異世界で女神と結婚して幸せ新婚生活

岸馬きらく

第1話 勢いが大事

 俺、加藤学(かとうまなぶ)は死んだ。

 生前は名前にある通り、親から無理やり勉強をさせられて、おかげさまでそこそこ有名な企業に就職した。


(よっしゃ!! 死ぬほど勉強嫌だったけど、大企業に入ったのだからあとは人生薔薇色だ!!)


 なんてことには微塵もならなかった。

 大企業だからってホワイトなところばっかりじゃない。

 旧態依然とした社風で、新人はこき使われた。

 仕事も全然好きにはなれず、ストレスは溜まるばかり。

 残業して休日出勤して……。

 そして、寝不足で注意散漫になっていたところを暴走した車に撥ねられて死んだわけである。


「あー、楽しいこと全然してねえ。何のために今までやりたくもない勉強やったんだよああああああ!!」


 俺は地面をゴロゴロと転がった。

 意味などない。

 気持ちのやり場が無かったから、なんか転がりたかったのである。


「ん? なんで死んだはずなのに、体があって転がってるんだ?」


 俺はふとそんなことに気づいて周りを見た。

 どこまでも続く真っ暗な空間だった。

 と、その時。


 パア!! と眩い光が暗闇に現れた。


「うお眩しっ!!」


 光の中から一人の女が現れる。


ーー初めまして、加藤学さん。私は女神アイリス


 自分のことを女神だと名乗ったその女。

 しかし俺は疑うことはしなかった。

 何せ雰囲気が人間離れして神々しい。

 純白の衣装に身を包み、世界全てを見通すかのような眼差しをこちらに向ける姿は一目でこの世のものではないと分かる。

 女神は話を始めた。


ーーアナタは本来死ぬはずのなかった人。運命のバグで苦労を重ねてきたのに報われずに死んでしまいました。なのでアナタには『天界憲法第七条』に従い、別の世界で第二の人生を歩んでもらう機会を与えることにしました。


「……」


ーーアナタが第二の人生を送るのは、中世くらいのファンタジー世界です。そして今回はこちらに手違いが原因ということですから、アナタに何でも一つ望みを叶える権利が与えられます。


「……」


 話し始めた女神だったが、俺は半分も話を聞いていなかった。

 なぜなら。


(……女神可愛すぎないか?)


 目の前にいる女神に見惚れていたからである。

 美人でありながら優しげで可愛らしい顔立ち。

 サラサラと流れる金色の長い髪は、それだけで一種の芸術品のよう。

 スタイルはこの世のものとは思えないほど良く豊満な胸と括れた腰、そして腰からの美しい曲線を描いて肉付いたヒップ。

 口にする声は、讃美歌のように優しく耳に心地よい。

 要するに、アホみたいに俺の好みなのであった。

 結婚したい。


 ーー望めばなんでも手に入ります。あらゆるタイプの魔法を身につけられるスキルや、絶対に攻撃のダメージを受けないスキル、無限にアイテムを生み出せる魔法の袋、史上最強の使い魔……他にも……。


 ほとんど話を聞いていない俺を他所に、解説を続ける女神。

 そこで俺はあることに気づく。


「ん? 待てよ? なんでもいいのか?」


 ゆっくりと厳粛な動作で頷く女神。


 ーーはい。なんでもです。


 まじかよ。

 俺は女神の方に歩み寄ると、その手を取った。


「じゃあ、俺と結婚して一緒に来てください」


 ーーなるほど、それがアナタの望みですか。


 女神は最初、それまでと変わらぬ厳粛で神々しい雰囲気でそんなことを言ったが……。


「……ふええ!?」


 何を言われているかようやく認識したのか、目を見開いて顔を真っ赤にした。

 ポンと湯気が出そうである。

 さっきまで女神然としてたのでギャップが凄い。

 かわいい。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 アワアワと手を振る女神。


「俺じゃ嫌かな?」


 そう聞いてみた。まあ、実際会ったばかりだし。


「いえ……私、真面目で誠実な人が好きなので、アナタの生前どんな人だったかは確認してますから……別に嫌というわけでは」


 まあ確かに勉強ばっかさせられて、あんまり変な遊びとかしなかったしなあ。

 彼女もできたことなかったし……。

 それがこの人に好印象に映ったなら、あの人生も損ばかりじゃなかったかも。


「本当にいいんですか、何でも願いが叶うんですよ!?」


「君以上に欲しいものが無い」


「そんな熱烈に!?」


 俺は素直にそう言うと、女神はまた顔を赤くした。


「……えー、こんなことあるんですか? どうしたら……でも、願いは叶えないといけないし……」


 頭を抱えてウンウンと唸る女神。

 しばらく、そうやって悩んでいたが。


「……わ、分かりました。アナタと結婚します。女神に二言はありません」


「マジで!! よっしゃー!!」


 俺はバンザイして喜ぶ。


 ーーでは、ここからは私が引き継ぎますね。


 また別の声が聞こえてきた。

 現れたのは別の女神だった。スレンダーで小柄だけど、見た目も小動物っぽくて非常に可愛らしい。


 女神って皆んな美人なのかな。まあ、俺の嫁……アイリスが一番だと思うがな!!


「スクルド!?」


「はあ……先輩寿退社ですか……」


「ごめんなさいね。負担かけることになっちゃって」


「いいですよ……はあ、いいなー。あのお局ババアの嫌味聞かなくて良くなるなんて……ずるいなー」


「え、その、ほんとにごめんなさい……」


 心底申し訳なさそうに謝るアイリス。

 ……なんか女神たちの仕事場も複雑なんだろうな。


「いいですよー。あーもう、私も、転生者誘惑しちゃおうかなあ」


 そんなことを言いながらスクルドが指をこちらに向ける。

 すると、俺とアイリスの足元で魔法陣が現れて光り出した。


「行ってらっしゃい。新婚さん。せいぜい中世の不便さとかで、険悪な仲になったりすればいいんだわ……けっ、お幸せに」


 異世界への転送が始まったということだろう。


「今更だけど、本当に良かったの?」


 俺はアイリスに改めて聞いてみる。


「言ったでしょう? 女神に二言はありません。その代わり……」


 アイリスは俺の手をとって言う。


「ちゃ、ちゃんと幸せにしてくださいね……」


 小さな声で猛烈に照れながらそんなことを言ってくる。


(……萌っっ!!)


 俺も思わず顔が赤くなってしまう。


「ああ、もちろんだよ。アイリスさん」


 俺はそう断言してみせた。

 別に自信とか無いけど、こういう時は虚勢でも自信満々なフリするべきだって会社の先輩が言ってた。


「呼び捨てでいいですよ。私夫は立てるつもりなので」


「そうなの? じゃあ、よろしく。アイリス」


「はい」


 俺たちは手を繋いだまま、新しい世界での新婚生活に向けてスタートしたのだった。


ーーー

前に勢いで書いた作品。

続きを書くかは正直微妙なところ……

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異世界で女神と結婚して幸せ新婚生活 岸馬きらく @kisima-kuranosuke

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