第7話 記憶

 薄闇の中、怯える女の表情は、どんな美味い料理よりも、どんな刺激的な映画よりも彼を満足させた。

 全身を駆け上る快感。疲労する程の興奮──。

 それは脳を甘く痺れさせる。

 

 白く細い首に手を伸ばす。


 見開いた眼から零れる涙のなんと美しい事か。

 

 安心して。美しく飾ってあげる。

 君が、生まれてきて良かったと、心から思えるほどに美しく。

 ちょっぴり残念なのは、最も美しい自分の死の瞬間を自分で見られない事だが、そこは黙っておこう。


 彼にとって殺しは、特別な食事を作ることと何ら変わらなかった。

 頑張ったご褒美に、以前から目を付けていた食材で、ワインを飲みながら良い肉にナイフを入れる。

 それと同じだ。

 それをより楽しむために、テーブルコーディネートに凝る。

 料理を飾り付ける。

 だが、写真などは撮らない。

 自分の目に、そして心に焼き付けておく。

 それもいつか消えてしまうかもしれない。


 でも、その儚さが尊いのだ──。


 彼は己の手を濡らす赤黒い血を、グラスに受けた。

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