第16話 ギルドのリーダー
俺とユーリちゃんがエリザさんの工房にやって来てから、数週間の時が過ぎた。
ユーリちゃんの1日は濃い。
早朝はエリザさんと魔術の修行をみっちり行い、その後朝食の準備。しっかり朝ごはんを食べた後、冒険者ギルドへ行く。日に2、3クエストをこなし、暗くなったら帰宅。夕食、風呂と続き、そこから深夜までひたすら受験勉強。
魔術学院の入試試験まで残り半年を切っている。1秒でも無駄にしないよう、彼女は日々研鑽を重ねている。
俺?俺はマイペースで好きにやっている。
生活の中心は主に読書。エリザさんの工房には、魔女の住処にはなかった様々な種類の蔵書があった。ここに来た時エリザさんに借りた錬金術の基礎に関する本は3日寝ないで読んでたら読破してしまった。
もちろん、冒険者の仕事もしている。ただこっちは始めたばかりながらすでに片手間になってて、毎日10くらいしか依頼はこなせていない。本気だせばもっと出来るんだけど、本読みたいからほとほどにしている。冒険者になりたいとか言ってたのに本末転倒じゃねーか!とか言わないでね。錬金術、面白すぎるんだよね。
「ユーリちゃん」
「土属性は大地の自然エネルギーに触媒となる魔力を発して反応を起こし体内の魔術回路と結合して……」
「ねぇ、ユーリちゃんってば」
「マナを集約して爆発的イメージを脳内に……ってなんですか?ビエルさん」
とある夕食後。
ユーリちゃんはいつものように、エリザさんに用意してもらった狭い自室で試験勉強に勤しんでいた。俺が話しかけると、明らかに不機嫌そうな表情でこちらに顔を向けた。
勉強の邪魔とは思いながらもあえて彼女の部屋を訪れたのには理由がある。
そう。この中堅都市ウォーレンへ来る途中、エルドラゴンと遭遇する少し前に話していた、例のあの質問に対する回答を得る目的が俺にはあったからだ。
「俺も魔術学院の錬金術科に入学したいんだけど。だから試験のことについて改めて教えてほしいなって思って……」
すなわち、魔術学院の入学試験は半年勉強すれば合格できるのか?という例のあの質問の件だ。あり得ない的な事を言われたのは記憶に新しいが、具体的に何がどうダメなのかは聞いていない。
「無理です。無駄です。あり得ません。しかも錬金術科なんて……魔術科よりはるかに狭き門ですから絶対に合格なんてできませんよ。さっ、私は勉強に集中したいので自分のお部屋に戻って休んでてもらえませんか?ビエルさん」
「チャレンジするだけなら別にいいじゃないか。お金の問題は冒険者やってれば解決できるんだし。どうすれば受験できるかだけでも教えてよ」
エリザさんの工房に来て実際の錬金術なんかも見せてもらい感動した俺は、真剣に魔術学院への入学を果たしたいと考えるようになっていた。どうせなら国内最高峰の学院で心行くまで錬金術を学びたい。俺の知らない未知の世界を、俺はもっと知りたい。
「……はぁ。わかりましたよ。と言っても、まだ受験申込はできませんので、それは時期が来たら一緒に王都で手続きしましょう」
「やったー」
「で、肝心の受験対策についてなんですけど……期待させておいて申し訳ないですけど、私は魔術科志望なので、錬金術科のことは正直全然わかりません」
「な、なにー!!」
いやまぁそうだよな。そこまで彼女に頼るのは違うかもしれん。でもエリザさんは魔術科出身だから多分知らないだろうし、冒険者ギルドのメンツでわかりそうな人も……いなさそうだよなぁ。
「でも、対応策はあります」
「え?ホント?教えて!」
「この中堅都市ウォーレンには錬金術師ギルドがあります。多分そこに行けば受験用の教材が売ってると思いますし、対策なんかも教えてくれるんじゃないでしょうか」
錬金術師のギルドとかそういうのあるんだ。あんまり聞いたことないけど。
「よし!んじゃさっそく明日行って来る!」
「あーえっと、受験用の書籍ってメチャクチャ高いんですけど、ビエルさんお金足りてます?」
「なんだかんだここに来て結構稼いだから、そのくらいのお金は持ってると思ってるんだけど。ちなみにいくらくらい?」
ユーリちゃんが両手で金額を示す。
「あ、その位ならありそう……」
「ビエルさん。たぶん考えてるのと桁が2つくらい違います」
「……はえ??」
あ、あり得ないだろ!ぼったくりだわ!国立のくせに!!高すぎるだろ!!
ぜ、全然足りない……。
「私の家が貧乏になっちゃった理由のひとつです。高いんです、教材。あと入学費用もこれだけかかります」
「ひええええ!!!……ってことは」
「そうです。ビエルさんがまずやらなきゃいけないことは、冒険者ギルドで依頼を大量にこなしてお金をたくさん稼ぐことです」
現実を思い知らされた。
つまるところ金。ほんと、転生前も転生後も世知辛い世の中だぜ。
◇◇ ◆ ◇◇
翌日、金の算段をつけるため俺は朝から1人で冒険者ギルドを訪れていた。
「いやアンタまだ仮登録なんだから、Fランク以外の依頼は受けられないわよ」
「そこをなんとか!ていうか、リーダーの人いつ戻って来るんですか?その人帰ってこないと、俺とユーリちゃんは正式登録出来ないんですよね?」
適性試験を受けてから数週間経ったが、俺やユーリちゃんの正式加入を決断するリーダーはまだ一度もこのギルドへ帰って来た形跡はない。
ちなみにギルドへ正式加入すると、メンバー同士でパーティを組めるようになるらしい。一定の高難度クエストへの同行も許可されるとのこと。ただ、今は仮加入なのでそれが出来ない。報酬のクッソ安い簡単な依頼しか受けさせてくれない。この状態ではいつまで経っても書籍代や入学費用を稼げない。
「うーん。さすがにそろそろ戻って来るはずなんだけど……」
「ただいま、マイハニー!」
「ル、ルーカス!!」
朝一でまだ受付のおねぇさんと俺しかいなかったギルドの建物内に、1人のさわやかな好青年が正面入り口から陽気に入って来た。
「なんだよ。せっかくマーサと二人っきりになれるこの時間を狙って帰って来たってのに、お邪魔虫がいるようだね。って、キミ誰?新人くん?」
「アンタこそだれだよ」
受付のおねぇさん、マーサさんて言うんだね。今更ながら。ってか、このいけ好かない青髪サラサラヘアーのイケメンは誰だよ。マーサさんはルーカスって言ってたけど……
「ちょ!ビエル君!彼がこのギルドのリーダー、ルーカス・F・ジモリよ!」
「……へっ?」
「どうもでーす」
ウィンクしてピースサインを開いた右目にくっつけ、舌出しポーズ、だと!?
コ、コイツがこのギルドのリーダーか……。
チャ、チャラすぎる!
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