第71話

「まっ、」



しようとしたら、コノエくんが何か声を上げた。



そこでやっと目を下に向けて、あたしは首を傾げる。



目が合うと、ハッとしたように彼は視線を下げ、



「ど、こ行くわけ…?」



と、ぎこちなく言う。


息遣いを落ち着かせようと、少しだけ声を潜めた言い方で。





「………」



「なんで何も言わないんだよ」



「………だって、コノエくんが喋るなって言ったから」



「っ、それは…」



「それに近寄るなって言ったから、」



移動しようかと思いまして、と。



あたしはその場から離れようとしていた、


つもり、だったのだけれど。




「っ俺が言ったからって、」



「……?」



「だからって…、別に言うこときかなくてもいいじゃん…!」



顔を上げたコノエくんと、薄暗闇の中で目が合う。



彼の言っていることは随分と矛盾していた。



さっきまでは近寄るなと言っていたのに、離れようとしたら、俺の言うことは聞くなと。


正直、彼が何と葛藤しているかは勘づいてはいるけれど。

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