灰色の特異点

お汁粉サイダー

第1話鋼鉄の楽園「ガーデン」

 今日も陽が昇った。午前5:00。鋼鉄の塀から陽光が漏れ出すと、彼らは一斉に目を覚ます。


薄暗い部屋の中で、黙々と支度が進められる。


5:05-布団を畳む。5:11-全身の洗浄。

5:20-制服着装。


ここまで終わると、ぼやけた蛍光灯の灯す、奥の見えない廊下にズラリと並んだドアから一斉に、黒を基調とした軍服と帽子に身を包んだ男女が現れる。


彼らは一糸乱れぬ動きを見せて廊下を進み、白いコンクリートに包まれた大広間へと辿り着く。


5:25-朝食


一人一つトレーを持って一直線になり、米から汁まで順番に取っていく。

全て取ったら一番奥の端の席から詰める様に座っていく。

全員が席に着いたら、一言も発さずに食べていく。


食事が終わると一斉に立ち上がり、また一直線になって片付けていく。残飯は無く、汁一滴も残さない。


大広間から出ると、そのまま直進し外の運動場を目指す。

橙色から白色に変わり始めた陽の光の下に、運動場の中心に規則正しく縦100人横100人が並ぶ。

正しく並び、足音が消える。

すると、目の前の朝礼台の様な所に彼らと同じ軍服を纏う男と、その横に佇む女が現れる。


6:00-点呼


一日で最初に口を開くのは朝礼台横の女。


「A-001」


すると、列の最後尾右端から、


「A-001、ここに。」


と、返事が聞こえる。


「A-002」


「A-002、ここに」


「A-003」


「A-003、ここに」


これを全員、A-001からJ-100の一万人を全て確認する。

今回は全国遠征に行っている部隊もあったため八千人程度だった。

この間、彼らは一つも動かない。これは嵐の中でも雪の中でも変わることはない。


 点呼が終わると、朝礼台の上の、胸元に数え切れないほどに飾られた勲章を垂らした男が腕を後ろに組む。彼の番号は「Z-999」。軍隊の最高司令官を任されている。


陽が高く昇った頃、最高司令官が大声を張り上げる。


「『ガーデン』のォォォ!心得ェェェ!其の一ィィィ!」


すると彼らは表情ひとつ変えずに静かに答える。


「『ガーデン』の心得其の一、国家の平和維持のため、日々任務を遂行せよ。」


「心得其の二ィィィ!」


「『ガーデン』の心得其の二、国家の安全保障のため、弛まず精進せよ。」


「心得其の三ンンン!」


「『ガーデン』の心得其の三、我々に感情は必要ない。冷酷に『星屑スターダスト』を駆逐せよ。」


応答が終わり、4~5秒の静寂が走った後に、


「今日も素晴らしい一日を。」


と告げる。すると彼らは一気に解散する。各自持ち場に着くため、寄り道、無駄話ひとつせずに運動場を去っていく。


7:00-常設任務開始―――





 ―――ここは「ガーデン」。「星屑」という地球外生命体が侵攻している現在、その脅威から国家を守るために特殊な力を用いて敵を駆逐する軍隊「ピース」の拠点として創られた組織である。

星屑の目的は分からず、ただ市民や建物を襲う。奴らとは意思の疎通を図ることができず、武力行使を余儀なくされている。


ガーデンは東京の沖に置かれ、隊員達は任務が無い限り外へ出てはならず、コンクリートと鋼鉄に囲まれた空間からは離れることが出来ない。

ただ国家のために星屑の駆逐に尽くす駒達の駐屯地である。

彼らに感情なんてものは必要ない。この空間でそんなものを持っても無駄でしかないからだ。それ故、ここにいる隊員一万人は完全に人間としての感情を失い、国のためだけに命を賭ける機械と化していた。




***




 「星屑発生。A部隊10名は直ちに東京西方面へ向かえ。繰り返す。星屑発生。A部隊10名は直ちに東京西方面へ向かえ。」


ガーデン内に放送が響き渡る。A部隊に該当するピースは薄暗い廊下を走り、即刻ガーデンの西出入口を目指す。

人数指定がある場合は先着順となる。

A-040という灰色の髪の兵士も、頭にAとあるため該当する。

彼は無駄も隙もない動きで戦闘準備を整え、西出入口へ向かい、10人目に辿り着いた。そこでピース用の黒色をした大型の車に全員で乗り込んだ。


感情のない兵士達は、車内でも私語は無い。本当に必要不可欠な会話以外言葉は発さない。

彼らは皆人間であるから隊員の年齢、体格は様々で、髭を伸ばした老骨もいれば、ガタイの良い青年もいる。

ただ、それがきっかけで会話が発生することは無い。



 「星屑を確認。各員、直ちに殲滅を開始しろ。」

都市の大通りに車が急停止し、運転手からの命令が出た。

乗員が勢いよくドアを開ける。そこに広がったのは、昆虫の様に触覚を伸ばし、羽の生えた生命体が複数と、それらが取り巻く様に練り歩く巨大なカマキリの様な生命体が一体。

星屑は、この様に動物や昆虫に似た形状が多い。


ピースは各自武器を身につける。一般的には機関銃。あとは腰につけた護身用のサバイバルナイフ。今回のピースは機関銃8名(援護兼雑魚処理)、剣2名(大型星屑特攻)。

灰色の髪のピース、A-040は剣を所持している。そのため、もう一方の特攻役と共にカマキリの星屑に突撃する。


こうして、東京西側に出現した星屑の駆逐任務が遂行される。

この任務を境に、このA-040の運命は大きく変わり出す。

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