‼」

 彼方の心配の言は、怒声とともに繰り出された少女のラリアットに阻まれる。

「ぼへえぇぇぇぇ――ッ⁉」

 細くも筋肉のついた二の腕が喉仏にクリーンヒットすると、彼方は涎や鼻水を吹き出しながら仰向けに倒れた。全身をビクンビクンと痙攣させながら悶え苦しむ。

 そんな彼方の顔面に少女はずいっと右腕を押しつける。

「邪魔すんなテメェ死にかけただろ! 見ろよこれデバイスにお前ぇ! ヒビが入っただろうがこれ、えぇっ⁉」

「げほげほ、げっほぉ⁉ 違っ、化け物が来てたから助けようとしげほぉ!」

 物凄い剣幕で怒鳴り散らす少女に、彼方は咳き込みながら言い訳をした。涙で滲む視界の先には、ヒビ割れた端末型デバイスが少女の腕に嵌められている。

 少女は転送時に地面に落としたレーザーガン――先程の巨漢との会話で〈波動銃サージブラスター〉と呼んでいた武器を拾うと、デバイスに指を躍らせて動作確認をした。

「基本操作はよし……判別機能も大丈夫ね。この辺には『霊魂タブラ・ラサ』もいないし――」

 一人ぶつくさ呟く少女に首を捻りつつ、彼方は周囲を見渡す。相変わらず空は万華鏡と化しており、何層にも断絶した空間の一つ一つにいろんな風景が映っていた。

「な、なんだよこれ……夢でも見てんのか?」

 彼方は今も痛む喉を抑えると、涙でかすむ視線を向けながら、理科の実験の様子でも見る子どものように探るような目つきで周囲を見渡した。

「そうよ。ここは夢の中――『夢見人ドリーマー』によって創造された、もう一つの世界よ」

 答えたのは少女だった。不意に答えられ、びくつきながら彼方は眉をしかめる。

「『夢見人ドリーマー』? なんだ急に……薄々気づいてたけど、やっぱお前頭おかしいのか?」

「『夢見人ドリーマー』はストーリーテラー。夢を見ることで物語を紡ぐ人をそう呼ぶの。あんたは自らこの実験――夢への移住計画に志願して、この世界に移送された『夢遊牧民ノマド』よ」

「『夢遊牧民ノマド』? 夢への移住? なんだよ志願って……実験を受けた覚えないぞ」

「リアルを追求するために一度記憶を消してるからね。向こうに帰れば全部思い出すわ」

 聞いたこともないような語句たちをつらつらと並べ立てられる言葉に、彼方はさらに混乱する。なにを言っているのか全然わからない。そんな頭でさらに問うた。

「じゃああのアメーバや消えた人たちも実験なのか? いやその前に『夢遊牧民ノマド』ってなんだよ。さっき『霊魂タブラ・ラサ』とかも言ってたよな? あと透明の人型とか出てきたし、あれもアメーバに似てる感じだったけど仲間か? 仲間と言えばお前あのグラサン肉ダルマと話してたけどあのコスプレ集団なんなんだ? だいたい『夢見人ドリーマー』ってのも――」

「あーもーうっさいわね! 帰れば思い出すつってんだろ⁉ いちいち聞くなァ‼」

 彼方の畳みかけるような質問攻めに少女はついにキレて彼方の顔面に銃口を突き付けた。これ以上刺激を与えると本当に殺されかねないと畏怖すると、彼方は生唾を呑んで黙る。

 だが最後にどうしても一つ気になったので、それだけ聞いておくことにした。

「えっと……さっきの奴らもお前も、俺と同じ実験中の『夢遊牧民ノマド』?」

 なおも食い下がって質問してくる彼方を、少女は鋭く一瞥する。しかし現状の説明だけはしておくべきと思い至ったのか、少女は渋々口を開いた。

「違うわ。さっきの奴らはあんたたち『夢遊牧民ノマド』を回収しに来た部隊で、私はこの世界が壊れた原因の調査のために送り込まれたの。任務自体が別よ」

「世界が壊れた? まあ、壊れてるように見えなくもないけど……」

 彼方は周辺のノイズや上空の万華鏡を見上げる。すると少女はやれやれと首を振った。

「あんたも本来なら、今ごろ他の連中と一緒に現実に戻ってたはずなんだけどね……今回はいろいろトラブってるようだし、この有様じゃ仕方ないわ。ま、そういうわけだから私は仕事に戻らせてもらうわよ。じゃね」

 あらかた伝えると少女は手を上げ、颯爽と踵を返して去ろうとする。

 だがそうは問屋が卸さない。いや卸させるわけにはいかなかった。彼方はぎょっとすると、慌てふためきながら少女の背中に声をかける。

「えっ? ちょ、ちょっと待って! えっ、現実に戻れてない俺は⁉」

「は? ……流れ損ねた排泄物?」

「そういうこと聞いてんじゃねーよ! てか誰が排泄物だ⁉ ……じゃなくって!」

 面倒そうに振り返りながら答えた少女にツッコみつつ、彼方は急いで本題に戻る。

「いや俺も移住者なら保護する義務あるじゃん⁉ 保護しろよ!」

「なんだお前その偉そうな態度……。救助するのは隊員の役目で私じゃないの。じゃ」

 高慢な彼方の態度にうんざりすると少女は先を急ぐ。だが彼方も挫けない。

「ちょ、待っ⁉ ……ねーちょっと待ってよぉー。ねーってば。ねーえーっ!」

 途端に彼方は情けない口調になると、腰を引きながら腫物にでも触るように少女の服をちょいちょいと指先で摘まんだ。鬱陶しい動作に少女はその手をぶっ叩く。

「触んなよキメェなあ! だったら自分から隊員のとこ行けばいいでしょ⁉」

「いやだってこの状況で一人とか怖いじゃん無理なんですけど」

「はあっ⁉」

「ねーお願い一緒に着いてっていい? ほんと怖いからさーねーお願い死んじゃうぅ」

「うっせぇ知るか! 勝手に死ね!」

 と少女が彼方に罵声を浴びせたとき、その怒りと呼応するように空間が激震した。

 ビリビリと振動する大気のあちこちから激しくスパークが爆ぜる。衝撃を受けた空間はたちまちノイズに汚染され、どれほどの威力がこの世界を襲ったのかを物語った。

「⁉ もしかして」

 なにかを悟るや少女は彼方を蹴り飛ばすと、一目散にどこかへと駆け出す。

「ぶへぇ! あっ、ちょ、待ってよおぉ!」

 置いて行かれた彼方は泣き声を上げると急いで少女を追った。バグにより崩壊した世界と、万華鏡の空に映った別世界の景色にいよいよ彼方にとってこの世界が現実味を帯び始めてきたころ、二人は大通りに出る。

 目的地に着くと少女は道路の真ん中で立ち止まった。彼方も呼吸を乱しながらようやく少女に追いつくと、息を整えながら先程から少女が見入っている先の光景を見る。

 路上の中心が宇宙空間と化し、小さな銀河系が展開されていた。

 空中に張りついた巨大な漆黒の大穴。それは内側に落ち窪み、ゆったりとした速度で周囲の空間を呑んでいた。周りの景色は時計回りに歪みながら銀河系へ消えていく。

「――結構食い荒らしてんじゃない。そりゃ世界も壊れるはずよ」

深刻そうに少女が息を吐くと、彼方も不安を覚えて解説を求める。

「おかしくなったのはこれが原因なのか? てかなんだよこのブラックホール」

「これは空間に空いた穴よ。それも私たちが本来いるべき現実の世界と繋がってる」

「こっから現実に行けんのか⁉ ならさっさと帰ろうぜ!」

「ッ⁉ バカッ! 安易に近づ――」

 不自然に途切れた少女の声に、違和感を覚えた彼方は首だけ後ろに向ける。

 なぜか少女は自分を覆うようにフィールドを展開して戦闘態勢に入っていた。よく見ると少女の周囲に、生糸のようにたわむ薄い電気に包囲されていることに気づく。

 岩を擦り合わせたような獰猛な雄叫びが辺り一帯の大気を震わせた。

 恐ろしい空気の振動に、微弱だった放電は稲妻へと豹変すると、凄まじい雷鳴を轟かせる。彼方は咄嗟に身を引くと少女の方に後退した。

「うわあ⁉ なんだ、電気が急に!」

 彼方は叫びながら、咆哮の響いてきた眼前の大穴を凝視する。

 はっきりと大穴に映った巨大なシルエットが、その内部で激しく暴れ回っていた。

(黒い生き物……? いや、影だ! この中に本体が――)

 たちまち湧きだしたノイズが、彼方の思考を上回るスピードで空間を侵食していく。

 影の出現でエラーを起こすように電撃が弾けると、少女はフィールドを彼方のいるところまで拡張して防壁内に避難させた。直後に乱舞した稲妻は鞭のようにしなり、縦横無尽に宙を駆け抜けながら少女の張ったバリアに直撃する。

 激しい電撃音とともにフィールドは破裂すると、バーチャル仕様の空間が漏洩した。あまりの凄まじさに面食らった彼方は脊髄反射で嗚咽する。

「うわあああああ⁉ な、なんだよあの化け物⁉ ひいぃ電撃痺れるぅ!」

「『夢の住民トライバー』――夢の世界に住まう先住民。この大穴を開けた犯人よ!」

 少女が口早に説明したときだった。デバイスから音声が響く。

『先程転送作業が復興し『精神データ・ゴースト』及び『霊魂タブラ・ラサ』の転送が完了した。各部隊は直ちに退散せよ。なお今回の調査で不特定多数の不具合を確認した。データベースに支障を来す恐れがあるため、データの一部を保存したのち直ちに消去を開始する』

「嘘でしょ⁉ なんでこのタイミングでっ」

 小難しい言葉の羅列に少女は顔を歪めた。彼方もつられて不安に駆れる。

「おい、なにが起こるんだ⁉ わかりやすく言ってくれ!」

「バグが見つかったからこの世界を消すってことよっ」

「は? 世界を消す⁉ それじゃ俺たちはどうなんだよ⁉」

「そんなの消去が始まる前に撤退するに決まって――」

 と、言葉の途中で不穏な燃焼音がどこからか響いた。二人は音の方を向く。

 遥か遠く。パルスをまとった虚無のベールが、万華鏡の空全体に広がっていた。

 ベールはこちらに急接近しながら世界を呑み込んでいく。ベールが通過したあとはなにも残らず、空も地面も空間も関係なく、凄まじい轟音とともに無に帰した。

「おいおい次から次になんだよここは⁉ なんだよあれ……っ⁉」

「『夢見人ドリーマー』の覚醒が始まった。この夢を見てる人が目を覚ますのよ。これで世界はリセットされる。くずぐずしてるとこっちも消されるわ!」

 少女が危険を知らせたとき、それを掻き消さんばかりの打撃音が鼓膜を叩く。いやな予感に視線をやれば、巨大な影法師が例の大穴の膜に向かって何度も突進していた。

 打撃音が響く度に電気が飛び散り、ノイズが周囲を染め上げる。やがて内側から引っ張られるように、プツッと穴が開き――覗いた爪の先端が空間を引き裂いた。

 咆哮が上がると鮮血のようにパルスが噴き出し、堅い鱗に覆われた恐竜のような顔が現れる。その額には反射板が埋め込まれ、口の両端から変形した鋭い牙が突き出ていた。

 黒一色の眼球は、前方にいた彼方と〈波動銃サージブラスター〉をこちらに構えた少女を捉え――

「今出てくんじゃねええええええええええええ!」

 凝縮された電圧が放たれた直後、パルス色の奔流がその顔面に直撃した。

 しかし光線は鱗を軽く傷つけただけだった。『夢の住民トライバー』は二、三度瞬きすると、何事もなかったように強引に隙間を広げながらこちら側に這い出てくる。

 拡張された隙間は悲鳴さながらに電気を弾かせ、その眩さに二人は目を瞑る。強烈な刺激で目と耳が一時的に機能を失う中、彼方は急いで瞼を持ち上げた。

 刹那、視界の端で拡張したフィールドが全身を覆う。そのあとを追うように細長い影が急激に迫ると、突然強烈な衝撃が体を突き抜け、彼方は勢いよく吹き飛ばされた。

 歩道に隣接していた建物に叩きつけられる寸前、不可視のクッションが彼方の体を保護する。衝撃音とともにビルの壁面に球状のクレーターができあがった。

 ひっくり返った視界には、同じように吹き飛ばされた少女の姿が映る。どうやら少女が直前でバリアを張り、彼方も一緒に防護したようだ。

「ぐはっ……!」

 二人は防壁に包まれたまま地面に落下した。保護されていたとはいえ衝撃はあり、壁と地面に二度もぶつかれば体にも響く。

 前方には、彼方たちに叩きつけたであろう三本の尻尾を振る『夢の住民トライバー』がいた。

「こっ……ちには時間がないって言ってんだろうがァッ!」

 喚きながら擦過傷の走る体を持ち上げると、少女は〈波動銃サージブラスター〉の焦点を『夢の住民トライバー』の周りに隣接する超高層のビル群へ向けて、握り潰す勢いでトリガーを引いた。

 銃口以上に太い未曾有の光芒が穿たれると、強大な威力はその軌道上の空間をノイズに染めながらスパークを撒き散らし、建築物の根元を勢いよく抉る。

 下部を失った建物は順に崩壊すると一斉に『夢の住民トライバー』へと雪崩れた。四方から襲うビル群の濁流に呑まれると、『夢の住民トライバー』は咆哮しながら残骸に埋もれていく。

 十数秒に及ぶ破壊活動は〈波動銃サージブラスター〉のエネルギー切れで幕を閉じた。

 空高く巻き上げられた砂埃がビルの残骸を覆う。破壊された空間は夥しいノイズに汚染され、流血さながらにサイバースペースが流出すると、惨たらしく街並みを抉った痕跡だけが残った。周りには細々とした電気が蜘蛛の糸よろしくたわむ。

「やった……のか? てか、こんな破壊して夢見てる奴大丈夫なのかよ」

「もう時間がない。不本意だけどあんたも転送してあげるわ」

 過剰な破壊行為に彼方が呆然としていると少女はデバイスを叩いた。発生したパルスがその身を包むと、次いでフィールドで彼方を施錠しようとし――強制解除される。

『不適合要素を確認』

「……は?」

 冷たい機械音声に彼方は眉をひそめた。間抜けな声を出しつつ少女は再度挑戦する。

 しかし何度フィールドを展開してもすぐに施錠は解除され、機械音声は同じことを繰り返すだけだった。エラーを起こすデバイスに彼方は不信感を募らせる。

「まさか壊れたんじゃないだろうな? 止めてくれよここまで来て」

「ああ、なるほど……。確かに今考えれば、回収されてなかった時点で気づくべきだったわね。まあ元々不具合が出てた世界だし、仕方ないか」

「はあ? おい、さっきからなにを……うがぁッ⁉」

 一人納得する少女に問いただそうとした直後、激しい痺れが右手を襲う。

見ると、右腕がゲームのバグのように崩壊し、ノイズに塗れていた。

「うわあああああああ⁉ なんだこれ、さっきの⁉ どうなって――」

 彼方が少女に助けを求めた刹那、高電圧の光線が体を貫いた。

 少女が〈波動銃サージブラスター〉から光線を放ったのだ。腹部に空いた大穴は背中まで貫通し、大量のパルスがぶちまけられる。傷口の周りはノイズと化し、酷く損傷した。

「なぁ⁉ に、を……っ!」

「あんたが『夢遊牧民ノマド』じゃなくて不適合要素――『NPC』だったからよ。あなたは生きてる人間じゃない。この世界の創造者が作ったモブよ。夢の中の登場人物をそう呼ぶの。そして『NPC』はこの世界が消えるのと同時に排除しなきゃいけない。本来なら選別の時点で弾かれてたはずなのに偶然残っちゃったのね」

 冷たく言い放つ少女。その体を包んでいたパルスが活発化する。動作が最終段階に入ったのだろう。その意味を察すると、彼方は急いで少女に這いずった。

「嘘だろおい待てよ⁉ 置いてくな! 待ってくれ!」

「無駄よ。どんなにお願いされても、元々現実に存在しない人間は転送できない。じゃあね、短い間だったけど本当に鬱陶しかったわ。永久にさよなら」

「待っ――!」

 ほとんど飛びかかりながら彼方は突進する。だが先に少女が空間を巻き込みながら消える方が早かった。勢い余った彼方はそのまま地面に鼻頭をぶつける。

 その衝撃で損傷した腹部を中心に下半身がへし折れ、パルスとなって散乱した。

「う、あぁ。い、やだ……こんな場所で死ぬなんて……!」

 極度の焦りと恐怖で惑乱すると、彼方は地面に指を突き立てながら、全身の力を込めて地面を這いずった。後方では虚無のベールがパルスを巻き上げ、着々と世界を無に帰す。

 散漫な思考と震えのせいで、彼方が精神に異常を来しかけたときだった。

『――か――な――た――』

 混濁した意識の中。幻聴に近い囁きに彼方はぎょろりと血走った目玉を動かすと、眼前に鎮座した漆黒の大穴が、静かに渦巻きながら空間を呑んでいるのを捉えた。

 透き通る幻聴の行方を辿るように、彼方はその深淵を注視する。

 静寂な暗闇の奥では無数の小さな点が瞬いていた。爛々と輝く光りは星屑のようで、さながら宇宙空間のような情景だと彼方は錯覚する。

 あくまで錯覚だけに留まったのは、更なる神秘を目の当たりにしたからである。

 深淵の奥に、半壊した地球と、それを胸に抱く女神を見出した。

 女神は純白のドレスをまとい、眠るように瞼を閉じている。ドレスや長髪は水中で反射する光彩のように漂い、虹色のベールが両脇から包み込むように地球を取り巻いていた。

 その顔は眩い輝きによって判別できない。

(幻……覚か? ヤバいな、いよいよ俺も頭が変になってきたみたいだ……)

 危機感が増したとき、彼方はその瞼がゆっくりと開かれていくのがわかった。

 すると半壊した地球は刹那に蒸発し、女神の中へと吸い込まれていく。それは女神が目覚めたとき、同時にこの世界もリセットされること暗示していた。

 一つの天体が消滅する様は、たった今消えつつあるこの世界を外から見ているようで、不思議と違和感はない。むしろシンクロしているようにすら感じる。

 そんな思いつきの思考は不意に、先刻少女が発した言葉を想起させた。

『これは空間に空いた穴よ。それも現実とつながってる』

「……現……実……」

 譫言のように呟くと、彼方はとある一筋の希望を見出し、穴へと這いずる。

 ほぼ思考が停止しかけて半分意識も飛んだ中。それでも彼方が上半身と腕だけで進めたのは生存本能がそうさせたからだ。彼方は少しずつ目標へ近づく。

 そのとき希望を踏みにじるような憎たらしいことが起きた。急に目前の宇宙空間は光りに包まれると、サイバースペースが拡大し、女神もろとも世界を凌駕していく。

 宇宙の消滅は間近に迫るタイムリミットを匂わせた。

「ひっ、ひい……ぐすっ。う、うおぇ……。ハァ、ハァ、ハァ!」

 今の衝撃でその大半を一瞬にして削られた地球と思しき惑星に、彼方は言い知れぬ恐怖を覚えて焦燥感に駆られると、情けなく嗚咽を漏らしながら無様に地を舐める。

 その後方から、すぐそこまで迫っていた虚無のベールが衝突した。

「ぎゃああぁッ⁉」

 痛みこそなかったが、強い衝撃と恐怖に彼方は思わず叫びを上げた。

 崩壊寸前だった彼方の肢体は木っ端微塵に吹き飛ぶ。それでも生き延びようと眼前の大穴へ手を伸ばした。だがその指先も、途端にパルスとなって散り散りになる。

 視界が暗転して永遠の沈黙が訪れた瞬間、世界はリセットされた。

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