ダイエットとはなんですか?

 とある町外れの研究所。中年の博士が独り言を呟く。

「ダイエットを始めてみたはいいものの、全然痩せんなぁ」

 博士はズボンを腰まで上げようとするも、入らない。

 それをみた人工知能搭載人型ロボ『エル』が博士に言った。

「ダイエットとはなんですか?」

「人間が意図的に痩せようとすることだよ、エル」

 エルは更に訊く。

「何故、痩せようとするのですか?」

「健康の為だったり、見た目の改善の為だったり。理由は人それぞれだ。もっとも私の場合は、健康診断に引っかかってしまった故だがな」

「私は、痩せる必要があるでしょうか?」

 エルはまだ「自分の体は人間の肉体とは違う」ことを理解していないようだ。

「んー、痩せる必要はないよ。なにせ……機械の身体だからな」

「必要がなくても、ダイエットをすることはできますか?」

「自分が機械だろうがお構いなしか……うむ。分かった。一緒にダイエットをしよう」

「了解しました、博士」

 こうして、博士とエルのダイエットが始まったのだった。

 二人はまずジムに向かった。

「ここなら、豊富な設備で効率的に痩せることができる、と、思う」

「なるほど。それでは博士、どの器具を使いましょうか?」

「そうだな……手始めにあのランニングマシンからやるか」

 二人はマシンのスイッチを入れ、走り始めた。速度は時速七キロから八キロ、八キロから九キロと、どんどん加速していく。開始十分程経った頃、博士はすっかり息を切らし、マシンの速度についていくのがやっとになってきた。

「エル……ちょっと……休憩、しないか?」

 エルは腿をしっかりと上げ、ウイン、ウインと、一定のリズムでペースを乱さず走っている。

「博士は開始十分二十秒でリタイアですね。記録します」

 博士はマシンの端に足を置いて息を混じらせながら話す。

「リタイアって……そんな……言い方……ないよね……」

 顔色ひとつ変えずに走るエル。彼女はロボットだから、表情が一定なのは当たり前のことなのに、何故かその体力が羨ましく見える。

「おい、あの女すげえぞ」

「一定のペースだ……!」

 周りの人達が段々とエルに注目の視線を向ける。

「ねぇ……別のやつ……やらない……?」

「了解しました」

 次なる目標はベンチプレス。

 ここでもエルは軽々とダンベルを上げ、余裕そうだった。

「あ、私もう無理」

「博士、三分四秒でリタイアですね。記録します」

「あの……そのリタイアっての、やめてくれるかな?」

 そう言ってる間でも、エルはダンベルを上げ下げし続ける。

「五十、五十一、五十二」

「エル、そろそろバッテリーが……」

 休憩しながら横で見ていた博士がエルに呼びかける。

「五十三、五十四」

 そして彼女が「五十五」を言いかけたとき、ピタッと彼女の動きが止まった。

「あ」

 博士はその後、一時間半かけて、体重が七十キロあるエルをおんぶして研究所へと帰ってきた。

「はぁ……これが一番疲れたかもしれん」

 博士はそっとエルを充電器にセットし、すぐに就寝した。

「痩せんなぁ」

 次の日、博士は体重計の上でそう呟いた。

「朝の牛丼が原因と思われます」

 エルは冷たく言い放つ。

「あぁ、ばっさりと……」

「私の体重も気になります。計らせてください、博士」

「え、あぁ……良いけど」

 博士は落ちを分かっていた。エルが体重計にゆっくりと乗ると、液晶には「70kg」の文字。

 エルはその結果をまじまじと凝視したあと、言った。

「痩せませんね」

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