現代知識を武器に異世界をゆっくり革命！～元・天才科学者の少女、運命を切り拓くほのぼのファンタジー～

第1話「新たな世界、新たな私」

　薄暗い部屋の中で、小さな少女が目を覚ました。周りを見回すと、粗末な木造の壁に囲まれた質素な部屋。窓から差し込む柔らかな光が、埃っぽい空気を照らしている。

「ここは……どこ？」

　少女は呟いた。しかし、その声は彼女自身のものとは思えなかった。幼い、か細い声。混乱する頭の中で、記憶が少しずつ整理されていく。

　私の名前は月村綺羅。27歳。大学で化学を研究していた。そう、あの日、実験室を出て……。

「交通事故……私、死んだの？」

　綺羅は自分の体を見下ろした。小さな手、細い腕。明らかに子供の体だ。鏡を探してみると、そこには11歳くらいの少女の姿が映っていた。長い黒髪、大きな瞳。でも、確かに自分だ。

「異世界転生……か」

　綺羅は冷静に状況を分析した。前世の記憶、そして膨大な知識が彼女の中に残っている。これは珍しいケースだと理解していた。

　部屋を出ると、そこは小さな孤児院だった。他の子供たちが好奇心旺盛な目で彼女を見つめている。

「あら、目が覚めたのね」

　優しそうな中年の女性が近づいてきた。

「私はマーサよ。ここの管理人。あなたは森で倒れているところを見つかったの。名前は覚えてる？」

　綺羅は一瞬躊躇したが、すぐに決意を固めた。

「はい、覚えています。私の名前は月村綺羅です」

　マーサは少し驚いた様子で眉を上げたが、すぐに優しい笑顔を見せた。

「珍しい名前ね。でも、とても素敵よ。さあ、他の子たちに紹介するわ」

　その日から、綺羅の新しい人生が始まった。孤児院の生活は決して楽ではなかったが、前世の知識を活かして少しずつ周りの環境を改善していった。

　野菜の保存方法を提案したり、簡単な石鹸の作り方を教えたり。最初は奇妙がられたが、その効果が目に見えて現れると、周りの子供たちや大人たちも彼女の言葉に耳を傾けるようになった。

　ある日、綺羅は近くの森で珍しい植物を見つけた。それが薬効のある植物だと気づき、早速マーサに報告。その植物から作った薬が、当時流行っていた風邪の症状を和らげるのに効果があることがわかると、綺羅の評判は一気に広まった。

　そんな中、綺羅は同い年の少女、エリーゼ・グリーンリーフと出会う。村長の孫娘である彼女は、綺羅の知識に興味を持ち、すぐに親しくなった。

「ねえ、綺羅。あなた、どうしてそんなにいろんなことを知ってるの？」

　エリーゼの無邪気な質問に、綺羅は少し考えてから答えた。

「私ね、昔、とっても賢い人に教えてもらったの。その人の教えを、みんなのために使いたいんだ」

　エリーゼは目を輝かせて頷いた。

「すごい！　私も綺羅みたいになりたい！」

　綺羅は微笑んだ。この世界で、自分の知識を活かせる場所がある。そう確信した瞬間だった。

　月日は流れ、綺羅は10歳になった。彼女の評判は村中に広まり、困ったことがあると、大人たちでさえ彼女に相談するようになっていた。

　綺羅は決意した。この村を、自分の力で少しずつ良くしていこう。そして、いつかこの世界の謎を解き明かそう。

　新たな冒険の幕開けだった。