キレイじゃない百合短編

ゼロ

私とラブドール

私はエマという、クラスメイトの女の子が好きだ。


そして、私もまた女だ。


女の子、というほどのなりはしていない。


エマちゃんは、容姿端麗でスポーツ万能と、アニメとか漫画のラブコメ等で言うところの、主人公、または主人公の彼女とかの立ち位置にいるような人間だ。


対して私は、ラブコメの登場人物で言うなら、名前もなきモブB。Aですらない。


根暗で、コミ症で、陰キャで……だからか、入学したときから、キラキラしていたエマちゃんが、他の人より輝いて見えたのかもしれない。


入学したての最初こそ、綺麗とか、可愛いとか、遠くから彼女を見て思っている程度だったのだが、最近は彼女に対しての欲が溜まってきてしまって……


「カシャッ」


あ、っと変な声が漏れる。


シャッター音を消し忘れていたようだ。


「どうしたの?何で写真?」


陰キャ仲間がそう聞いてきた。


「い、いや、スクショだよ」


「あーなるほどね」


必死に考え、思いついた言い訳でこの場はやり過ごす。


そして、スマホの画面に写ったエマちゃんを見る。


今日も可愛い。笑顔が可愛い。何もかも可愛い。


この笑顔を私に向けてくれたら……なんて考えたりもする。


でもいいんだ。今日ついに届くから。


私は、スマホの画面を切り替えて、通販サイトのページを見る。


そこには、「本日到着」という文字があった。



家に帰ってみると、早速大きな段ボール箱。


心臓の鼓動を噛み締めながら、カッターで丁寧に箱を開けていく。


そして、保護材をポイポイと捨てたら、ようやくご対面だ。


「うわぁ……」


思わず声が出る。


私の目線の先には、体育座りのように体を折り畳めた少女の姿。


そう。これはラブドールだ。


そしてなんと、オーダーメイドで、エマちゃんに極限まで近づけた、最高の一品。


これを買うために今までバイトしてきて、これを買うために今まで生きてきた、と言っても、もはや過言でもない。


ゆっくりと、段ボール箱から人形を取り出すと、まるで本当の人の裸かのような見た目に、私の興奮は抑えきれない。


これで、エマちゃんの盗撮写真を使うこととも少なくなる。


そして何より、どんな玩具よりも興奮する玩具が、私の手に入ったことが、嬉しくて仕方なかった。


早速、今夜はこれを使うことにした。



「あ〜、これヤバイ」


私は、人形に思いっきり抱き着いた手を離して、びちゃびちゃになったベッドをティシュで拭く。


もうこれはエマちゃんでいいだろう、というぐらいの、完成され尽くしたこの人形に、私は何度も興奮させられた。


それどころか、今も片方の手が止まらない。止まろうともしない。


今一度、人形の顔を見ると、無性にキスがしたくなって、思いっきり人形の唇に私の唇を押し付ける。


そして、また私の中で絶頂が訪れる。


これの繰り返しを、もう何回したかわからない。


ただ、もう時計の針は1を指していた。


この日を境に、私は毎日寝不足になることとなる。



今日も早く帰って、したい。


そんな事を考えていた、ある日の昼休み。


急に陰キャ仲間が近づいてきた。


「あんまり大きな声では、言えないんだけどさ」


この手の謳い文句から始まるこの人の言葉は、大抵他愛もない話だ。


「なに?」


特に興味もないが、少しぐらい興味があるような、ないような、曖昧な相槌を打つ。


「エマさんと拓哉君……付き合ったんだって」


「えっ……」


その声は、驚きの声ではない。どちらかと言うと、感嘆の声に近い。


「何その反応?もしかして拓哉君のこと気になってたの〜?」


ちょっと茶化すように言ってくる、彼女の声なんか、今の私の頭の中に、入ってくるわけがない。


「いや……」


「そっちじゃない」なんて言えるはずもなく、まるで、男の方を狙っていたかのような反応になってしまった。


「ふ〜ん」


いや、別にそんなことはどうでもいい。それよりも……



「ガチャ」


勢いよく自室のドアを閉める。


「なんで……」


誰もいない一人の部屋で、そうポツリとつぶやく。


そして、隠しておいた人形を押し入れから取り出し、ベッドに強引に寝かせる。


「なんで男なんかと……」


「なんで」なんて誰かに聞かなくても、なんでかは、最初からわかっている。


それが普通だから。


でも、それが許せない私の心の中。


「……っ!」


気がつくと私は、人形に向かって平手打ちをしてしまっていた。


パチンという音とともに、人形の頭が少し曲がる。


「あっ……」


やってしまった。


決して、高いモノを傷つけてしまったとか、そんな浅はかなものではない。


「ご、ごめん……」


人形が聞く耳を持つわけもないが、とっさにその言葉が出る。


そして、人形のためだけに買った、エマちゃんの私服と同じ服を、人形からそそくさと脱がしていく。


「ごめん、ごめんなさい……」


下着を脱がす。抱き着く。キスをする。いつも通りの流れ。


「あれ……?」


そんなことをしている間に、私は虚無に陥ってしまった。


なんで私は、こんなことをしているのだろうか。


なんで私は、たかが人形とセックスごっこをしているのだろうか。


少し考えてみる。


そしたら、案外すぐに答えは見つかった。


簡単だ。エマちゃんとするためだ。


でも、エマちゃんは私なんかとしてくれるのだろうか?


これも簡単だ。してくれないなら、襲ってしまえばいい。


奪ってしまえばいい。そのほうがエマちゃんも幸せだろうし、よくわからないぽっと出の男よりも、私のほうがエマちゃんのことをよく知っているし。


そして、男なんかのこと全部忘れて、本物のエマちゃんも、この偽物のエマちゃんのようになってしまえばいいのだ。


「それなら」


あとは話が早い。


今からするラブドールとの行為は、決して私の自己満の行為ではない。


エマちゃんを幸せにしてあげるための、いわば予行練習だ。


そう考えると、なんだか一気に体が軽くなってきた。


私はいつものように、彼女の下半身に手を伸ばして、彼女の手を私の下半身に伸ばさしていく。


やっぱり、今夜もあまり寝れなそうだ。

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