異文化デートは通訳なしで
バイト終わりの神社にて、私は普段はしない神頼みをしていた。どうにかして明日までに、ペラペラまでいかなくてもいいから、英語がわかるようにならないかなー……ならないよなあ……あーぁ……英語力欲しい……。
「ごほん。吾輩をお呼びかな?」
神殿から声がした。
「か、神さま⁈」
「まあ、そんなところだ。しばし待て」
神殿から出てきた神さま(仮)は、灰色の猫の姿をしていた。
「いったいどんな事情なのだ?」
「え〜と、明日、インスタで知り合った海外のモデルさんと一日観光することになって……あ、インスタだけじゃなくTiktakもやってる人なんですけど……DMで地元を案内してほしいって言われて……」
「いんすた? ちっく……?」
神さまはSNSに弱いらしい。
「英語圏の人にガイドしてほしいって言われたんですけど、英検三級なので助けてほしいです!」
「I
なんかすごそう! でも神さまなのに私が英語喋れるようにはしてくれないんだ……。うまくやらないと変な子だって思われるし。う〜ん。まあ五百円だし、しょうがないかな。私の時給半分以下だもん。
🐥💰😸
「ウェルカム、ミス・ケプラー。アイム、トリイ ミヅキ!」
地元の駅には場違いな、浅黒い肌を大胆に魅せたファッション。風になびく栗色のロングヘア。彼女こそ、私がインスタで知り合ったモデル、ユーリエ・ケプラーに違いなかった。
"I'm
「セ、センキュー!」
どうしよう! 英語で挨拶したら、英語で返ってきた! そりゃそうか! でも聞き取れないよ〜。私の腕の中で、普通の猫です、みたいな顔してる神さまに助けを求めると、耳打ちされた。
「こう言うのだ。"Ah,
「ちょっと待って! アー、ミス・ケプラー、ザプレ……」
「ユー、聞こえてるよ、ネコちゃん。誰の発音がユニークだって?」
なんだ、日本語喋れるんだ! DMでは翻訳機使ってるっていってたから、てっきり喋れないのかと。
「いや、妙な発音ではあるだろう。吾輩はイングリッシュにはそこそこ精通しているのだが」
「オー、ブリティッシュの友達はいるけど、ユーみたいに失礼なのは初めて! ネコちゃんなのに、発音がオットセイみたい! オゥオゥオゥ!」
“H
「ムキーッ!」
「シャーッ!」
神さま(仮)には七百円でお帰りいただいた。
😾💢👽
「さ、ブリカスもどきには帰ってもらったことだし、ミヅキの地元を見せてね!」
「は、はい、ケプラーさん。でも私ほんっとうに英語苦手で……普通の女子高生だから、面白い話できないかも」
「オー、敬語やめて、ユーエリって呼んでよ。ファミリーネームは気に入ってるけど、さん付けはサミシイの。日本語はOK、バット読み書きと敬語はニガテ。フランクにいきましょ。ユーとワタシ、もう友達でしょ?」
「うん、ユーエリ」
「ジャパンのジョシコーセー、スーパークールよ! ありのままのミヅキを教えてよ。ユーはどんなことが好き!? ワタシ、たくさんの事知りたいな!」
二人で見る町は、いつもよりおしゃれに見えた。サングラスにハイヒールで大通りを闊歩し、自撮りをバッチリきめるユーエリは、やっぱりモデルさんだ。私も、身長高いから読モやったら? なんてイツメンに言われたことあるけど、本物は違う。栗色のロングウェーブ、きれいだな。私も髪のばしてみよっかな。
駅前のゲームセンターに、本屋さんに、ブティックのウィンドウショッピング。歩きまわって疲れたので、コーヒーショップで一休みすることにした。
「ねえユーエリ。今日の写真、ストーリーに載せていい? 身内しか見ないやつだから」
「モチロン!」
ユーエリに写真を選んでもらって、ストーリーを投稿した。
「そういえば、ブリカ……ネコちゃんは載せなくてイイの?」
「神社にいた喋る猫の話とか、頭おかしくなったのかと思われるでしょ。というか、ユーエリは猫が話しても、驚いてなかったね!」
「宇宙にヒューマンがいたんだから、ネコが話してもノットサプライズよ」
「ユーエリは宇宙人を信じてるの?」
「ま、まあソンナトコロ」
へえ。ユーエリって意外とロマンチストなんだぁ。店の中なのでサングラスをとって剥き出しになった、青い瞳が動いてる。ガラス玉みたいで、すごく綺麗。
「ミ、ミヅキは英語が苦手なんだヨネ。得意な科目は?」
「数学だよ! 暗算が得意なんだ。授業も数学が一番好き」
「ファンタスティック! ワタシも演算が得意! ワタシたち似てるね!」
「演算なんて大したことしてないけど……えへへ、そうかなぁ」
美人に仲間扱いされて、悪い気はしない。ユーエリとおしゃべりするの、楽しいな。
「ねえねえ、ユーエリは彼氏いるの?」
「ボーイフレンド? アメリカで数人付き合ったけど、……バッドフィーリングというか」
「えー! もったいない! いいなー、私も彼氏欲しい……」
本当に、切実に、欲しい。彼氏とゲーセン行ってプリクラ撮ったり、バイト終わりに待ち合わせしたり、私の手料理振る舞ったり……とにかく青春したい! キラキラしたい!
ユーエリがリアクションのいい聞き手だったから、私は彼氏ができたらしたいことについて長々と喋った。たぶん、ところどころ通じてなかったけど、通訳の神さま(仮)がいなかったら、できない話だ。だって恋バナは女子会の華! 偏屈猫はお呼びじゃないのだ。
「ミヅキのボーイフレンド・ドリーム、とっても素敵」
「でしょ?」
思わず食い気味になった私を、ユーリエは軽く制した。
「一つサジェスチョンがあります」
「サジェスト?」
「惜しい。提案ってコト」
「なぁに? 提案って」
ユーリエは栗色の髪をふぁさっとかきあげた。思わず見惚れてしまうくらい、美しかった。
「ワタシのガールフレンドになりませんか?」
「……えええええええ!」
🐥🩷👽❓
ユーリエの提案はシンプルだった。
ユーリエは今までの彼氏が肌に合わなかったので、彼女を作ることに興味がある。ユーリエは私の彼氏ドリームをほとんど叶えることができる。実際、今日のデートは、すっごく楽しかった。だから、お試しで付き合わない?
たしかにそうだけど。そうだけど〜!
「ちょ、ちょ、ちょっと考えさせて!」
ドキドキしながらそう言うと、ユーリエは余裕たっぷりにウインクして見せた。
「オーケー! ムリジイしないよ。ゆっくり考えて」
なんかこっちばっかり意識している気が、と思っていると、ユーエリが急に顔を寄せてきて……頬に軽く、唇が触れた。
「ふふ、こんなのアメリカ式の挨拶ね。もっとスゴイのは、ミヅキがオトナになったらしましょ!」
〜〜〜! お、大人になるまで持つかな⁈ 私の心臓!
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