トランス島奇譚

石田ヨネ

第1話 ヘソ出しの清楚スタイルのファッション



 生命体とは、その遺伝情報のディスプレイ (表現)されたものであり、それが生物なのである。生命体すなわち有機体 (organism)は、無機体 (inorganism)を組織化するノウハウを遺伝情報 (DNA)としてもっているものである。このDNA生物は、その遺伝情報に基づいて細胞を創生し、個体を構築する。その方法はすべて物理法則に準拠している。


 

** 『分子生物学』より




          ■■ 1 ■■



「ーーえ、ぇ?」 

「は?」


 と、ほぼ同時に発したドン・ヨンファの声と、パク・ソユンの声が、


「「何、これ?」」


 とのところで、重なった。

 ここは、おそらく北と南の間くらいの緯度の、ある洋上の島。

 二人の、見上げた先――

 それは、高さにして50メートルくらいか?

 ヒトガタの――、それも、膝をついたセクシーポーズをとった女の像そのものといった、奇怪にして、およそ趣味のいいとはいえない建築物だった。

「何これ? 趣味わる」

 パク・ソユンが、ジトッとした目で言った。

 なお、こそのパク・ソユンだが、中華メイクの整った顔に、パールつきのカチューシャーー

 同じく白を基調とした肩だし、かつヘソ出しの清楚スタイルのファッションと、モデルと見紛うほどの容姿である。

 まあ、実際に、モデルとしても活動をしているのだが。

「趣味わるいって、ソユンがいうのかい?」

 ドン・ヨンファが、ヘラヘラした様子で言った。

 なお、このドン・ヨンファだが、キノコヘアに黄色のド派手なスーツという、奇抜なファッションをしていた。

「は? 何? 私が趣味悪いってこと?」

「い、いやっ! そ、そんなことは言って! ぎ、ぎゃぁぁっー!!」

 気に障ったのか、パク・ソユンがドン・ヨンファに詰め寄りながら、ヘッドロックをかける。

 また同時に、異能力を使ってだろう――、その手を丸鋸へと変化させ、首元に当ててみせた。

 ちなみに、このパク・ソユンであるが、猟奇モノだったりグロ映画といった動画を、パソコン上に多重に開いては無表情で永延と視聴するという、趣味が悪いといわれても仕方のない趣味を持っている人間なのだが……


「ぎぎぃんッ!! か、勘弁! 勘弁てくれ! ソユン!」

「……」

 パク・ソユンは謎の女体建築を眺めたまま、もがくドン・ヨンファを解放してやる。

「ゲホゲホ!」

 と、背中を丸くして咳きこむドン・ヨンファの横、

「……」

 と、まだ、パク・ソユンは建物を見ていた。

 そこへ、

「と、とりあえずさ? ゲホ、ゲホッ……! な、中に入ろうぜ、ソユン? ホテルのほうに、部屋に、荷物を置きたいし」

 と、ドン・ヨンファが、息を落ちつかせながら促した。

「そうね……」

 パク・ソユンは答える。

 いちおう、この“建築物”はホテルでもあるようだった。

 そうして、二人は歩き出す。


 ――ゴゴゴ……


 と、聳える、ヒトガタの建築。 

 その、髪の部分は、まるでDNAの二重螺旋が回転するごとく――

 何か、少し不気味にも、幻惑的に見える。

 そうした中、


「……」


 と、パク・ソユンは、“それ“が何かは今のところ分からなかったが、ナニカの予感がしたのか、ジッ……と、建物を見続けていた。

 その一、二歩先を歩くドン・ヨンファが、

「はぁ……、僕は船旅で疲れたからね。カジノ行く前に、少し寝たいね」

 と、こちらを見ずに話しかけるのを、聞き流しつつ。

 それで、本題である。

 そんなパク・ソユンとドン・ヨンファの二人が、どうして、この奇怪な島へ来たのか?

 ここから少し、振り返ることにするーー


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る