キレイじゃない百合短編
ゼロ
私とラブドール
私はエマという、クラスメイトの女の子が好きだ。
そして、私もまた女だ。
女の子、というほどのなりはしていない。
エマちゃんは、容姿端麗でスポーツ万能と、アニメとか漫画のラブコメ等で言うところの、主人公、または主人公の彼女とかの立ち位置にいるような人間だ。
対して私は、ラブコメの登場人物で言うなら、名前もなきモブB。Aですらない。
根暗で、コミ症で、陰キャで……だからか、入学したときから、キラキラしていたエマちゃんが、他の人より輝いて見えたのかもしれない。
入学したての最初こそ、綺麗とか、可愛いとか、遠くから彼女を見て思っている程度だったのだが、最近は彼女に対しての欲が溜まってきてしまって……
「カシャッ」
あ、っと変な声が漏れる。
シャッター音を消し忘れていたようだ。
「どうしたの?何で写真?」
陰キャ仲間がそう聞いてきた。
「い、いや、スクショだよ」
「あーなるほどね」
必死に考え、思いついた言い訳でこの場はやり過ごす。
そして、スマホの画面に写ったエマちゃんを見る。
今日も可愛い。笑顔が可愛い。何もかも可愛い。
この笑顔を私に向けてくれたら……なんて考えたりもする。
でもいいんだ。今日ついに届くから。
私は、スマホの画面を切り替えて、通販サイトのページを見る。
そこには、「本日到着」という文字があった。
◇
家に帰ってみると、早速大きな段ボール箱。
心臓の鼓動を噛み締めながら、カッターで丁寧に箱を開けていく。
そして、保護材をポイポイと捨てたら、ようやくご対面だ。
「うわぁ……」
思わず声が出る。
私の目線の先には、体育座りのように体を折り畳めた少女の姿。
そう。これはラブドールだ。
そしてなんと、オーダーメイドで、エマちゃんに極限まで近づけた、最高の一品。
これを買うために今までバイトしてきて、これを買うために今まで生きてきた、と言っても、もはや過言でもない。
ゆっくりと、段ボール箱から人形を取り出すと、まるで本当の人の裸かのような見た目に、私の興奮は抑えきれない。
これで、エマちゃんの盗撮写真を使うこととも少なくなる。
そして何より、どんな玩具よりも興奮する玩具が、私の手に入ったことが、嬉しくて仕方なかった。
早速、今夜はこれを使うことにした。
◇
「あ〜、これヤバイ」
私は、人形に思いっきり抱き着いた手を離して、びちゃびちゃになったベッドをティシュで拭く。
もうこれはエマちゃんでいいだろう、というぐらいの、完成され尽くしたこの人形に、私は何度も興奮させられた。
それどころか、今も片方の手が止まらない。止まろうともしない。
今一度、人形の顔を見ると、無性にキスがしたくなって、思いっきり人形の唇に私の唇を押し付ける。
そして、また私の中で絶頂が訪れる。
これの繰り返しを、もう何回したかわからない。
ただ、もう時計の針は1を指していた。
この日を境に、私は毎日寝不足になることとなる。
◇
今日も早く帰って、したい。
そんな事を考えていた、ある日の昼休み。
急に陰キャ仲間が近づいてきた。
「あんまり大きな声では、言えないんだけどさ」
この手の謳い文句から始まるこの人の言葉は、大抵他愛もない話だ。
「なに?」
特に興味もないが、少しぐらい興味があるような、ないような、曖昧な相槌を打つ。
「エマさんと拓哉君……付き合ったんだって」
「えっ……」
その声は、驚きの声ではない。どちらかと言うと、感嘆の声に近い。
「何その反応?もしかして拓哉君のこと気になってたの〜?」
ちょっと茶化すように言ってくる、彼女の声なんか、今の私の頭の中に、入ってくるわけがない。
「いや……」
「そっちじゃない」なんて言えるはずもなく、まるで、男の方を狙っていたかのような反応になってしまった。
「ふ〜ん」
いや、別にそんなことはどうでもいい。それよりも……
◇
「ガチャ」
勢いよく自室のドアを閉める。
「なんで……」
誰もいない一人の部屋で、そうポツリとつぶやく。
そして、隠しておいた人形を押し入れから取り出し、ベッドに強引に寝かせる。
「なんで男なんかと……」
「なんで」なんて誰かに聞かなくても、なんでかは、最初からわかっている。
それが普通だから。
でも、それが許せない私の心の中。
「……っ!」
気がつくと私は、人形に向かって平手打ちをしてしまっていた。
パチンという音とともに、人形の頭が少し曲がる。
「あっ……」
やってしまった。
決して、高いモノを傷つけてしまったとか、そんな浅はかなものではない。
「ご、ごめん……」
人形が聞く耳を持つわけもないが、とっさにその言葉が出る。
そして、人形のためだけに買った、エマちゃんの私服と同じ服を、人形からそそくさと脱がしていく。
「ごめん、ごめんなさい……」
下着を脱がす。抱き着く。キスをする。いつも通りの流れ。
「あれ……?」
そんなことをしている間に、私は虚無に陥ってしまった。
なんで私は、こんなことをしているのだろうか。
なんで私は、たかが人形とセックスごっこをしているのだろうか。
少し考えてみる。
そしたら、案外すぐに答えは見つかった。
簡単だ。エマちゃんとするためだ。
でも、エマちゃんは私なんかとしてくれるのだろうか?
これも簡単だ。してくれないなら、襲ってしまえばいい。
奪ってしまえばいい。そのほうがエマちゃんも幸せだろうし、よくわからないぽっと出の男よりも、私のほうがエマちゃんのことをよく知っているし。
そして、男なんかのこと全部忘れて、本物のエマちゃんも、この偽物のエマちゃんのようになってしまえばいいのだ。
「それなら」
あとは話が早い。
今からするラブドールとの行為は、決して私の自己満の行為ではない。
エマちゃんを幸せにしてあげるための、いわば予行練習だ。
そう考えると、なんだか一気に体が軽くなってきた。
私はいつものように、彼女の下半身に手を伸ばして、彼女の手を私の下半身に伸ばさしていく。
やっぱり、今夜もあまり寝れなそうだ。
キレイじゃない百合短編 ゼロ @2r0_zro
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