最強美少女は今日も無自覚に無双する~勇者の子孫で精霊の愛し子だけど夢は可愛いお嫁さんになることです~

しましまにゃんこ

第1話

 ◇◇◇


「よくぞ来たっ!勇者ライアン!」


 謁見室に国王の高らかな声が響き渡る。こっちはこんな場所に無理やり連れてこられて気分最悪だと言うのに、朝っぱらから無駄にテンションが高い。


「ライアンじゃありません。です……」


 ライアは僅かな望みをかけ、微かに震えながら両手をアゴの下で組み、すがり付くような目で国王を見つめた。精一杯のか弱さアピールだ。


「偉大なる国王陛下、見ての通り私は勇者なんかじゃありません。か弱い一般市民です。騎士団に配達に来ただけなのに、突然このような場違いな所に連れてこられて困惑しております。お願いします。早く家に帰して下さい」


 国王は高らかに掲げた王杖を一旦下ろし、ライアをみて「はて?」と首を傾げる。


「レイク、なんじゃその少女は。ワシは勇者ライアンを呼んだのじゃぞ。早く勇者を連れて参れ。えーと、そのほう、なんと言ったか……まあよい。何か手違いがあったようじゃな。もう帰っていいぞ」


 シッシッと言わんばかりの国王の塩対応に、飛び上がって喜ぶライア。


「は、はいっ!すぐに退出します!失礼いたしました!」


 だが、ライアを連れてきた張本人である騎士団長のレイクに、むんずと首根っこを捕まれてしまう。


「陛下。恐れながら、コイツが勇者で間違いございません」


(レイク酷いっ!)


 ライアはレイクを恨みがましく見上げたが、あっさり無視されてしまう。


(コノヤロウ、大切な幼馴染みを国に売りやがって……後で覚えてろよ)


「そのものが勇者と申すか?……だが、見たところまだいとけない少女のようだが?」


 大きなすみれ色の瞳にチョコレート色の艶のある髪。少女らしく、細く頼りない体。まごうことなき美少女ではあるが、とても強そうには見えない。


 国王の言葉に、ライアは首がとれんばかりの勢いで頷いた。そうとも。私のように純情可憐な美少女が勇者なものか。だが、


「ライア・ジーン。誇り高き勇者ライモスの末裔にして、今代の精霊の愛し子です。間違いありません」


 レイクの言葉に国王の細い目がカッと見開かれた。お願い。そんな目で見ないで。怖い。細いほうが素敵です。


「なんと!今代の勇者が女とは……勇者の末裔で男はいなかったのか?ん?」


 若干男尊女卑な国王の発言も、ことこの件については全く同意見である。なんでか弱い女の子が勇者に選ばれねばならないのか。選んだ奴、バカなんじゃないの?すみません、嘘です。女神さま。天罰は勘弁して下さい。


「恐れながら申し上げます。ライアは五人兄妹の末子で、上には兄が四人おります。しかし、精霊に選ばれたのはこのライアでした。勇者とは世界に選ばれしもの。性別など関係ありません」


「なんと……そのようなことが」


 思わず眉間に皺を寄せ、考え込む国王。だがその間も、ライアは内心で思い付く限りの悪態を付いていた。


(たく、頭を抱えたいのはこっちよ!むさ苦しい筋肉だるまの兄い達がいるのに、なんで私が……勇者の選別に男女平等なんて概念いらないのよ!)


 遠い遠い昔の、伝説の勇者の末裔なんて言われているが、ライアはしがない庶民。勇者の末裔の恩恵なんて、これっぽっちも受けていないのだ。父親が自慢気に語って聞かせたその話も、大方酔ったおっさんの与太話だと思っていた。


 だってライアの実家は街で人気のパン屋だし、ライアが得意なのは美味しいパンを焼くことだ。毎朝せっせと早起きして、自慢のパンを庶民の食卓に届けるのが仕事。そうやって、清く正しく美しく。人様に後ろ指さされることなく生きてきたのだ。


 ライアの夢は可愛いお嫁さんになること。できれば経済的に豊かで、何でもお願いを聞いてくれて、ライアに楽をさせてくれる頼りになる夫がいい。そしてライアは、夫のために美味しいパンを焼くのだ。


 断じて勇者なんかではないっ!ないったらないっ!いつのたれ死んでもおかしくないような冒険の旅に出るなんて冗談ではない!


 どうせライアが死んだら、新しい勇者が現れるのだ。それで呆気なく死んでしまったライアなど、『おおライア!死んでしまうとは情けない!』なんて死んでからもぼろくそに言われた挙げ句、切り捨てられてしまうのだ。


 ……よし、今のうちに全力で逃げよう。


 難しい顔の国王陛下と鬼みたいに怖いと評判の騎士団長が何やらこそこそと相談している間、ライアは腹を括った。


「分かりました!勇者ライア!誇り高き勇者の末裔として、見事魔王を討ち取って参ります!」


 魔王討伐の旅に出ると見せ掛けて、すぐにこの国を出るのだ。落ち着いたら家族には手紙を送ろう。きっと分かってくれるに違いない。


「勇者ライアよ。よくぞ申した!よしっ!ではそなたに我が王家に伝わる伝説の剣を授けよう!」


「あ、結構です。剣、使ったことないし……多分、貰っても使えないので」


 ライアの言葉にぐるんと首を回してレイクを見る国王。レイクが重々しく頷くと、絶望の表情を浮かべる。いや、その表情浮かべたいのこっちですからね!?パン屋の娘が普段から剣振り回してたら怖いでしょっ!?


「……レイク。そなたに王命を与える。このか弱き勇者を守り、導き、見事魔王を討ち取る日まで、そなたが責任を持って支えよ。そなたに、王家に伝わる伝説の剣を与える」


「……はっ?」


「これは王命である!ただ今よりレイク、そなたは国一番の騎士として、女神と精霊の愛し子たる勇者の守護者となるのだ」


「か、かしこまりました!」


「そしてライア。か弱きそなたには、この女神の指輪を与える」


「……こ、これは?」


「女神の加護が宿った指輪じゃ。言い伝えによると、その指輪に選ばれしものは、死の運命さえも抗うことができると言う……」


「え、そのような貴重なものを頂いてもいいんですか?」


 いきなりの太っ腹な申し出に唖然とするライア。これ、いくらで売れるんだろ……いや、売ろうとした瞬間捕まるんだろうな。ぶっちゃけ金目のもの以上の価値はなさそうなんだけど。


「王家の家宝だが、仕方あるまい。お主は見るからに弱そうじゃ。到底今のままでは魔王討伐などできまい。ワシも何も今すぐ魔王を倒せなどと無茶なことを言うてはおらぬ。魔王がいつ復活するかもわからぬし。まずは修行じゃ。城の回りで最弱のスライムでも狩って参れ」


「陛下……」


 髭面で無駄に偉そうなんて思っててごめんなさい。陛下がこんなに器の大きいお方だなんて思いませんでした。


「勇者として過ごす間は、もちろん十分な報酬を約束する。魔王討伐後の褒美も思いのままじゃ!」


「な、なんとっ!」


 ライアはゴクリと息を呑む。


「ちなみに報酬は月おいくらほど……」


「おいっ!」


「よい。そうさな。金貨100枚でどうじゃ?」


「金貨100枚!?」


 庶民の一ヶ月の給金が、おおよそ金貨三枚程度。破格の申し出である。


「ち、ちなみに褒美は具体的に何を?」


「お前……いい加減にしろよ」


「お前が黙れ」


「そうさな、勇者に相応しい地位と金、王都に程近い領地。さらには将来有望な婿……」


「やりましょう!」


 若干食い気味に承知するライア。地位とお金に領地、その上素敵なお婿さんまで紹介してくれるとはっ!言うことなしではないか。強くなるまで旅立つのは待ってくれるみたいだし。まぁ、もしかしたら、万が一?私が生きてる間に魔王が復活しないなんてこともあるかもだし?


 先程まで国外逃亡を企てていたとは思えないほど急に前向きになったライア。しかし、能天気なライアとは裏腹に、レイクは苦い顔をしていた。


「陛下……」


「んん?不満か?」


「いえ……承知致しました」


 ◇◇◇


「さぁ!冒険の旅に出掛けましょう!」


 勇ましく声を上げるライア。


「おい。ちょっと待て。それはなんだ?」


「木の延べ棒だけど?」


「いや、お前それ、パンの生地を伸ばすやつだよな?」


「そうよ。使いなれた武器のほうがいいかと思って」


「……金輪際それでパン作るのやめろよ」


「……洗えば……」


「絶対に止めろ。騎士団御用達取り消すからな」


「ええー、騎士団長のくせに細かい」


「お前の神経が異常なだけだ。俺たちだって野営のときに魔物を切った剣を包丁代わりにはしない」


「ああ、なるほど。それもそうね」


「はぁ。お前は本っ当に、勇者として選ばれた者の自覚が足りねぇな」


「ちっ、レイクの癖に偉そうに」


 幼馴染みの肉屋の息子であるレイクは、史上最年少で王家主催の天下一武道会で見事優勝を果たし、圧倒的な強さでわずか18歳で騎士団長まで登り詰めた伝説の男。


 だが、小さい頃は本当に弱っちくて、いつもライアの背中に隠れていた弱虫野郎だ。散々面倒を見てやったコイツに、騎士になったからと言って、でかい顔をされる筋合いはない。


「そもそも俺が守るまでもなく、お前は強い」


「はぁ?あんた、か弱い美少女に向かって、よくもそんなことが言えるわね」


「誰が美少女だ。事実だろうが。スライム?ドラゴンを瞬殺するお前を、今さらスライムから守れと?」


「まぁほら。それは陛下の王様ジョークってやつよ」


「本気に決まってんだろうが。お前のせいで俺の忠誠心まで疑われたわ」


「元々大した忠誠心なんて無いくせに」


「お前と一緒にするな」


「何よ!」


「何だよ!」


 レイクといるといつもこうだ。些細なことで言い争いが絶えない。男の癖に細かい。国王陛下の懐の大きさを見習って欲しいものだ。


「で?本当にスライムを倒しに行くのか?」


「仕方ないでしょ。なんか、一応狩ってきたもの一回見せにこいって言ってたし」


「ああ。お前があまりに弱そうだから、俺がついててもスライムにやられて死なないか心配らしいからな」


「陛下って、面倒見が良いわよね」


「ああ。いい人なんだよ」


「この指輪、高そうだけどなんの効果もないわよ?本当に国宝なの?」


「……宝物殿の管理人を問い詰める必要があるな」


「すり替えられても気付かないのね」


「本当に、いい人なんだよ」


「嫌いじゃないわ」


 なんだかんだ喋ってるうちに、森の入り口までやってきた二人。奥に行く程強い魔物が出現するが、スライムを狩るぐらいなら、入り口近くで十分だ。


「さーてと。手頃なスライムはいるかなぁ」


 言うなりくるくると木の延べ棒を回すライア。だが、不自然な程静まり返った森は、スライムの影も形も見えない。


「妙だな。普段なら三分に一回は魔物に遭遇するのに」


「面倒だから、誘き寄せる?」


「止めろ。魔物の巣窟でそんなことをして、モンスターパレードが起こったらどうする」


「えー、じゃあスライムが出てくるまでここで待ってないといけないの?私、今日も朝早かったからもう眠たいんですけど。チャッチャと倒して帰りたいわ」


 ブツクサ文句を言うライアを呆れた顔で眺めるレイク。


「仕方ないな。取りあえず森の奥に向かっていくか」


「賛成。スライムじゃなくても、一番最初に倒した魔物を持っていけば良いんじゃない?」


 ◇◇◇


「おお勇者ライアよ!よくぞ戻った!見事スライムは倒せたか?」


「……あー、申し訳ありません陛下。今日はなぜかスライムが一匹も見当たらず」


「それでよもや帰ってきたと申すか?おお勇者よ!魔物を倒さずに尻尾を巻いて逃げ帰ってくるとは情けない!」


「あ、いや、一応別のものを狩ってきました」


「おお、そうか。お主なりに努力はしたのだな。して、ウサギでも狩ってきたのか?」


「いや、ドラゴンを」


「……鹿?」


「いや、なんで鹿なんですか?好きなんでしたら今度狩ってきますけど。なんか、あの森に住んでたドラゴンが目覚めたみたいで。他の魔物が怖がって出てこなかったんですよ」


「……ちなみにどんなドラゴンだったか、聞かせて貰っても?」


「あー、なんか、妙にゴツゴツした真っ黒の奴ですね。普通のドラゴンの5倍位の大きさの。いきなりブレス吐いてきたからあったまきて、木の延べ棒でぶん殴ってやったら大人しくなりました」


「……それ、魔王じゃね?」


 国王の小さな呟きに目を見張るライア。


「まさかっ!弱かったですよ!」


 しかし、隣に控えていたレイクはキリッと宣言した。


「勇者ライアは、見事暗黒の森に眠る竜魔王を討伐!フルボッコにした後、改心したので舎弟に加えました!」


「マジか……」


「マジです……だから言ったでしょう?コイツにとって魔王討伐など取るに足りないものだと。褒美なんて飴玉でもやっときゃいいんですよ。むしろ調子に乗るので、コイツに無用な権力を与えてはいけません」


「……本当にあれが魔王?と言うことは……見事魔王を倒したんだから、約束の褒美を貰える……」


 ライアの言葉にギクリと肩を震わせる国王。


「まさか、国王陛下ともあろうお方が、約束を違えたりはしませんね?」


 にっこり微笑むライア。レイクはそれみたことかと肩を竦めている。


「んん。ゴホンっ!よろしい!これより勇者ライアに男爵位並びに、暗黒の森を領地として与える!」


(ふーん男爵か。まぁいいわ。あまり高い身分なんて貰っても面倒なだけだし)


「暗黒の森を領地としてってことは、森にあるもの全てを私の物にして良いってことですよね?」


「……魔王が復活した今、どうせあの森はそなたの許可がないと立ち入れぬのであろう?」


 あら、陛下ったら意外と賢い。そうなのよね。一応人間に害をなさないように躾て来たけど。私以外がテリトリーに入ったらまた暴れるかも知れないから念のため近寄らないようにって忠告しようと思ってたのよね。


「まぁ、ドラゴンのブレスに耐えられる自信があるなら、チャレンジしてみるといいかも知れませんね」


「―――立ち入り禁止を周知しておこう。その代わり、事故のないようしっかり治めるように!」


「はいっ!畏まりました!それで、肝心の……」


「そうさな。レイクはどうじゃ?そなたたちは幼馴染みで気心も知れているようじゃし」


「はぁ?」


「……『はぁ?』ってなんだ。はぁって」


「いや、レイクは結構です。もっとお金持ちの甲斐性のある旦那が良いです」


「レイクには後継者のいない老齢の辺境伯からのたっての願いにより、この度辺境伯の地位と財産、さらには広大な領地を全て譲り受ける予定だが?」


「……ほう」


「辺境伯の土地では、それは見事な牛や豚を多数育てておってな。あと、メロンと言ったか。世にも珍しい甘い果物や他にも新鮮な野菜が唸るほど採れるらしいぞ……」


「唸るほど……仕方ありませんね。レイクで手を打ちましょう」


「よし!似合いの二人じゃ!」


「マジか……」


 ◇◇◇


「くっそ、騙されたっ!」


「騙された言うな」


「何がメロンよっ!焼け野原じゃないの!」


 早速美味しいメロンを収穫しようとはるばる辺境伯領まで来たと言うのに、肝心のメロン畑はグリフォンが我が物顔で占領していた。


「数年前から辺境伯領にグリフォンが住み着いたらしくてな……」


 グリフォンもまた、ドラゴンと同じように魔物のトップオブトップ。なす術もないほどの強大な存在。それはもはや災害だ。


「鳥めっ!私のメロンを奪った罪。万死に値するわ」


 しかしライアは、グリフォンにツカツカと近付くと「くぉらっ!ここは私の畑よっ!こっから出てけーっ!」


 と大声で叫びながら木の延べ棒をブンブン振り回す。当然、『グゲェェェ』と恐ろしい鳴き声を上げながら襲い掛かってくるグリフォン。だけどライアには……


「無駄よ。この私にかすり傷一つ付けられやしないわ」


 完全無欠の鉄壁ガード。女神の祝福により、死までも凌駕すると言われるほどの超結界は、全ての魔法攻撃と物理攻撃を当社比三倍にして跳ね返す。


 その上愛し子を攻撃されたことに怒った精霊たちが、全属性の魔法による一斉攻撃を仕掛けてくる。


『グ、グギャ……』


 気が付けば瀕死のグリフォン。倒れた魔物は、なぜ自分が死にそうになっているかさえ、分からないのだ。


「俺はどっちかと言うと、魔王よりお前のほうが怖いわ」


「か弱い女の子に向かって失礼ね!」


「お前がか弱いのは見た目だけだ」


 ◇◇◇


「と言う訳で陛下!レイクの領土は焦土になっていて金持ちとはほど遠いので、別の男を紹介してくださいっ!」


「おい」


「そうさな。ライト伯爵領に最近オークの群れが……あと、リード公爵家の別荘が吸血鬼の住みかになっているという噂も……」


「陛下?もしかして婿を紹介するという名目で、私に厄介な魔物退治をさせたいだけでは?」


「ほっほっほっ……」


「殴りますよ?」


「やめろ」


「勇者ライアよ!そなたの活躍をこれからも期待しておるぞ!」


 ◇◇◇


「あーあ。なんだかんだ勇者になっちゃった。これからもあれこれ言いつけられるかと思うと面倒くさっ」


「本当に、なんでお前が勇者に選ばれたのか甚だ疑問だな」


「ガチャみたいなもんかしら?私は平和に生きたいだけなのにさ」


「まぁ、諦めろ。俺もできるだけ手伝ってやるから」


「はぁ。私ののんびりスローライフがぁ」


「これまでだって、散々一人で魔物を退治してきただろ?でもお前が名乗りでないから全部別の奴の手柄になってんだよ。お前は勇者として正当な評価を受けるべきだ」


「別にいいもん。名誉なんて腹の膨れないものに興味ないし。全部あんたの手柄にしなっていったのにあんたもたいがい強情よね」


「お前の手柄を掠めとるようなダセェまねできるか」


「真面目か」


「うるせえ」


 これまでも、人知れず魔物を討伐して国を守ってきたライア。なんだかんだお人好しの彼女は、困ってる人を見過ごすことなどできない。だが、レイクには正当な評価を受けずに飄々としているライアが歯がゆかった。


 彼女こそ、誇り高き勇者にして、精霊の愛し子。憧れて止まない光。誰もが待ち望んだ尊い奇跡の存在だというのに。


「……お前こそ、なんでそんなに勇者になるのが嫌なんだ?」


「そんなの、モテないからに決まってるでしょ?どこの世界に自分より強い女が好きな男がいるのよ。私の夢は可愛いお嫁さんなんだから」


 真っ白な可愛いドレスに花冠。小さい頃から憧れるのは、可愛い花嫁衣装を着たお嫁さんだ。


「だったら俺が貰ってやるよ」


「はぁ?」


「俺が、お前にとびきり可愛い花嫁衣装着せてやる」


「同情なんていらないけど」


「お前の鈍さも国宝級だな。いつかお前の横に立ちたくて、必死に努力してここまで強くなったんだよ」


「マジか……」


「マジだ」


 弱っちかったレイクは、実力で強くなった。来る日も来る日も修行に明け暮れて。なんの加護も祝福も持っていないのに。


「かっこいいじゃん」


 ライアはにやりと笑う。


「いいよ。一面のメロン畑で、結婚式をあげよう。とびきりおいしいパンを焼くから、とびきり美味しいメロンを作ってよね!」


「まかせとけ!ついでに旨い肉も焼いてやるよ」


「最高か!」


 こうして誉れ高き騎士団長と可憐な勇者は、今日も魔物をぶったおしつつ、結婚式に向けて領地の復興を頑張っているのでした。


 おしまい



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