第12話
「ご存じかと思いますが私はアルバート皇太子殿下の婚約者になったのですよ。色々とやらなければならないことが山積みですので早めにこの話し合いを終わらせたいです。……折角ですからレイモンド様に決めていただきましょう。レイモンド様、公爵家の跡取りの座を降りるのとそれ以上に重い罪にされること、どちらがよろしいですか?私はどちらでも構いませんよ」
「……それ以上に重い罪、とは?」
「まだ考えてないです。いくらでもありますから。労働刑、身分剥奪、処刑……言い出したらキリがありません」
普通に考えて跡取りの座を降りるのが一番だと思うのですが……だって跡取りの座を降りさえすれば他はなかったことにすると言っているのですし。公爵家の嫡男なのですから血筋や家柄、金銭などを求めて不祥事があったとしても婿入りさせたいと考える家も少なくはないでしょう。肩身の狭い思いはするかもしれませんけれど、そこは私の知ったことではありません。
「少し考える時間をもらえないか?」
「構いませんよ。それでしたら少しお話でもしましょうか。皆様は少しの間、席を外していただけないでしょうか?護衛はそのままで」
「分かった」
ありがとうございます、と静かに出て行ってくださるお父様たちに頭を下げ、皆様が出て行かれたことを確認して再びレイモンド様に向き合います。
「私が勝手に一人で話しますので無視してくださって構いません。その間に考えてくださいな」
「ああ」
随分と大人しくなりましたね。理由に心当たりがないわけではありませんが……
「私は貴方に無能と言いました。ですがそれはここ数年の話です。レイモンド様は記憶にないかもしれませんが学園に入るまでは今ほど貴方の態度も悪くなかったのですよ。嫌われているのはよく分かりましたがそれでも公爵家の令息としては文句の付け所がなかったのです。あ、上から目線で話していますけれどそこはお気になさらず」
「…………」
「振る舞いも教養も、王族に劣らないくらいには完璧でした。私以外の女性には紳士的でしたしね。態度だって悪くても不誠実とまではいきませんでした」
ですが学園に入学して、あの男爵令嬢と関わるようになってから明らかに私に対する態度が悪化したのですよ。それを見た周囲の方々も彼を避けるのでお二人の関係を知った方もほとんどが注意しない。気が付いたら今のようになってしまっていました。
そもそも入学する以前に、彼が私を嫌い始めた頃。ちょうどその頃から私はレモーネ家に花嫁教育で通っていました。人が人を嫌うには必ず理由があると私は思っています。
何となく苦手、というだけな相手もその何となくの理由があると思うんですよ。容姿、性格、話し方……色々ありますよね。私はあまりにも態度が悪いのでレイモンド様が嫌いになりました。結局何が言いたいのかというと、彼にも私を嫌いになった理由があると思うのです。
「俺はお前が嫌いだから嫌いなんだ。理由はない」
「そうですか」
きっかけ、私は心当たりがありますけれど。あくまで男爵令嬢は追い打ちになっただけ。私の勝手な想像に過ぎませんが──元凶はレモーネ公爵夫人。レイモンド様のお母君でしょうね。
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