第6話

「えっ?」


 変に具体的な数字に、二人はびっくりした。


「何の時間?」


薄々勘づいていたが、カルパがクエタに確認した。


「多分~、残りの時間~」

「どうしてわかるの?」

「だって~、それ~」


 クエタが指したのはテーブルの、小さい円の方だった。


 そこの切れ込みの内側が少し上昇したのは、フィトもさっき確認していた。


「それ~、下に動いてるよ~」


「本当か?」


フィトは小さい円に近づいて、じっくり見た。


「―いや、かすかに回っている気はするが、下がってるか?」


「そりゃわかるはずないよ。5日半でその高さを動くってことは、1日で0.5mmくらいってことでしょ?時速で0.02mm、秒速で0.06μmだよ?人が捉えられる数値じゃないよ!」


「そうなの~?でも~、そう見えるけど~」


「そんなに離れたところから?」


カルパがクエタに疑い目を向けた。


 だが、その目が見たのはもっと他のものだった。


「―んん?クエタ。目、光ってない?」


「マジか?そんなことある?」


フィトものぞき込んだ。


「―ホントだ。光ってる」


 クエタの両目は、何を照らすでなく、眼球全体から淡い光を放っていた。


 ただ、確実に自身の視界には入っているはずだが、クエタ本人はそのことを知覚できていなかったようで、


「え~?ボクの目~光ってるの~?」


と 言うと、思わぬ展開に2人の顔を見比べ、目を白黒させた。


「あっ、消えた。どうしてだろう」


 消えたのは、小さい円から目を離した瞬間だった。


 それを見て、カルパが考え始めた。


「何~?ボクに何かあったの~?」


不安がっているクエタ。


 するとすぐに、カルパが答えを出した。


「…そうか。それがクエタが受けた〈霊験〉なんだ。それで微細な変化も観測できるんだよ!」


カルパが鼻息荒く言った。


 そして、クエタの席のテーブルを確認した。


「この絵!この絵が示しているのは〈目〉…かな?…なんか違うね…」


 〈目〉というヒントを得てなお、そこに描かれているものはわからなかった。


「そういえば、オヤジさんはそれ、なんだって結論づけたんだ?」


「えっ?あの人は…」


 カルパはフィトの問いかけに答えようとしたが、ふと口ごもり、途端に顔を真っ赤にした。


「―あの人は、違うことを候補に挙げているよ。父親の名誉のために詳しくは言えないけどね」


「ふ~ん。じゃあ、わからないな。で、カルパはどうして赤くなってるんだ?体調でも悪いのか?」


「ううん。大丈夫だよ。ちょっと2人にはまだ早いことが頭をよぎっただけだから」


「なんだそれ。…まあ、いいや。ちなみにオヤジさん、オレのはなんて?」


「フィトはやっぱり〈腕〉みたいだね。何か変化はない?力が強くなってるとか」


 言われてフィトは、手をグーパーさせた。


「そんな感じはしないな…。ちょっと貸して」


クエタの網を借りて持ち上げてみた。


「―うん…別段軽いとも思わないし…」


「もっと重い物を持つと発現するかもしれないよ。クエタだって常にってわけじゃないし」


「重い物?このテーブルとか?…よいしょ」


 フィトが、テーブルを持ち上げようとしたが、ビクともしなかった。


「全然駄目だ」


「腕~、光んないね~」


「じゃあ何だろう。…細かい作業とかは?」


「例えば?」


「小さい物に字を書くとか」


「字かぁ。何か書くものあるか?」


 カルパもクエタも首を横に振った。


「じゃあ、ひとっ走り行ってくるか」


「えっ?今から取りに帰るの?」


「試してみないとわからないだろ?」


「もっと他に試してみることが…」


「何を試すんだ?」


「まだ思いついてないけど」


「なら考えておいてよ。10分で帰るから。他に何かいるものは?」


「今は何も」


「あ~、母さんがクッキー焼くって言ってたから~」


「OK。ついでに寄ってくる。あっ、そのリンゴ、食べてもいいよ。それじゃあ」


そう言うとフィトは走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。


 テーブルには、食べかけのリンゴが残されていた。カルパが膨大な情報の流入に苛まれていた間、フィトが食べていたりんごだ。


 そんなリンゴをカルパは手に取り、しゃくりと一口かぶりついた。

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